カフェモンマルトル

text:高野雲

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昨今の出版事情、そして電子出版の可能性。

      2016/01/25

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先日、奄美大島のCDショップのtakaraさんと一緒に作った電子ブック『初ジャズ』を発売しました。

♪詳しくはこちらをご覧ください。

テレビで音楽番組を持つ音のソムリエ・takaraさんと、ラジオで音楽番組を持つジャズナビゲーターの私が、初心者の方にも分かりやすく、ジャズのオススメアルバムをナビゲートする内容です。

出来るだけ平易な語り口で書いているだけではなく、読みやすさを考慮して、切り口も「ワンテーマ・1アルバム」、手法は「メールの往復書簡」という形式にしました。

とにかく、最後までサクサク読んでいただき、願わくば、あなただけのマイアルバムを見つけてほしいという願いを込めて作りました。

さらに願わくば、ジャズに興味を持つ人が増え、ジャズのCDがもっと売れてくれればいいと思っています。

CDが売れれば、ショップも嬉しいし、レコード会社も嬉しいし、ミュージシャンだって嬉しい(現役で活動しているジャズマンのアルバムも紹介しています)。

もちろん我々だって嬉しいです。

まさに、ウィン-ウィン-ウィン-ウィンの関係構築に微力ながらもお役に立てれば、本当にうれしいです。

どんなにご立派なご高説をもって昨今のジャズの低迷を嘆き、業界の活性化を叫んだところで、事態は何も動きません。そんなことよりも、何はともあれ1枚でも多くジャズのアルバムが「売れる」という事実のほうが大事なのだと我々は考えています。

さて、この電子ブック、お陰さまで滑り出しは好調。

これはひとえに、ディレクター嬢をはじめ、数人のジャズブロガーの皆さまが素早くブログ上で告知をしてくれたおかげでもあります。

皆さん、ご存じのとおり、今、本が売れません。雑誌が売れていません。

もちろん、今に始まったことではありませんが、昨年末あたりより、出版社の倒産や、社員のリストラが目立ってきています。

原因はいろいろと考えられますが、それについては別の機会に譲るとして、現在の状況だけを書くと、売れる本と売れない本の格差がものすごく激しくなってきています。

出版社は当然ながらボランティア団体ではありませんので、売れる本を出し続けなければつぶれてしまいます。

編集者は自分の給料、社員の給料、会社の利益につながる企画を立てることが至上課題です。

同様に、営業担当も売るための方策に知恵を絞り、取次の窓口で流通させる部数の交渉をし、書店の店頭で良い場所に自社本を置いてもらうための販促活動をします。

こうした出版活動の一環の中で、ここ数年顕著なのが、著者のネームバリューと実績が、以前にも増して重きを置かれていること。
これが、「売れる本」と「売れない本」の格差に拍車をかけているといっても過言ではありません。

ぶっちゃけ、著者は、テレビに出ている人が圧倒的に強い(笑)。

企画会議では、まずは、著者がテレビに出ているか出ていないかが、「企画が通る・通らない」を左右するもっとも大きなポイントとする出版社が増えてきました。

「この著者は過去に十数冊本を出しています!」と、過去の実績を示しても、売上実績はすぐに調べられるので、“売れない本を量産しているだけの著者”とみなされれば、企画は通りにくくなります。

少し前でしたら、「様子見で少部数からスタートするか」という選択肢もあり得たのですが、今は、そのような遊びや余裕、体力のある出版社は少ないでしょう。

アマゾンのようなネット書店は別ですが、日本全国津々浦々の本屋さんの店頭に本を流通させるためには、トーハンや日販、大阪屋のような「取次」と呼ばれる流通会社の力を借ります。

しかし、売れない本を大量に全国に流通させてしまうと、書店から返品をくらいます。
返品される本や雑誌の冊数が多ければ多いほど、人件費・輸送費・燃料費などのコストがかさみます。

ですので、取次の本音は、返品の数を抑えるために「適正部数」しか流通させたくないのです。

だから、出版社の営業が、「今度出す本は初刷り3万部でーす!」と取次の窓口で能天気に言ったところで、「そんな数、うちでは流通させられません!」と断られてしまいます。

