ブルー・ムーズ/マイルス・デイヴィス

   

地味でゆるいが悪くない

地味です。

収録曲は、たった4曲です。

《ネイチャー・ボーイ》に《アローン・トゥゲザー》。

《ゼアズ・ノー・ユー》に《イージー・リヴィング》。

“ゆる~い”演奏が続きます。

“ゆる~い”が、悪くはないです。

借金返しのノーギャラセッション

このアルバムのレコーディングされたエピソードが面白い。

ベーシストのチャールス・ミンガスは、マイルスと、ドラムのエルヴィン・ジョーンズにお金を貸した。

しかし、いつまでたってもお金が返ってこない。

業を煮やしたミンガスが、「金返さないなら、ノーギャラでレコーディングだからな!」とばかりに、彼らの首根っこをつかまえて録音したのが本作なのだそうだ。

だから、クレジット上では、マイルスのリーダーとなっているが、実質的にはこの録音の主導権を握っていたのはミンガスなのだ。

ちょっとしたアレンジの良さ

トランペットにトロンボーン。

ピアノやギターのようなコード楽器がないかわりに、ヴァイブラフォンが配置されるという珍しい編成だ。

ジャズ・ワーク・ショップなどで聴けるミンガス流のアクの強いアレンジではないが、一応、簡単なアレンジがほどこされていて、ただ単に「ソロ奏者がアドリブを交代で回し、その間は他の楽器はお休み」といった内容ではない。

ソロ奏者のバックで他の奏者がうっすらと伴奏を入れたりと、凝ったアレンジとはいかないまでも、ちょっとしたアレンジ伴奏の味付けが、この演奏に絶妙な緩さと心地よさを付け加えている。

とくに、3曲目の《ゼアズ・ノー・ユー》のノホホーンな雰囲気はなかなか。

マイルスがソロを取るバックで、和音を奏でるテディ・チャールズのヴァイブラフォンは、緊張感を軽減させ、のほほんムードを強調しているところが面白い。

小春日和の昼下がりに、昼寝をしながら聴くと、さぞかし気持ちよいだろうなぁと思わせるような演奏だ。

ノーギャラ効果

コルトレーンのカルテットでは猛り狂ったようなドラムを叩くエルヴィンのドラムは、ここでは本当に同一人物なのかと思うほど大人しい。

ちーんちき、ちーんちき、と律儀にシンバルを打っている。

力なく消え入りそうな、なんの遊びも発展もないドラミングは、ノーギャラのレコーディングゆえ、やる気があまりなかったから?

とても、積極的に演奏に絡んでいるとは思えない。

しかし、これらの演奏にはこれぐらいの温度が最適なのだとも思う。

反対に、マイルスの場合は、借金帳消しのために仕方なく吹いているのかというと、必ずしもそうとはいえない箇所もあるから面白い。

いつも通りの演奏をしているうちに、ついついノッてしまいました的な局面がいくつも出てくる。

そう考えると、ノーギャラとかギャラ有りとかって、きっとジャズマンにとっては瑣末な問題なのかもしれない。

気分がノッてくれば、ギャラの有無は関係なしに、ついついノッてしまう。

これぞ、ジャズマンの鑑、というべきか、ジャズマンの哀しい習性というべきか。

あっという間に過ぎ去る4曲だが、たまに聴くぶんには悪くはない隠れたマイルスの「珍盤」といえよう。

マイルスのことを何も知らない人に、晩年のマイルスの毒々しいルックスの写真を見せたあと、「これが帝王マイルスの音です」といって、このアルバムを聞かせれば、ズッコケられること間違いなし(笑)。

記:2004/11/29

album data

BLUE MOODS (Debut Records)
- Miles Davis

1.Nature Boy
2.Alone Together
3.There's No You
4.Easy Living

Miles Davis (tp)
Britt Woodman (tb)
Teddy Charles (vib)
Charles Mingus (b)
Elvin Jones (ds)

1955/06/09

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