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ジャズと映画と本の日々:高野雲

私を「快楽ジャズ地獄」に誘った編集者氏のこと

      2017/05/23

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一言、スゴイ人

先日、拙著『ビジネスマンのための(こっそり)ジャズ入門』(シンコーミュージック・エンターテインメント)が無事発売されました。

この本の編集を担当してくださった富永虔一郎氏は、私が(こっそり)敬愛する編集者です。

ビジネスマンのための(こっそり)ジャズ入門ビジネスマンのための(こっそり)ジャズ入門

私がジャズに入門したての頃に読んだ『ジャズ・オブ・パラダイス』という本を企画し、編集した人物、それが富永さんです。

ジャズ・オブ・パラダイス (宝島コレクション)ジャズ・オブ・パラダイス

ちなみにこの本は、ジャズ喫茶「いーぐる」のマスター・後藤雅洋氏のデビュー本でもあります。

さらに、この本が出る前後に講談社から『名演!Modern Jazz』シリーズが数冊発売されていましたが、この本の仕掛け人&編集担当も富永氏です。

名演!Modern Jazz―BEST SELECTION by REQUEST名演!Modern Jazz―BEST SELECTION by REQUEST

特に『名演』の中には、後藤さんと「メグ」のマスター・寺島靖国氏との対談が掲載されており、この2人の緊迫した対談が後の「JAZZ喫茶オヤジブーム」の発端になりました。

ブームの流れで、このようなCDも当時は東芝EMIから出ていましたね。

メグ・寺島靖国×いーぐる・後藤雅洋

この『名演!Modern Jazz』の対談の中で面白いのは、単にお二人の会話をカギカッコで文字おこしをしているだけではなく、実況中継風に「寺島、ここで水割りをグッと飲む」みたいな解説までつけているところが面白かった。

JAZZ観が水と油である両マスター同士のやりとりを否が応にも緊迫させたものにしており、このさりげない「煽り」は編集者・富永さんのセンスの賜物だと思っています。



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後藤雅洋・中山康樹両氏をデビューさせた編集者

そういえば、『ジャズ・オブ・パラダイス』の冒頭で「(ジャズのアルバムは)100枚聴くまで好き嫌いを言うな!」という扇情的な煽りも、富永さんならではのセンスなんじゃないかと思っています。

もちろん、著者である後藤さんが本文中でそう主張しており、それはそのまま後藤さんのお考えであることは確かなのですが、その主張を読者をグッと引き込むような配置に持って行くセンスは富永さん独特の手法なのではないかと思っています。

また、マイルス・デイヴィスの自叙伝の翻訳で、当時スウィングジャーナル誌の編集長であった「中山康樹という才能」を世に送り出したのも富永さんです。

とにかく、この本は愛読書の一冊で、夢中になって何度も読み直しましたね。

マイルス・デイヴィス自伝マイルス・デイヴィス自伝

このように学生時代の私の好奇心を刺激してやまない本を次々と世に送り出し、私の人生の方向を半ば狂わせた(?)張本人がプロ中のプロの編集者・富永氏なんですよ。

もうこれは「縁」だね

どれぐらい私の人生が狂ったって?

まずは『ジャズ・オブ・パラダイス』の著者・後藤さんが経営しているジャズ喫茶「いーぐる」でアルバイトをするようになりました(笑)。

大学時代は、ジャズ研に入り、合コンなどといったチャラチャラした世界とは死ぬほど無縁の「女っ気」が皆無に近い「ジャズ中心生活」を送るようになりました(笑)。

挙句、『ジャズ・オブ・パラダイス』や『マイルス自伝』を出版していた出版社に就職しちゃいました(笑)。

就職したらしたで、富永さんが編集部にいました(笑)。

私が最初に配属されたのは、営業局で、次いで宣伝部だったので、所属する部署は違うし、社内では一度も同じ部署になったことはありません。

当時の富永さんは、アートブックや絵本やファッション誌や文芸などなど、八面六臂の活躍をされていたのですが、私が働くセクションは自社発行の本の宣伝をする部署だったので、富永さんとはよく販促や宣伝の打ち合わせをしたものです。

また、売り出し中の作家の新刊を、どのように見せるか、売り出すかなんてこともよく打ち合わせていました。

セクション違えど、顔を合わせる機会が何かと多かったため、富永は少しずつ私のことを「ジャズ好き野郎」だと認識していったのだと思います。

ある日、富永さんが編集中のジャズ本のCDのレビューを書くことになりました(これが私の初の活字デビュー本)。

当時の富永さんは、ジャズ喫茶「メグ」のマスター、寺島靖国氏の本も編集しており、その本の発売記念サイン会に足を運んだりしているうちに、私は寺島さんとも面識を持つことができ、数年後には寺島さんがメインパーソナリティを務める番組に数回ゲスト出演をさせて頂くことになりました。