もちろん、有名な著者や、旬なテーマの本であれば、その限りではないですし、村上春樹のような超有名作家で、売れが読める著者の本であれば、「もっと刷ってください」となりますが……。

しかし、それはマレなケース。
まずは、過去の類書からデータを取り、「この著者のこのテーマの本だったら、うちでは3千部がいいところだね」というような話し合いがなされます。

そう、出版社の一存だけでは、刷り部数は決められないのです。

出版社としては、出来るだけ多くの冊数を流通させたい。
取次としては、売れるかどうか分からない本は、コストを抑えるために出来るだけ冊数を抑えたい。

このせめぎ合が、出版社のベテラン営業マンになればなるほど交渉の腕の見せ所になってくるわけです。

その中で、取次に対しての殺し文句の一つが、「著者、テレビに出てますよ」なのです。

あるいは、「ドラマ化決定しましたよ」とか、「テレビ出演が決定しました」。
このようなフックがあると、より多くの部数を流通してくれる可能性が高いのです。

書店に対しての営業も同様です。
棚差しされている本を平積みにしたい場合、
入口からはいってすぐの目につく場所に展開したい場合は、
ただ、バカみたいに「お願いします」を繰り返したところで叶うわけがありません。

それなりの口実、フックが必要でして、
もっとも有効なセールストークが「テレビ」なんです。

「著者のテレビ出演決定」「著者出演の番組、好評放送中!」
このような文句が、お客に対してもっともアピールできるセールスポイントなんですね。

「ドラマ化決定!」というように、新しくオビを作り、差し替えるのも、目立つところに置いてもらうための工夫なのです。

少し前は、「朝日新聞の書評欄で取り上げられた」とか「朝日と読売に半五段で広告を打ちます」というようなセールストークも有効でしたが、大型書店をのぞけば、今はほとんど効果はないようです。

それだけ、「テレビ」というキーワードが、
企画の段階、流通の段階、営業の段階、店頭の段階において非常に重視されるファクターになってきているのです。

しかし、テレビに出演している著者は少数です。

テレビというフックがない場合は、なにが有効かというと、ブログだったり、ラジオだったり、講演の動員数だったり、メルマガの読者数だったり、要は著者がメディアを持っているか持っていないかが非常に重視されます。

失礼なたとえかもしれまえんが、出版社や流通にとって、著者を「カモ」だとすると、単に肉の旨いだけのカモ(内容が面白いだけの著者)よりも、そのカモが背中に何本ネギを背負っているかのほうが、重要なファクターなのです。

ネギとはすなわち、メディアでありお客さんのこと。
著者が抱えている既存顧客のことですね。

だから、テレビ出演している人や、講演で人気のある講師は、まさに「ネギを背負ったカモ」なので(笑)、企画を通しやすい、出版部数も読みやすい、流通に通しやすいという、大変に有り難い存在なのです(笑)。

「ただ良いものを書けば売れる」
「面白ければ認めてもらえる」

それだけでは話にならないのです。

「良いもの書けて、なおかつ著者はメディアをどれだけ持っているか(お客がどれだけついているか)」

これぐらいの付加価値がないと、出版社にとっても、取次にとっても、書店にとっても、もはや、うま味のある著者とはいえなくなってきています。

メディアを持っている。
これすなわち、「売る前からお客がどれだけついているのか」のバロメーターなのです。

もちろん自分自身がメディアを持っていなくても、有名なアルファブロガーを味方につけているということも大きいでしょう。
実際、勝間和代さんは、アルファブロガーの威力を有効に利用し、アマゾンでの売上を伸ばし、その勢いをリアル書店へ波及させるという手法をもっともうまく使っている著者です。

そう、著者も「売る努力」をする時代なのです。

「単にいいものを書けば売れる」というのは、ほんの一握りの売れっ子作家の特権的認識です。
あるいは、現在の出版事情を知らない能天気な浦島太郎的著者でしょう。

たとえば、先ほどから何度も登場している勝間和代さんは、「書く労力を1とすると、売る労力に5を費やす」そうです。
つまり、書き手である著者自らが、書く以上に売る努力をしているのです。

