悪徳就活塾の手口~「就活家族」第2話を観て

   

悪徳就活塾

『就活家族~きっと、うまくいく~』というドラマには、「国原就活塾」という就職活動がうまくいかない学生たちを指導する塾が登場します。

塾長の国原耕太は新井浩文が演じていますが、「やり手」なムードと「怪しい」雰囲気がうまく共存していて、「社会の裏を知っている一筋縄ではいかない男」風のテイストを醸し出していて、なかなかいい感じです。

この塾に、主人公である富川洋輔(三浦友和)の息子、富川光(工藤阿須加)が、親に内緒で学生ローンを組んで通いはじめるのですが(ローンを組んだことは1話ですぐバレますが)、姉の富川栞(前田敦子)からは、「悪徳就活塾」と言われていますね。

では、この「悪徳」就活塾では、どんな指導をしているのかというと?

竹の子剥ぎ商法

まず、この塾のビジネスモデルは「竹の子剥ぎ商法」ですね。

「竹の子剥ぎ商法」というのは、風俗店などによくある「ぼったくり」の手口の一つです。

たとえばコンパニオン(キャスト)が服を1枚脱ぐと別料金。お触りも別料金……というように、なにか新しいサービスに発展するたびに追加料金が発生します。

入場料は安くしておき、客を安心して店内に連れ込んだ後は、じつはその後の追加のオプション料金で、客の有り金を巻き上げる商法で、それがまるで「竹の子をはぐ」ようなので、こう呼ばれているわけです。

ちなみに、「国原就活塾」の入塾代と指導料は30万円です。

しかし、テキスト代は別です。

「就活家族」の第2話では、薄い中綴じの小冊子が生徒たちに配られ、「いいかお前ら、このテキストは別料金だ。月末までに1万円振り込んでおけ」と新井浩文が生徒たちに言い放ちます。

「30万円ポッキリじゃないんですか?」という抗議に対しては「お前、契約書読んでないのか?」の一言で黙らせてしまいます。

塾・予備校では当たり前な手法

もっとも、この「竹の子はぎ」的な「教材・オプション別料金」なシステムは、あたかも「国原就活塾」が悪そうな描写になってはいましたが、これって世間の塾や予備校では当たり前の手法です。

つまり、夏期講習・冬期講習・正月集中特訓のような「講習」や、「合宿」のようなオプションは別料金に設定しているわけです。

ですので、某大手有名予備校に通っていた医学部の女子に聞いた話だと、高校3年生のときに予備校の説明員(営業マン?)からは「1年間でかかる授業費は60万前後です、よその予備校よりもだいぶ安いです」と言われて入ったものの、結局、1年間でかかった費用は120万円以上だったそうです。

それは、先述したとおり「講習」のようなオプション料金が加算されたからです。

月謝や入塾費の安さを謳っているところほど、執拗な「講習受けろ」攻勢がかけられることが多いです。

「医学部に受かる生徒は、だいたいこれぐらいの数の講座を取ってるのに、君は取らないでいいの?」とか、「●●大学に受かりたいなら、15講座以上受けるのは当たり前だよね?」というような勧誘をされるのです。

おまけに大手予備校は、夏期講習や冬期講習の時期には授業がありません。

「夏は受験の天王山。夏に頑張らないと第一志望に合格できない大切な時期だけど、うちは夏の間は普通の授業ないじゃない? 夏期講習を受けないで自宅や図書館で勉強するだけで成績上がると思う?」

「受験直前の1月は授業がないけど、冬期講習も受けずに何するの?」

こういわれると、生徒も、親も弱いです。

最初に提示されたお金よりも、さらにお金がかかるなと思いながらも、もうここまで来てお金をケチったがためにわが子の大学受験が失敗することを恐れて、しぶしぶ講習や合宿などの「オプション料金」を振り込むわけです。

ひどいところになると、いや、これは実際に、全国的に有名な理系や医学部に強い某大手有名予備校に息子を通わせている人から聞いた話ですが、「先にお金を振り込んでください、もし受けなければ残金は戻しますから」と予備校から連絡があったそうです。

その人の子どもが勧められた冬期講習の講座の数は16講座!

