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ジャズと映画と本の日々:高野雲

ジャズの名盤入門/中山康樹

      2016/01/28

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中山康樹氏の『ジャズの名盤入門』は、良書かつ快著と言っても良い。

すべてのジャズ入門者のみならず、ジャズマニアにも読んでもらいたい内容だ。

とくに、初心者は前書きの以下の文章を肝に銘じてもらいたい。

いちがいに好みといっても、そこには聴き手それぞれの「耳のレヴェル」があり、多くの場合、そのレヴェルに対して無自覚のまま、たんにそのときの気分で判断しているにすぎないように映らないではない。そして、その音楽の本質を聴き取ることができないとき、人はその音楽に「きらい」というレッテルを貼るのではないか。つまり自分の耳や感性のレヴェルを省みることなく、「自分の都合」に合わせて音楽を聴く、のみならず「いい・わるい」を判断する。(中略)音楽には、あきらかにレヴェルの違いがある。「格」といいかえてもいいだろう。そして聴き手のレヴェルの差も歴然としてある。

「分からない・好き・嫌い」を繰り返している初心者には耳の痛い言葉なのかもしれないが、まさにそのとおりなのである。

「サムシン・エルスというアルバム、みんながイイというので、聴いてみたけど、ボクはイイと思いませんでした。いったいどういうことでしょう?」 というような、こう言っちゃ悪いが、ウンザリな質問を数限りなく受けてきた私としては、上記中山氏の文章には快哉を叫びたい気分だ。

なぜウンザリかって?
だって、上の質問は、

「星の王子様の原書を、みんながイイというので、読んでみたけど、意味が分からないので、全然イイとは思いませんでした」

と白状しているのと同じだから。

自分の英語力の無さを告白しているのと同様、自分の感性と耳の無さを告白しているのと同じだ。

こういう人には、「イイ・ワルイを言う以前に、まずは英語、勉強しましょうね」としか言いようがないじゃないですか。

土台が大事よ、土台が。何事も。

dodai

初心者は最初から先天的にジャズのよさや面白さを聴き取る能力を持っているわけがなく(相性の良さはあるとは思うが)、だからこそ、じっくり聴いて少しずつ耳のレベルを上げ、聴き取る能力をアップさせていくのが「まっとうな」考え方だと思うが、どうも最近は古来より横並び意識の突出した日本だったが、この傾向きわまれるとでも言うべき感性や感じ方の問題まで「人がイイのに、自分はイイと思わない」ことを疑問に思う人が増え、なおかつ商品を買っても、お金を出したただけの対価が得られるとは限らないという当たり前なことに気付かない人が増えているんじゃないかと感じている私にとっては、今度から、「分からないけどどうしてですか?」というような質問を受けたら、黙って中山さんの文章をコピペして配ってやろうかと思うぐらいだ。

理解できない→だから、→嫌い

じゃ、ジャズに対してあまりにも失礼だし、ジャズからしても、「聴き取る能力もない間抜けなアンタに好きも嫌いも言われたくねーよ」だろう。

なので、いろいろジャズを聴いているんだけれども、いまだにチンプンカンプンで、いまひとつピンとこないんだよねぇという正直な人がいらっしゃれば、是非この本を読んで安心してください。

むしろ、ちょっとやそっとでジャズをかじったぐらいで楽しめるほうが異常だということに気がつくと同時に、自分の感性の正しさにほっとすることでしょう。

巷には、猫なで声で「ジャズはやさしい、簡単ですよ~、怖くないですよ~」という言説がいまだ飛び交っている。

これは、「1時間1000円ポッキリ、それ以上はお金かからないから」という水商売の呼びこみ屋を連想させてしまう胡散臭さがある。

「おかしいなぁ、簡単、やさしい、怖くないといわれたわりには、難しいぞ。簡単なことを難しく感じる私って異常?」と自分の感性を疑ってしまう人が出てくるのもおかしくない。

ジャズは簡単なものもあるかもしれないが、難しいものもあるし、怖いものだってある。

普通に考えれば普通に分かる、非常に当たり前な現実だ。
だからこそ、ジャズに憧れる人もいるんじゃないかな?

中には「怖いもの」への好奇心を働かせてジャズに入門する人もいるわけだから、ことさら「やさしさ」だけを吹聴する必要もないと思うのだが、CDを売らなければいけない業界の現場からしてみれば、そういうわけいもいかないのかもしれないね。

ま、それはともかくとして、初心者のみならず、ジャズマニアもこの本を是非読んで欲しい。

また、演奏者のみならず、とくに60年代以降は、プロデューサーの視点からもアルバムを語られているところが、ありそうで無かった新鮮な内容だった。

名盤1枚につき、4Pの解説というフォーマットもコンパクトで読みやすく、電車やトイレの中で(失礼!)気軽に読める新書サイズ。

入門者からマニアまで層を問わず、誰でも気軽に読め、なおかつ目からウロコが落ちるという優れ本なのだ。

記:2005/09/20
加筆修整:2010/07/10

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