さらに、このゲスト出演で、ジャズ評論の大御所的存在である岩浪洋三氏や寺島さんを相手に、怖いもの知らずで言いたいことを言ってしまったため、その局でラジオ番組を持つことにもなってしまいました(2年間続きました)。

これをジャズで人生を狂わされたと言わずして何と言いましょうや。

「富永さんが編集した本」というレールの上を歩むような人生を送っていると言っても過言ではないかもしれません。

もちろん、良い意味で狂わされているんだけど。

いよいよ私が著者になった

そして、また、富永さんが敷いたレールにひょっこり乗っかってしまう出来事が起きてしまいました。

今月発売された『ビジネスマンのための(こっそり)ジャズ入門』(シンコーミュージック)なのです。

編集者はもちろん富永さん。
タイトルをつけたのも富永さん。
特に吹き出しでの(こっそり)がとても秀逸なネーミングだと思っています。

基本、本の内容に関しては私が案を出し、文章を書いては富永さんにメールを送る作業を今年の6月末頃から繰り返していたのですが、つまらない内容だと容赦なくボツ!

踏み込みの甘い原稿も容赦なく修正の指示。短期間の間、ずいぶんと鍛えられた気がしますし、ジャズ評論家のみならず、文芸方面においても多くの作家を育て上げてきた編集者さんの下で仕事をすることで、「編集」を学ばせてもらったと思っています。

もちろん、私も雑誌の編集をしていた人間なんだけど、誰かに具体的に編集を教わったことってこれまで一度もないんですよ。

出版社に入社して研修期間中は一ヶ月ほど編集部に在籍して研修をしていたけれども、ほとんどが著者やライターの自宅を訪問して原稿を受け取ることや(まだメールがなかった時代なので)、FAXで届いた原稿をオアシスというワードプロセッサで打ち直す作業(まだワードがなかった時代なので)、それに完成直前の本の目次や索引に表記されているページの読み合わせがほとんどだったんですね。

つまり雑用というかお手伝い。

だから、体系的に企画から本ができるまでの一連の流れを経験しないまま、長らく宣伝部で広告作っていたわけで。

で、出版社に勤務していながらも本を作った経験がないまま、突然月刊誌の編集部への異動になったため、ぶっつけ本番で学びながら仕事をしていたという感じなんですよね。

見よう見まねで、仕事をしながら編集の勉強をさせてもらった感じ。

だから、「その編集部」で、「その雑誌」を作る「編集の仕事」は覚えたわけですが、それって、あくまでローカルルールなわけです。

雑誌だと、常に複数の作家やライターとやり取りをしながら仕事をしており、常に締め切りとの戦いでもあるので、言い方悪いですが「効率良く捌く」技術のようなものは人並に身に付いたと思います。

参考:中山康樹さん 死去~中山さんの思い出/ボブ・ディランにノラ・ジョーンズ

しかし、書籍の場合は違うんですね。

もちろん、私も書籍の編集も何冊かは携わったのですが、メインはやはり雑誌。

ですので、書籍がメインの富永さんとお仕事をすることで、プロ中のプロの書籍編集者の仕事ぶりに接することが出来ました。
とにかくコミュニケーションの頻度、深さがまったく違う。

一人の作家が最初から最後まで一冊の本を書くわけなので、それは当然といえば当然のことなのですが、とにかくやり取りの回数がとても多いのですね。

また、飴とムチの使い分けも巧い。

いついつまでに何をどうして欲しいという指示から、そのやり取りを通じて互いにアイデアを出し合い、そのアイデアを転がしたり膨らませたりしながら、新たな案が浮かび、じゃあそれもやってみましょうか……、みたいにどんどんと膨らませていく。

この過程が楽しくて楽しくて。

もちろん、私も編集者として、このようなやり取りであれば、著者やライターの方々と繰り返してはいたのですが、編集者としてではなく、著者として、編集者の手の平の上で上手にコロコロと転がされている気分は、微妙な心地よさと、微妙な緊張感が常にあり、この状態は校了まで続きました。

もちろん、この本を書く以前にも、何冊かの本を書かせていただいたのですが、その時の編集者とはまったく感触が違いましたね。

どちらかというと、「好きにやってください」的な丸投げ状態が多かった。

だから、まあプレッシャーのようなものはなくお気楽に仕事は出来たのですが、今回の富永さんの場合は、ペース配分から書く順番、そして方向性やアドバイスなど、とにかく様々な面から指示やケアが次から次へとやってきたので、やはりベテラン編集者とはそういうものなのだろうと非常に勉強になりました。

と同時に、富永さんが編集した著者の皆さまがたの末席に加えられたことを、とても光栄に思っています。

そして、この方の編集したジャズ本で、ほんのりジャズ色に染まった人生を歩めてこれたことを誇りに思っています。

記:2016/10/31

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