ブラック・バード/ドナルド・バード

   

R&B感覚で気軽に聴ける

おそらくは映画の影響なのだろう、今年は(2004年)モータウンが脚光を浴びている。

引き金となったのは『永遠のモータウン』という映画だ。

私も見に行ったが、もう、なんというか、快楽の嵐ですね。押し寄せるサウンドがとっても気持ち良いのです。

身体の芯を、あるときはソフトに、そして、あるときはハードにシェイクしてくれるリズムとコーラスとアンサンブルには、踊り出したいというアクティヴな気持ち良さもある反面、ソファなどにダラリと深く沈み込み、「えへへへへ~」と口もとをニヤけさせながら、全身の力をダラリと抜き、脱力の境地でいたいというダウナーな魅力もあるのですよ。

当時のモータウンミュージックをリアルタイムに聞いていた人からしてみれば、青春の思い出とともに、快楽的なモータウンサウンドが蘇るらしく、いいオッサンが「ああ、もう、たまらないっす!!」な世界らしい。

実際、固めな文体と“鋭め系”な論評で知られる某ジャズ喫茶のマスターですら、この映画の感想にいたっては「涙!涙!涙!最高っす!」なわけですから(笑)。

もちろん、モータウンをリアルタイムで聴いていない世代にとっても、この映画は刺激的な題材らしく、10代後半や20代のグルーヴ好き、ソウル好きも随分と映画館に足を運んでいると聞いた。

この映画をキッカケに、将来、もっともっとソウルに溢れるプレイヤーがあらわれてくれるといいですね(とはいえ、あんまり気安く“ヨー!”だの“リスペクト”だのな言葉を連発するとバカ丸出しっぽいのでやめて欲しくはあるんだけどね。

というわけで、ドナルド・バードの『ブラック・バード』なのだが、

えーと、モータウンじゃありません(笑)。

モータウンと関係の無い音楽で、レーベルでいえば、ブルーノートです。
でも、まったく脈絡が無いわけでもなく、個人的には、そう、まったく私の個人的なフィーリングなんですが、これ聴くとモータウン的な気持ち良さを感じるのですよ。

ジャズファン、というより硬派な“オンリー・4ビート・ファン”からは、「こんなん、ジャズじゃねぇ!一緒にするなっ!」という声が聞こえそうだし、生粋のモータウン好きからは「モータウンと一緒にされてもなぁ」と困った顔をされそうだ。

たしかに、4ビートか4ビートじゃないかといえば、4ビートの演奏じゃありません。
で、マーヴィン・ゲイやスティーヴィーのようなソウルフルなヴォーカルがのっかるのかといえば、乗っかりませんね。
ヴォーカルやコーラスさんは参加されてますが、あくまで、曲に色を添えるコーラス以上の役割は担ってません。
さらに、モータウン的なパワフルでちょっと猥雑なフレバーがあるのかというと、『ブラック・バード』の演奏は、もうちょっと上品かつ丁寧にまとまっています。

でも、やっぱり共通した“暖かさ”、というより“温(ぬく)さ”が共通して感じられるんだなぁ。

たぶん、モータウンのフィーリングや、アース(・ウインド・アンド・ファイア)の柔らかくもツボを得たアレンジが好きな人は、ドナルド・バードの『ブラック・バード』のフィーリングもバッチリ合うに違いない。と、思っている。

ジャズを知らん、敷居が高いぜ、と思っている若いリスナーさんは、古典的レアグルーブの超名盤として捉えておくれやす。

トランペッターのドナルド・バードが、自分の教え子たちと結成したグループによるアンサンブル。
まるで肩こりをマッサージしてくれるような暖かなサウンド。
ツボを抑えまくりな、ポップなメロディ。
ノスタルジックなフルート。
ポップで比較的あっさりと知的なアレンジ。
でも、クるんだよなぁ、ジワッと。
私の“夕焼け心”と涙のツボをキュッとつねるような心憎いメロディ、アレンジ、サウンドなのですよ。

私は、ドナルド・バードは、トランペットのプレイよりも作編曲のセンスを買っている。

同じブルーノートの『ニュー・パースペクティブ』という、女性コーラスが加わったアルバムにせよ、代表作の一枚に挙げられる『フュエゴ』で聴けるナンバーにせよ、ゴスペルの香りが濃厚に漂ってくる。
ブルージーというよりは、ゴスペルタッチの作曲が得意なトランペッターなのだと思う。

そして、編曲のセンスも、非常にゴスペルライクだ。

ソウル・ミュージックも、古くはゴスペルに影響を受け、商業的成功をおさめたトミー・ドーシーの曲が源流の一つにあることは確実で、ソウル・ミュージックに流れる気分やムードも、ゴスペルの影響を色濃く受けている。

そんな流れから、ゴスペル・フィーリングを携えたバードの作る曲やアレンジは、必然的にソウルミュージックなテイストになるのだろう(もちろん、4ビートをプレイしているバードのトランペットも味わい深いが)。

そして、このアルバムで聴けるバードのアレンジは、ゴスペル特有の泥臭さと、都会的な洗練具合が丁度良いバランスを保っている名アレンジになっている。

冒頭の飛行機が着陸(離陸?)するようなシーンを思い出してしまうようなサウンドには、これから始まる気持ちの良い世界に、否が応でも期待感が高まることだろう。

ジョー・サンプル、ハーヴィー・メイソン、チャック・レイニーといった一流のリズム隊の参加も魅力。

ヴォーカルもソウル畑から引っ張ってきたプロデューサー、アレンジャー、ヴォーカルのラリー・ミゼルだ。

さぁ、ソウル好き君はショップに走れ!

ブルーノート史上記録的なセールスというのも頷ける(1972年ビルボードで36位を記録)。

発売当時は“ジャズ”のアルバムという領域を超えて、大ヒットを記録したそうだ。

分かるような気がする。

つまり、ジャズファン以外も購入したから、ヒットしたのだろう。ジャズに興味のない層にもアピールするだけの、掴みの良さは、たしかにあるし、この気持ち良さは、ジャンルの垣根をあっさりと越えている。

いわゆる4ビートの演奏はないので、「ジャズは4ビートに限る!」というジャズファンの方には、眉唾もののアルバムかもしれないが、ジャズという枠を超えて、ブラック・ミュージックが好きな人には、あるいは、単純に気持ちよ良い気分になれる音楽を求めている人にとっては、たまらない内容なのではないだろうか。

かくいう私もジャズとしては聴いていないし、このアルバムは私にとっては「ただただ単純に気持ちのいい」アルバムなのだから。

それにしても、ジャケット写真の左のほうにあるフレットつきのウッドベースはいったいなんなのだろう?

記:2004/06/13

album data

BLACK BYRD (Blue Note)
- Donald Byrd

1.Flight Time
2.Black Byrd
3.Love's So Far Away
4.Mr.Thomas
5.Sky High
6.Slop Jar Blues
7.Where Are We Going?

Donald Byrd (tp,flh,el-tp,vo)
Fonce Mizell (tp,vo)
Roger Glenn (fl,sax)
Joe Sample (p,el-p)
Fred Perren (el-p,syn,vo)
Dean Parks (g)
Wilton Feilder (el-b)
Hervey Mason (ds)
Bobbye Porter Hall (per)
Larry Mizell (vo,arr)

Recorded at the Sound Factory,Los Angels,
1972/04/03 &04
On all other selections:
David T. Walker(g) replaces Dean Parks
Chuck Rainey(el-b) replaces Wilton Felder
Stephenie Spruill(per) replaces Bobbye Porter Hall

Recorded at the Sound Factory,Los Angels,
1972/11/24

 - ジャズ