1講座2万円だとすると32万円、3万円だとすると48万円です。

冬休みの間に16個も授業を受けるのはいいけど、その授業の予習や復習をする時間はあるの? 赤本(過去問)などを解く時間はあるの?って感じですよね。

塾や予備校のような民間の教育機関は、講習や合宿などの「オプション」で稼ぐビジネスモデルになっているわけですね。

トッピングで稼ぐ、うどん屋チェーンと一緒です。

大手の予備校は、5月末の時期から「予約受付中」と夏期講習のポスターを貼りだすところもあります。

早めに宣伝、早めに営業、早めに申し込ませせて、早めに入金。
そして、この収益が社員のボーナスに反映されるわけです。

もちろん予備校や塾によって社員の評価基準は様々ではありますが、「どの大学に合格させたか」「どれぐらい生徒の学力を伸ばしたか」という実績よりも、「どれだけ生徒に講習を売ったか」が社員の査定基準になっているところも少なくありません。

つまり、塾や予備校といえども民間企業であり、その民間企業を運営するための「血液(=お金)」をガンガン入金させる「営業力」のある人材が、高い評価を受けることも珍しいことではありません。

ですので、「学生時代に家庭教師のバイトをしていて勉強を教えるのが上手だった」とか「子どもと一緒に過ごす時間が何よりの喜びです」などと言っている人材は、面接ではあまり重要視しないところも多いそうです。

なに眠たいこと言ってるんだよ、こちとら商売なんだよ。子ども達と笑顔で過ごしたいならボランティア活動でもやってろよ、とね。

むしろ、「以前勤めていた会社では、営業成績がトップでした」というような人こそが、塾・予備校にとっては喉から手が出るほど欲しい人材というわけですね。

だからかもしれません、学校と違って予備校の職員は、海千山千っぽい独特な雰囲気を漂わせてる人が多いのは。

ですので、そのような現実の塾・予備校の実態を知れば、「悪徳就活塾」と呼ばれている「国原塾」など、そんなに「悪徳」に思えてこなくなります。
多くの塾・予備校の商売形態が「竹の子剥ぎ商法」だからです。

経歴作り

国原塾では、自分を良く見せるためにボランティアを「利用」して経歴を作れ、という指導をしていました。

もっとも、これは大学受験においても、特にAO入試や公募制推薦など、面接がある試験の場合は、ボランティアや福祉活動をした生徒のほうが有利になるということもあり、学科試験ではなく面接や小論文で大学に合格したい生徒は、高校1年生や2年生のうちから、大学から高い評価を受けようとボランティア活動をすることが当たり前になっています。

また、大学受験予備校も「ボランティア活動をしたことにしろ」と嘘の経歴を書けと指導するところすらあります。

ですので、就活のためにボランティアをさせるという国原塾の指導は、特に悪いことではないのかもしれません。

もっとも、塾生が街頭で集めた募金のお金は、塾長の新井浩文は会社の売り上げとしてせしめてしまっていますが……。

バカほど褒めろ

さて、「国原就活塾」の塾長・国原太一は、主人公の息子・光(工藤阿須加)に目をかけているようです。

「お前には期待しているぞ」的な優しい言葉をかけたりと、特別扱いをしているようなシーンが出てきます。

そして、光もその塾長からの期待に応えようと、一生懸命になります。

自室で昼間から面接で話す自己アピールの台本の朗読を繰り返し、ついには一つの企業だけではありますが、一次選考を突破します。

さて、塾長の国原耕太(新井浩文)は、特別に彼に目をかけ、心の底から就活を応援しようとしているのでしょうか?
彼のことを思って、励ましの言葉をかけたのでしょうか?

もちろん、それもあるのかもしれませんが、それ以上に、彼の心の中にあるのは「自分の会社のため」でしょう。

就活塾の実績作りのため、そして他の生徒に及ぼす影響を計算した上でのことでしょう。

どういうことかというと、これ、私が学生時代アルバイトをしていた学習塾で実際に言われたことなのですが、生徒からのカリスマ性と塾の威光を維持するためのテクニックなんです。

つまり、バカほど褒めろということです。

そう、バカはちょっと褒めると、すぐに図にのる。
しかし、良い意味で図にのってくれれば、それこそアホなので疑念を持ったり余計なことを考えたりせずに「やれ」と言われたことだけを愚直にやり続けるのです。

