グレート・アメリカン・ソング・ブック/カーメン・マクレエ

   

サテン・ドール

このアルバムの冒頭を飾るヴォーカルとベースだけの《サテン・ドール》の前半がとても好きだ。

この箇所をパクらせていただいて、ステージでブルース中心のアコースティック・グループのライヴをで披露したこともある。

やがて、カーメンの「ジョー・パース!」という呼びかけに応えてギター・ソロが始まる。

艶やかで色気のあるジョー・パスのギターソロが開始されると、モノクロの世界だった演奏が、いきなり鮮やかでカラフルな世界に変貌するが、このチェンジっぷりも大好きだ。

カーメン・マクレエの入門盤にして彼女の代表作の1枚でもある『グレート・アメリカン・ソング・ブック』は、1972年にロサンゼルスのクラブ『ダンテ』でのライヴの模様が収録されている。

ライヴということもあってか、カーメンのエモーショナルな面がより前面に出ているので、「知的なヴォーカリスト」というイメージが先立ち、カーメンのことを聴かず嫌いの人でも、何の抵抗もなくアルバムの世界に入っていけることだろう。

クロース・トゥ・ユー

曲によってはカーメンがピアノを弾いているナンバーもあり、なかなか楽しいし、観客とのコミュニケーションを大切にしながらステージを組み立てていることが、映像なくともアルバムのいたるところから発せられる音だけでも分かる。

ポピュラー音楽好きの方は、カーペンターズもカバーしていたレオン・ラッセルの《ア・ソング・フォー・ユー》や、バート・バカラックの《クロース・トゥ・ユー》から聴いてみるのも良いかもしれない。

そういえば、《クロース・トゥ・ユー》も、ヴォーカルとウッドベースとのデュオから始まり、次第にドラムがかぶさり、ギターが加わり、ピアノがはいって盛り上がってゆくという流れで、冒頭の《サテン・ドール》と同じ構成だ。

いっきに盛り上がり、ラストはベースとヴォーカルのシンプルな世界に戻るのだが、演奏のダイナミクスの変化させ方が見事で、ジョー・パスを筆頭に、バックバンドの技量の高さはかなりのものだ。

このアルバムは音も良い。

特にチャック・ドマニコが発するベースの低音の色気はかなりのもの。

まるでエビが弾けるようにプリンプリンと弾力があり、しっかりとした低音の輪郭。

彼のベースが放射するエネルギーとパンチの強さが、アルバム全体を引き締め、ヴァイタルな躍動感をもたらしていることが、小音量で聴いても分かることだろう。

現在2枚組の完全盤が出ているが、これから初めて聴くという人は、曲数多くコスパの高い完全盤のほうをお勧めしたい。

もちろん、かつてレコードで買い、このアルバムを長年愛聴しているというファンも、2枚組の完全盤は音も良いし、未発表の演奏を聴けるという楽しみもあるだろう。

『アフター・グロウ』と『ブック・オブ・バラッズ』に並ぶ「カーメン3大傑作」の『グレート・アメリカン・ソング・ブック』。

ぜひともコンプリートな形で持っていたいものだ。

記:2015/08/04

album data

Great American Song Book (Atlantic)
- Carmen McRae

disc 1
1. イントロダクション
2. サテン・ドール
3. アット・ロング・ラスト・ラブ
4. イフ・ザ・ムーン・ターンズ・グリーン
5. デイ・バイ・デイ
6. これからの人生
7. アイ・オンリー・ハブ・アイズ・フォー・ユー
8. イントロダクション
9. メドレー
10. サンデイ
11. ミュージカル・アウトロ
12. イントロダクション
13. ア・ソング・フォー・ユー
14. 君に泣く
15. ミュージカル・アウトロ
16. イントロダクション
17. ビハインド・ザ・フェイス
18. イントロダクション
19. セロニアス・モンクのバラード
20. ゼアーズ・ノー・サッチ・シング・アズ・ラブ

disc 2
1. バンド・ウォーム・アップ (Bonus Tracks)
2. イントロダクション・オブ・カーメン (Bonus Tracks)
3. イースト・オブ・ザ・サン (Bonus Tracks)
4. グラッド・トゥ・ビー・アンハッピー (Bonus Tracks)
5. 君にこそ心ときめく (Bonus Tracks)
6. バット・ノット・フォー・ミー
7. イントロダクション
8. 遥かなる影
9. スリー・リトル・ワーズ
10. マイ・ワン・アンド・オンリー・ラブ (Bonus Tracks)
11. 四月の想い出 (Bonus Tracks)
12. イントロダクション
13. ミスター・アグリー
14. イッツ・ライク・リーチング・フォー・ザ・ムーン
15. 君のことばかり
16. ボディ・アンド・ソウル (Bonus Tracks)
17. セプテンバー・イン・ザ・レイン (Bonus Tracks)
18. ミュージカル・アウトロ (Bonus Tracks)

Carmen McRae (vo,p)
Joe Pass (g)
Jimmy Rowles (p)
Chuck Domanico (b)
Chuck Flores (ds)

1972/11/06

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