また、ベストセラー『さおだけ屋はなぜ潰れないのか』の著者、山田真哉さんは、著者自らが、自分の本をリュックにつめて、書店まわりをしていたという話は、もはや有名な伝説です。

ベストセラー著者でさえ、「売る努力」をしているのです。
だったら、売れるかどうか分からない著者は、うち(出版社)に何してくれるのよ? 言葉には出さないにせよ、そう考えるのが出版社の本音でしょう。

私はこの現状に、安易に「良い」「悪い」の結論を下すことは控えたいと思いますが、ベストセラー作家ですら売る努力をしているのが、今の出版のリアルな現状なのです。

出版社が売る努力を怠っている、営業が怠慢だと捉えることも出来るかもしれません。
しかし、このような状況に出版社が慣れてしまえば、出版社が著者に求めるサムシングは増える一方でしょう。

「先生、お願ですから書いてください!」と編集者が三顧の礼よろしく自分のところに頭を下げてやってくるなんてことは、もはや夢の夢です。

著者も売る努力をするのが当たり前の時代。
本を出したければ、著者みずからが動く時代なのです。
出版社の社員だって人間です。やはり「頼みやすい人」、「動いてくれる著者」のほうに依頼をしたくなるのは当然でしょう。
売る力のある作家は別ですが、「俺は著者だぞ!」とふんぞり返り、座して依頼を待っているだけでは、いつの間にか依頼がこなくなるかもしれません(笑)。

特に著者には「旬」があり、最近はその旬が入れ替わるサイクルが猛烈に速い。

なぜかというと、ひとたびベストセラーを出すと、その作家に何社もの出版社から執筆依頼が舞い込むからです。
依頼に応えて、短い期間に一気に大量の同じ著者の本が出版される。

売れっ子になった著者は、急速に忙しくなります。
忙しいことを理由に、新たな出版依頼を断ると、
「書く時間がなければ、ホテルの一室を予約しますから、対談してください、話してください。話した内容を文字起こししますから!」と出版社は食い下がります。

売れっ子作家の出版点数が増えてくると、少しずつ対談本も増えてくるのは、このような理由があります。
内容は二の次、内容が多少過去の本と重複していても、とにかく「旬」の作家の名前が表紙に謳われてさえいれば、たくさん刷れる、いい場所置いてもらえる、著者のファンが買ってくれる。だから、会社としても数字が読みやすく、売上の見積もりが立てやすいのですね。

このような「一人著者・多点数出版」のような状況になってくると、著者は、新たなネタを仕入れる間もなく原稿書きに追われるので、次第に内容が重複してきたり、本の内容も薄味になることが多い。
そうすると、飽きられる。
売れなくなる。
結果、出版社から依頼がこなくなる。
翌年になると、前年に稼ぎに稼いだぶんだけ、所得税がドカン!と請求される(笑)。

このサイクルが最近は本当に早いと思います。

少し前のビジネス書コーナーには、明大文学部教授の齊藤隆さんの本がたくさん並んでいましたし、一時期はすごいペースで新刊が出ていましたが、今はそれほどでもありませんよね?

今はなんといっても勝間和代さんの本の出版ペースが凄まじいです。
しかし、私個人の読みでは、そろそろ今年あたりで頭うちかな?と。
もうそろそろ「旬」ではなくなってきているような気がします。
少なくとも、各出版社の編集者は彼女を「安牌」と位置づけつつも、もうすでに次の「鉱脈」探しにとりかかっているはずです。

なぜなら、対談本が出始めてきているからです。

対談本が増えることは、要は書く時間がなくなってきているということ。
書く時間がないということは、先に依頼されている原稿の消化で手一杯だということ。
書く時間で手一杯だということは、著者にとって勉強の時間、フィールドワークの時間、ネタの仕入れ&発酵させる時間が少ないということ。
このような時間がなくなると、著者の引き出しやネタの枯渇の危険性があるということです。