実際、光(工藤阿須加)は、昼間から夕方まで、ずっと自室にこもり、面接試験で話す自己アピールの台本を読みまくっていました。
そして、とりあえずは一次選考は突破しています。

そうすると、周囲の生徒たちにも良い影響が及びます。
「あいつが一次選考を突破したんだから、自分も頑張らなくては」という空気が教室に蔓延します。

「頑張らなければ」という空気が教室内を支配しはじめると、やる気を出す生徒が増えてきます。

このような生徒が増えると、中には合格する生徒も出てきます。

そうすると、「疑心暗鬼で入塾したものの、やっぱりここの塾の指導はホンモノだったんだ」と皆、納得します。

つまり、誰かかフラッグシップになる人間を選び、おだてたり、目をかけたりして一生懸命にさせ、先に実績を出させることによって、「詐欺」とか「悪徳」と言われることを事前に防ぐわけですね。

だって、誰も実績を出さなければ「やっぱりこの塾怪しい」となりますから。

実際にこの塾の指導で結果を出している生徒を輩出させれば、仮に試験に落ちまくっている生徒でも、悪いのは塾の指導ではなく、自分自身の努力不足が原因なのだと考える。

そして頑張る。
頑張れば結果が出やすい。

万が一、頑張って落ちたとしても、少なくとも塾のせいにはならない。

こういう人の心をうまくつかむテクニックに長けた塾長なんだと思います、「国原就活塾」の塾長・国原耕太(新井浩文)は。

もしかしたら、このドラマを作るにあたり、少人数制かつ怪しくグレーな雰囲気がぷんぷんと漂う塾や予備校の手法を取材したのかもしれませんね。

蛇足・あとは自分の話

実際、私も学生時代には下町の小さな学習塾の教室運営を任されていたのですが、その時は、地元の札付きのヤンキーから攻略していましたね。

出来の悪い生徒とほどコミュニケーションをとるようにしていました。

それこそお節介なほどに。

別に、こいつらヤンキー(という言葉はまだなくて、もっぱら「不良」と呼ばれていた)の将来を憂いて、何とかしなければと思ったわけではありません。

こいつらを攻略しないと教室内の空気が悪くなるし、こいつらの成績を上げれば、自分の評価が高まるゾと思っただけです(笑)。

だから、出来の悪い生徒ほど、とにかく褒めまくって、おだてて、その気にさせて勉強をさせ、アチーブメントテストで成績を何十人もゴボウ抜きにさせました。

すると、面白いことに、「あの●●君の成績を伸ばした塾って、どんな指導をしているのかしら?」と、母親たちの間で評判になるんですね。
そして、評判をききつけた母親たちから入塾や見学希望の電話が殺到するんですよ。

なんのことはない、成績が上がれば目立つだろうなと思った生徒をシゴいただけです(笑)。

最初から優秀な生徒の成績を上げても目立ちません(笑)。
だいいち、偏差値65を70に上げることのほうが難しい上に労力がかかります。

それに比べれば、偏差値30や40の勉強が出来ない生徒を50にするほうがカンタンです。

だって、簡単な基礎を仕込めばいいだけなのですから。
そして、簡単な基礎の多くは暗記です。

「暗記してこなければ、殴られるかもしれない」というムードを漂わせるだけでいいんです(笑)。

覚えたことがテストに出れば点数が取れます。
成績があがります。

偏差値30の生徒が、50にアップ。
偏差値50、つまり単に人並みの成績になっただけなのに、数字の伸び率で「おお、すごい!」と周囲は驚いてくれるわけです。

そして、この実績を利用して、「いいか、お前ら、こいつに負けないように頑張れよ」と教室で他の生徒に一喝すれば良いだけです。

あのワルの成績がこんなに伸びるなんて、自分もウカウカしてはいられないなというムードが教室内に漂いはじめれば、あとは生徒は自動的に勝手に勉強してくれます。
そして、勝手に成績を伸ばしてくれます。

そして、多くの生徒の成績をあげ、その結果入塾希望者が増え、生徒が増え、私が担当している教室の売り上げが増えたため、私は、ご褒美に何度か海外旅行に行かせてもらいました(笑)。

というような、学生時代の明るい過去(?)を、『就活家族』の第2話の「国原就活塾」の塾長を見ていたら思い出しました。

このドラマ、続きが楽しみです。

記:2017/01/22



 - ドラマ