ブローイン・ザ・ブルース・アウェイ/ホレス・シルヴァー

   

打鍵!連打!

まずは、1曲目のタイトルナンバーで、シルヴァーのピアノの音数に圧倒される。

音数といっても、ピアノソロのパートで弾かれるメロディ音数ではない。
バッキングでの音数だ。

テナーサックスのジュニア・クックがソロを取っている間も、トランペットのブルー・ミッチェルがソロを取っている間も、とにかく和音を連打、連打、連打。

これでもか、これでもかというほどに、背後からホーンを煽りまくっている。

ともすれば「お間抜け」にもなりかねないキャッチーなテーマの《ブローイン・ザ・ブルース・アウェイ》が、鬼気迫るほどのシルヴァーのバッキングでエキサイティングな演奏に生まれ変わっているのだ。

背後から、こんなにピアノを連打されたら、もう管楽器奏者はシャカリキになって吹きまくるしかないだろう。

聖ヴァイタスの踊り

このアルバムのもう一つの聴きどころは、2曲目の《聖ヴァイタスの踊り》だろう。

これは、ホーンが抜けたピアノトリオでの演奏だ。

エキサイティングな1曲目とは趣向の変わる流れ、悪くない。

三連譜のメロディが効果的なアクセントとなっているメロディ、そして叙情的なムードに変化するサビと、緩急あるテーマだ。

しかし、前曲の熱冷ましというわけでもなく、演奏が進行するにつれ、だんだんと性急になってゆくシルヴァーのピアノ、そこも含めて良い感じ。

少々雑さの残るピアノトリオの演奏かもしれないが、このアルバムの進行を魅力的なものにするアクセント的な役割を見事に果たしている。

この曲がなければ、シルヴァーのリーダー作の中では、かける頻度の低いアルバムになっていただろう。

私が、《聖ヴァイタスの踊り》に魅せられてしまうのは、このアルバムの《シスター・セイディ》などのナンバーがキャッチー過ぎるからかもしれない。

『ホレス・シルヴァー&ジャズ・メッセンジャーズ』の《ザ・プリーチャー》と同種の匂いを感じるんだね、この曲には。

もちろん悪くはないんだけど、どうもメロディの分かりやすさが、昔からほんの少し私を遠ざけている原因なのかもしれない。

このファンキーなキャッチーさこそが、通底するシルヴァーの資質だと重々認めつつも、どうも《ザ・プリーチャー》のように「分かりやす過ぎる」曲をたまに書いてしまうシルヴァー。
《ストローリン》や《ニカの夢》などもキャッチーではあるんだけれども、こちらの方は素晴らしい曲だと思う。
要は「砂糖」の配合次第で、好きになったり嫌いになったりするのだろう、私の場合は。

バグダッド・ブルース

《ブローイン・ザ・ブルース・アウェイ》や《シスタ・セイディ》にばかり目が行き、これらの曲に埋もている曲のひとつに《バグダッド・ブルース》がある。

《シスタ・セイディ》のような、ファンキーではあるけれども、ハッピーでもあるようなナンバーもシルヴァーならではの作風に違いないのだけれども、個人的には、シルヴァーが書くエキゾチックなナンバーが好きだ。

代表曲には有名な《ソング・フォー・マイ・ファーザー》があるが、このアルバムに収録されている《バグダッド・ブルース》も隠れた名曲だ。

エキゾチックなムードに加えて、メリハリの利いたアレンジ。

そして次曲の《メランコリー・ムード》のなんともいえぬ倦怠感がたまらない。
さらに、ラストの《ハウ・ディッド・イット・ハップン》も、パキポキとシルヴァーのピアノが大活躍。

要するに、後半の3曲がなかなか聴きごたえがあるということ。

目玉曲ばかりに耳を奪われることなく、このようなナンバーにもじっくりと耳を傾けたいものだ。

このアルバムが持つイメージを《ブロー・イン・ザ・ブルース・アウェイ》や《シスタ・セイディ》と見るか、あるいは、《バグダッド・ブルース》と《メランコリー・ムード》と《ハウ・ディッド・イット・ハップン》の3曲と見るかで、ずいぶんと聴く頻度が変わってくるはずだ。

記:2017/12/21

album data

BLOWIN' THE BLUES AWAY (Blue Note)
- Horace Silver

1. Blowin' The Blues Away
2. The St. Vitus Dance
3. Break City
4. Peace
5. Sister Sadie
6. Baghdad Blues
7. Melancholy Mood
8. How Did It Happen

Horace Silver (p)
Blue Mitchell (tp)
Junior Cook (ts)
Gene Taylor (b)
Louis Hayes (ds)

1959/08/29–30
1959/09/13

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