少し前は、編集者は著者を育てていました。
つまり、どんなに面白い話をたくさん持っていても、しょせんは一人の人間。ただ書き続ければ、次第にネタは枯渇してきます。
だから、編集者が新たな方向性を示したり、著者が持っている資源のポートフォリオを構築していた。

しかし、今はそんな悠長なことを言ってられない。書けるうちに書かせておこう、内容は二の次、ネームバリューだけでも上り調子の作家は本が売れるのだから、売れるうちに売っておこう。このような風潮になってきているのです。
著者という鉱脈を掘り尽くせば、次の鉱脈に移る。新しい鉱脈が脈アリだと分かれば、また一気に掘り尽くしてしまう。

長い目でみれば、決して著者にとっても出版社にとっても良い関係とは言い難いと私は感じています。

……以上、簡単にサクサクっと書いてしまいましたが、これが現在の出版界を取り巻く現状です。
嘆くのは簡単だし、「しょーもな!」と対岸の火事を眺めるかのごとくの批評家を気取ることは簡単です。

しかし、それだけでは何も始りません。
まずは、いったん現状は現状として、冷徹に認識し、
次に、「では、この現状の中、自分は何が出来るのか?」と考えることが大事です。

私は、ひとつの可能性として、ダウンロード形式の電子ブックを試してみる価値があると思いました。
PDFファイルをダウンロードして読む形態の“本”です。
先日発売した「初ジャズ」もまさにそうですね。

この形態のメリットは、tommyさんもブログで書かれているとおり、印刷、製本、流通、返品、古紙化という、出版の流れにおいて消費される時間とコストのショートカットが出来るということ。

反対に、誰でもかんたんに作れるので、玉石混交、粗悪な商品も多いので、購入をためらう人もいるというデメリットもあります。

しかし、それを上回るメリットがあることも確か。

それは、テストマーケティングができるということです。

「このテーマはいけるんじゃないか?」という自分の仮説を、比較的短時間で、しかもほとんどコストをかけずにテストマーケティングができるということです。

実際、今回の『初ジャズ』を出す前には、何点か電子書籍を作り、価格設定や作り方の研究をしてみました。

そしてもし、電子書籍が売れれば、それを一つの実績として、出版社に書籍化を働きかけやすくなります。
「こんな面白いアイデアがあるんですけど~」だけじゃ、忙しい編集者は、まず取り合ってくれません。
実際、私自身がそうでしたし(笑)、「アイデアだけの人」「アイデア倒れの人」、「アイデアを最終的に商品に落とし込む力の無い人」は過去にウンザリするほど見てきました(笑)。

もちろん、今回の「初ジャズ」も将来的には、書籍化を睨んだ上での作りであることは言うまでもありません。

そしてもうひとつ。
「このような状況の中で俺のなすべきこと」に話が戻りますが、自分がなすべきことパート2は、
「よっしゃ、自分も著者になっちまえ!(笑)」ということです。
今までは裏方だった自分を前面に立たせてしまおう!ということ。

先述したように、売れる著者ですら営業活動をしているのだから、著者を目指す俺自身も営業をかけなければいけない!と思い立ち、「自分営業」をかけまして、で、「自分売り込み」が功を奏しました(笑)。

といっても、私の営業スタイルは、名刺交換して、とおりいっぺんの世間話をして……というスタイルは大の苦手でして、要は、先に親しくなってしまう、というパターンがほとんどです。
たぶん、名刺渡して、挨拶して……、で成功したことは過去にはほとんどありません(涙)。

飲んで仲良くなってしまう、いっしょにご飯食べる、いっしょにお茶する、相手がジャズ好きなら、ジャズを介して仲良くなってしまう、だいたいこの黄金パターンがほとんどです(笑)。

そして、昨年ジャズを介して紹介された方の出版社から、今年の6月ぐらいを目途に、私の本が出ることになりました(笑)。

まだ詳細は明かせませんが、少しずつ明らかにしてゆくことにしましょう。

ふー、今日は結構書いたな。
今日はここまで!

記:2009/02/05

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