ブルー・サンズ/チコ・ハミルトン

      2021/01/31

独特なテイスト

室内楽的なナンバーがあったり、はたまたエキゾチックなテイストがあったり。

たった5人の編成でありながらも、チェロを編成に組み込んでいることや、バディ・コレットがフルート、クラリネット、アルトサックス、テナーサックスを吹くマルチリード奏者であることから、サウンドのテイストは変幻自在。

ピアノがいないかわりに、ジム・ホールの暖かく柔らかいギターが手堅く脇を固めるチコ・ハミルトンの代表作『ブルー・サンズ』は、その独特なテイストゆえ、ジャズ初心者の頃の私にとっては、なかなかとっつきにくいサウンドだった。

ハードバップに馴染んだ耳で聴くと……

その理由は簡単で、ジャズを入門したての私が抱いていた「いわゆるジャズのイメージ」というのは、ブルーノートやプレスティッジを中心とした、「哀愁のハードバップ」とでもいうべきテイストで、なんというか、ドラムが「♪チーンチキ」とシンバルレガートを刻み、管楽器(たち)が哀愁の旋律を吹き、その後は各楽器奏者が順にアドリブをとるという、わかりやすくもオーソドックスなハードバップの型式に馴染んでいたからに他ならない。

4ビートというレールの上を、簡単にヘッドアレンジされたテーマのメロディが奏でられ、次いでアドリブが繰り広げられ、再びテーマに戻るというシンプルな構成。

このようなジャズに慣れ親しんだ耳で聴くと、チコ・ハミルトンのグループは、アンサンブルが凝っている上に、そこから漂う構築的な要素が、躍動感のダイナミクスに乏しく、少々頭デッカチなものに感じられてしまう。

ジャズはアドリブじゃ、ガツンと気合いを入れて一音入魂すればええんじゃ。
そのようなアドリブ偏重の鑑賞を続けていたために抱いてしまった感想だ。

真夏の夜のジャズ

しかし、少しずつジャズが「分かってくる」と、このアルバムに対する親近感が少しずつ沸いてくる。
なにしろ、ハードバップ的な文脈からは遠いサウンドでありながらも、各楽器が有機的に配列されたアレンジと演奏のコンビネーションが抜群だからだ。

このアルバムに対する距離間をグッと縮めるのに役立った2つのポイントがあった。

ひとつは、映画『真夏の夜のジャズ』だ。


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この時のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルに出演していたときのチコのバンドには、エリック・ドルフィーが参加しており、昔からドルフィーが好きだった私のこと、ドルフィーが演奏をしている映像ということが、チコ・ハミルトンのグループをじっくりと見るための潤滑油となってくれた。

ほの暗くストイックな演奏は、まるで当時の1958年という時代を超越した超時代的な音に聴こえ、以来、チコ・ハミルトンのグループが持つ知的なアレンジと構成力に興味を持つようになった。

音だけではいまひとつピンとこなかったチコ・ハミルトンのグループの演奏も、映像を通して味わうことによって、初めて「音」と「やっていること」が頭の中で一致したという実感を得ることが出来たのだ。

カーソン・スミスのベース

そしてもう一つ。

鑑賞のポイントを、管楽器やドラムからベースに重心を移してみると、王道をいくオーソドックスなジャズを基調に組み立てられたサウンドだということがとてもよく分かるのだ。

カーソン・スミスの音数少なく太い低音。
大股歩きの安定したベースラインは、ただそれだけで気持ちいい。

このどっしりと安定した土台があるからこそ、その上に乗る管楽器やドラムが変幻自在な色彩を繰り出せるのだろう。

つまり、上物ばかりに気を取られているとなかなか見えてこなかったものが、オーソドックスかつ安定した低音に焦点を当てるだけで、きっちりとジャズの枠組みの上で構築されたサウンドだということがハッキリと見えてくるのだ。

学生時代、寺島靖国氏の『辛口ジャズノート』をバイブルにしていた友人は、氏の好みの影響で、西海岸ジャズのファンとなり、当然このアルバムも愛聴しており、私も彼に勧められて何度か聴いてはいたのだが、ついぞ好きになるまでには至らなかった。

しかし、「映像」と「低音」という2つの角度から鑑賞した体験を経て、グッとこのアルバムのサウンドが身近になってきた。

そして今では、リロイ・ヴィネガーとともに、太くて落ち着いたベースのサウンドを味わいたいときに候補にあがるアルバムの一枚となっている。

そういえば、ヴィネガーもウェストコーストを中心に活躍していた名ベーシストだった。
ヴィネガーといい、レッド・ミッチェルといい、ウェストコーストには骨太で安定感のある名ベーシストが多いが、軽やかかつ爽やかなイメージのウェストコースト・ジャズを支えていたのは、骨太の低音だったということが分かる。

記:2017/11/26

album data

BLUE SANDS(CHICO HAMILTON QUINTET FEATURING BUDDY COLLETTE) (Pacific Jazz)
- Chico Hamilton

1.A Nice Day
2.My Funny Valentine
3.Blue Sands
4.The Sage
5.The Morning After
6.I Want to Be Happy
7.Spectacular
8.Free Form
9.Walking Carson Blues
10.Buddy Boo

Chico Hamilton (ds)
Buddy Collette (ts,as,fl,cl)
Fred Katz (cello)
Jim Hall (g)
Carson Smith (b)

1955/08/04 & 23

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