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ジャズと映画と本の日々:高野雲

『ジャコ・パストリアス写真集』を見て思うこと

      2017/12/04

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JACO ジャコ・パストリアス写真集

音と存在感

『JACO ジャコ・パストリアス写真集』は、ページをめくるたびに、つくづく「音は人なり」という言葉を思い出してしまう写真集だ。

掲載されたジャコの写真は、そのどれもが、本当にカッコ良い。
まさにフォトジェニックなベーシストといえよう。

「世界一のベーシストを撮った世界一のカメラマン」とジャコに言わしめたフォトグラファー・内山繁氏が撮影したジャコの写真は、ライヴ演奏中の姿から、プライベートショット、来日したときにベースをかついで地下鉄に乗ったり、銀座の町を歩いている写真など盛りだくさん。

1枚1枚の写真を眺めるごとに、ジャコのベースの音が自然に頭の中に鳴り響く。

そう、本当にジャコの「人となり」は、ジャコが弾くフレットレスに改造されたフェンダー・ジャズベースの硬く引き締まった音と完全に一致しているのだ。



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一流の表現者が持つ「音」

たとえば、マイルス・デイヴィスが、こちらを睨み威嚇するようなポートレイトを見れば、自然と耳をつんざくような鋭いミュート・トランペットの音が頭の中に鳴り響くジャズファンも少なくないだろう。

また、コルトレーンが目をつぶり、必死の形相でテナーサックスを吹いている写真を見れば、彼独特のトーンで奏でられる音符の数々が浮かぶのではないか。

ほか、チャーリー・パーカーにしろ、セロニアス・モンクにしろ、バド・パウエルにしろ、チェット・ベイカーにしろ、とにかくジャズ・ジャイアンツといわれた人たちには、独特な節回し、いや、それ以前に、そのジャズマンを象徴する「音色」が必ずある。

トレードマークとなる音色を持っていること、これがすなわちジャズマンの個性であり、数音を聴くだけで「あの人の音色だ」と分かるほど強烈な個性を持てば持つほど、表現者としては一流なのだろう。

そのような幸せな時代がまだ80年代にはあったのだ、ということを80年代のちょっとレトロな日本の街並みを背景に映るジャコの姿を見て思う。

「個」より「チーム」の最近のジャズ

では、最近のジャズに関してはどうだろう?

最近発売された、後藤雅洋、村井康司、柳樂光隆三氏による鼎談本『100年のジャズを聴く』という本を紐解くと、現代のジャズは「個性」ではなく「チーム戦」の時代に移行しているのだという。

また、強烈な一人のミュージシャンの個性を前面に押し出すスタイルは、もはや時代遅れというかダサいというような風潮もあるということも語られていた。

一人の人間の強烈な個性を打ち出すといえば、先日レビューを書いたソニー・ロリンズの『Gメン』のアンサンブル形態が、まさにそれの極端な形だと思うのだが、

参照:Gメン/ソニー・ロリンズ

要するに、一人のジャズマンが強烈な個性を発揮することは過去のものとなり(先述の『Gメン』でいえばロリンズ一人の独壇場で、サイドマンたちは伴奏に徹するアレンジ)、近年の特に若手のジャズマンたちは、グループ全体においてのトータルな表現、アイデア、切り口、手法のほうが現代のジャズでは重視しているとのことだ。

なるほど、いわれてみればたしかにその通りかもしれない。

M-BASE派

80年代半ば、つまり私が学生でジャズ喫茶「いーぐる」でアルバイトをしていた頃、店ではスティーヴ・コールマンを筆頭とするM-BASE派(ブルックリン派)の面々のアルバムがよくかかったていたし、レコード会社から送られてくる資料やジャズ雑誌にも、M-BASE派を新しいジャズの流れであると紹介している記事が散見された。

たしかにM-BASE派は、筆頭とするスティーヴ・コールマンのアルトサックスは卓越した技量があり、印象的なアルバムも残してもいるが(個人的には『シネ・ディエ』がお気に入りだった)、どちらかというと、グループ表現に重点を置いていた「音楽派閥」ではあった。

すでにこの頃から「グループ表現重視」のジャズの萌芽が芽生え始め、それから約20数年経った21世紀の2010年代に、彼らの撒いた種が実りをつけはじめているのかもしれない。

最後の個性の塊?

ちなみにM-BASE派が注目されるようになったのと、ジャコが亡くなったのは、ほぼ同時期だ。

ジャコは1987年に亡くなり、スティーヴ・コールマンの『サイン・ダイ』は、1988年に発売された。

まるで、存在自体が個性の塊のジャコと入れ替わるように、グループ表現重視の「新しいジャズ」が出現していたということが、大袈裟に言えば「個」から「群」の時代への入れ替わりを象徴するかのようで興味深い。

今、ジャズシーンは以前にも増して活況になってきたというが、では、その中で、存在自体が丸ごと一冊の写真集になってしまうほど強烈な個性の持ち主は何人いるのだろう?

「音と存在の個性」を強烈に放っていた不世出のベーシスト、ジャコ・パストリアスの写真集『JACO ジャコ・パストリアス写真集』。

もちろんジャコの音源をかけながら見るのもよいが、音を再生しなくても、ページをめくれば自然にジャコのベースの音が聴こえてくるはずだ。

記:2017/11/22

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>>マイルス・デイヴィス写真集『No Picture!』/内山繁

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