戦前ブルースの切なさ〜リロイ・カーが誘う郷愁

   

text:高良俊礼(Sounds Pal)

戦前ブルース スクラッチ・ノイズ

SP盤特有の「シャー。シャー」というスクラッチ・ノイズが、曲の始まる前から流れ出す。

目に見えぬ強烈なエモーションがスピーカーのさらに向こう側のモノクロームの世界に意識を漂流させなさいと迫る。

薄暗いパーティー小屋や、炎天下の木陰で唄うおぼろげな顔顔顔・・・。

私がブルース、特に「戦前ブルース」と呼ばれる古い音源のことを想うときに、決まって浮かべるイメージである。

1940年代以前を、リアルタイムで経験していない者にとっては、これらの風景は所詮空想に過ぎないが、音楽は時として、実体験以外の記憶も呼び覚ましてしまうから素敵だ。

リロイ・カー

「ブルース・ビフォア・サンライズ・・・」

けだるく唄うリロイ・カーの、ほろ苦くも甘酸っぱいヴォーカル、淡々と、しかし確かに時を刻むピアノとギターの伴奏。

それらの音が辺りを包む時、私の想いは、はるかな郷愁の彼方に居る。

郷愁が全てを回復してくれるわけではないが、音楽によって「どこか」へ連れて行ってもらわなければ、音楽を聴く意味はない。

戦前ブルースは、確実に「私やあなたの意識」を郷愁の彼方へと連れ去る「切なさ」で出来ている。

そう「ここじゃないどこか」遠くへ・・。

記:2014/09/08

text by

●高良俊礼(奄美のCD屋サウンズパル

※『奄美新聞』2003年3月25日「奇盤 珍盤 太鼓判」掲載記事を加筆修正

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