アルフィー/ソニー・ロリンズ

   

ロリンズの代表曲

ソニー・ロリンズがRCAからインパルスに移籍して最初に発表したアルバムが、この『アルフィーのテーマ』だ。

目玉曲は、なんといっても冒頭のナンバー、ライブでの演奏頻度の高い人気曲《アルフィーのテーマ》だろう。

人気ナンバーであるとともに、《セント・トーマス》や《ドント・ストップ・ザ・カーニヴァル》とならぶロリンズを代表する1曲といってよいだろう。

映画で未使用のテーマ

このアルバムは、マイケル・ケインが主演のイギリス映画のサウンドトラックなのだが、残念ながら私はこの映画は未見だ。

とはいえ、このアルバムに収録された曲は、実際は映画に使用されていないという。

つかみ抜群の冒頭のテーマは、私が学生の頃初めてジャズ喫茶でロリンズのライブ映像で見たときも一発で虜になったし、ベースを始めて間もない初めてのライブでもこのナンバーを演奏した記憶がある。

ツカミの良い曲は、ライブのレパートリーに入れたいし、好きな曲であれば、やっぱり楽器で演奏したくなるからね。

水戸黄門的?

さて『アルフィーのテーマ』のオリジナル演奏についてだが、なんといってもケニー・バレルの1小節ソロにグッとくる方が多いのではないだろうか。

特にテーマのサビの箇所だ。

テーマのメロディを吹くロリンズとまるで掛け合いをするかのように、ギタリスト、ケニー・バレルは1小節という短い時間の中、印象的かつ効果的な旋律を奏でる。

そして、この旋律がまたニッポン人の琴線を刺激するというか、ツボにはまること必至だろう。

なぜニッポン人の心の琴線なのかというと、このマイナー調のテーマは、Aメロの下降してゆくベースラインの上に、ウワモノのメロディに水戸黄門のテーマのメロディを乗せると、非常にしっくりとはまるのだ。

♪人生楽ありゃ苦もあるさ
の部分のメロディですね。

聴き覚えのある響きの流れの上に、これまた親しみやすいメロディが乗るわけだから、一度ならず水戸黄門のテーマを聴いている多くの日本人にとっては、非常に親しみやすく感じるナンバーなのではないかと思う。

不定形なフレーズ

とはいえ、テーマが親しみやすいからといって、ロリンズのアドリブも『サキソフォン・コロッサス』のときのアドリブのように鼻歌で歌えるほどのメロディアスさかというと、じつはそうでもない。

特に同じ曲でも、ラストの《アルフィーのテーマ・ディファレントリー》のソロのほうがより顕著なのだが、一度聴いただけでは、なかなか鼻歌で真似することができない、不定形な旋律のほうが印象に残る。

これは、フリージャズが降盛していた当時のジャズシーンの影響もあるのかもしれない。

フリージャズの旗手、オーネット・コールマンの相棒のドン・チェリーと組んだ『アワ・マン・イン・ジャズ』というアルバムも発表したロリンズのこと、彼は露骨なフリー路線を歩むことはなかったが、それでも当時のジャズの潮流の中における自身の立ち位置に関しては他の誰よりも真剣に考えていたはずだ。

そして、この時期のロリンズのアドリブはプレスティッジやブルーノート時代の、掴みのよいメロディアスなフレーズよりも、不定形でたたみかけるようなフレーズの比率が高くなる。

おそらくこれまでの自分自身のプレイに「崩し」の要素を入れているのだろう。

したがって、テーマのキャッチーさとは裏腹に、アドリブ自体はかなりシビアな試行錯誤が重ねられているようにも感じられる。

豪華なサイドメン

アルバム収録曲のアレンジは、オリバー・ネルソンによるもの。

編成は10人と大所帯だが(映画音楽ということもありゴージャスな編成にしたのだろう)、ネルソン流の折り目正しいアレンジとアンサンブルといえる。

そして、アレンジが端正でメリハリが利いているからこそ、かえってこのアレンジという「檻」をはみ出そうとするロリンズの姿が耳に焼きつくのだ。

パーソネルをよく見ると、アルトサックスにフィル・ウッズが参加していたり、トロンボーンにはなにげなくJ.J.ジョンソンがいたりと、なかなか参加メンバーも豪華。

彼らの役割は、あくまで主役のロリンズを引き立てる伴奏者なのだが、いかんせん、オリヴァー・ネルソンのアレンジがキチッと生真面目だからなのだろうか、いまひとつソロ奏者としても一流な彼らの持ち味は出ていないし、もちろん彼らとて伴奏者としての参加だから、主役を食うようなことはやってはないのだが、もしウッズやジョンソンのアドリブに期待するのであれば、その線はあまり期待できないといっていいだろう。

タイトル曲以外でお勧めのナンバーは、2曲目の《ヒーズ・ヤンガー・ザン・アイ》という、まるで中学校で習った英語の比較級の例文のようなタイトルの曲が良い。

味わい深い演奏だが、その一言では片付けられないソニー・ロリンズというテナー奏者の懐の深さを感じる取れることだろう。

また5曲目の《オン・インパルス》も良い。

ジャズ・ワルツのリズムに自然に揺れるように乗り、歌心を発露するロリンズのプレイもたまらなく良い。

上記2曲、いや、それ以外のナンバーにおいてもピアニストのロジャー・ケラウェイが良い仕事をしていることも書き添えておきたい。

『アルフィーのテーマ』は、初心者には聴きやすいロリンズ入門のアルバムとしてお薦めしたいし、マニアには、キャッチーさの中にも従来の自身のスタイルからの脱皮を試みようと試行錯誤を重ねるテナーの巨人の姿を垣間見るアルバムとしてお薦めしたいアルバムだ。

記:2011/03/10

album data

ALFIE (Impulse)
- Sonny Rollins

1.Alfie's Theme
2.He's Younger Than You Are
3.Street Runner With Child
4.Little Malcolm Loves His Dad
5.On Impulse
6.Alfie's Theme Differently

Sonny Rollins (ts)
J.J. Johnson (tb)
Jimmy Cleveland (tb)
Phil Woods (as)
Robert Ashton (ts)
Danny Bank (bars)
Roger Kellaway (p)
Kenny Burrell (g)
Walter Booker (b)
Frankie Dunlop (ds)
Oliver Nelson (arr, cond)

1966/01/26

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