まじめの罠/勝間和代

      2017/06/03

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憑き物落とし

人はモヤモヤして整理のつかない感情を、単純なコトバに置き換えることによって腑に落ちたり、納得したりする生き物だと思います。

良い例が「妖怪」や「鬼」、「天狗」などの化け物(物の怪)なのでしょう。

たとえば、近所の名家が急に没落した。
没落する要素が見当たらない。
だから、「貧乏神」に憑りつかれたんじゃないか?と思うことで、なるほどととりあえずは納得する。

その逆に、急に金持ちになったり商売繁盛しはじめた家がある。
納得がいかない。
だから、「金霊」がついて、家が栄えているのだろうと思うことで、まあそういうことにしておこうと、納得いかない感情もある程度は腑に落ちる。

そういえば、京極夏彦の「京極堂シリーズ」は、整理をすることが難しい怪事件を、うまく妖怪に代入してうまく解決(憑きもの落とし)していましたね。
特に初期の『姑獲鳥の夏』や『魍魎の匣』なんかは、まさしくそうでした(今でも好きな作品です)。

この「代入法」は、なかなか便利ですし、日常的に多くの人が意識的にせよ無意識にせよ使っている方法だと思います。

「あいつらアホだから仕方ないか」「ジャズおっさんは頑固で面倒くさい人種だよな~」みたいな感じで、なにか自分自身が納得できる短い言葉で対象の属性を括る。

分かり易い一言にして「仕方ないか」と諦めるも良し、その短い言葉を憎むも良し。とりあえずは、グチャグチャした整理のつかない感情はシンプルになることだけは確かです。

この方法を使って、なんと一冊の本を書いてしまった人がいます。
勝間和代氏。
本のタイトルは『まじめの罠』です。



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アンチに対する反論本

この本が出版される少し前の勝間氏は、大量に本を出版し、「カツマー」という言葉が流行するほど、世間に知れ渡る存在でした(今でもかも)。

有名になれば、それに比例してアンチも増えるわけで、おそらく著者は、アンチからのバッシングや、バッシングされる内容に関して憤懣やるかたない思いだったのでしょう。

自分を批判する人は筋違いな批判ばかりをしてくる。
頭にくる。
いちいち反論するわけにもいかないし、第一、匿名でバッシングしてくる人に対しては反論のしようがない。
どうにかならないものか。

そこで、このモヤモヤとした怒りの感情をスッキリさせるために、「まじめ」という言葉を立ち上げた。
……のではないかと思います。

著者は、なんと、「自分を批判誹謗中傷として認定しうるコメントに対してIPアドレスを通じて相手を特定」し、「相手の情報」を得た結果、多くの批判者は自分の本を読んでいないということが分かったのだそうです。

本当にIPアドレスを特定しただけで、相手のそんなことまで分かっちゃうのかどうかは謎ですが、とりあえずは、すごい執念だとは思います。
まさか、2人や3人だけを調べて「あ、この人たちは私の本読んでないわ」というわけではないでしょうから、大勢の批判者の個人情報を入手し、属性を分析されたのではないかと思われます。

この行動に代表されるように、自分をバッシングしてくる(きた)人たちの属性を分析し、彼らにありがちな行為、思考パターンを「まじめ」という言葉で一括。
そして「まじめ」さんは、いかにダメで損でイケてないのかという批判パンチをボコボコ浴びせたのが『まじめの罠』という本なのかな?と私は感じました。

パッシングされても、タダでは起きない

表面的には「脱・まじめの方法」と前向きなノウハウを謳っているように見えますし、素直に読めば役立つ情報もあることでしょう。

しかし、実際は、自分を攻撃してきた者に「まじめ」というレッテルを貼って一括りにした後、いかに「そいつらダメダメなのか」を滔々と語った本に私は感じます。

ですので、「まじめ」という言葉を「アンチ私な人たち」という言葉に置き換えて読むと、また別な愉しみを見出せる本かもしれません(そんな屈折した愉しみ方はする人はあまりいないとは思いますが)。

もちろん、“自分を攻撃してきた者に「まじめ」というレッテルを貼って一括りにした後、いかに「そいつらダメダメなのか」を滔々と語った本”というのは、私の推測にしかすぎません。

しかし、もし、この推測が当たっていたとすれば、勝間和代という人は、やはりスゴイ人だと思います。

自分の中に蓄積された鬱憤を「書籍を出版する」という行為で発散し、さらに印税というカタチで換金してしまうのだから、やはりタダ者ではない。

「転んでもタダでは起きない」とはこういうことなのでしょう。

アンチからの攻撃ですらもビジネスのネタにしてしまうわけですから、やはり、この本が言うところの「まじめ」な人とは一線を画する方なのでしょう。

その上、様々な事例を挙げて紙数が費やされてはいるのですが、要するに「まじめはダメよ~、損よ~、イケてまへんで~」という単純明快な主張だけで一冊200ページ以上の本に昇華させてしまうのですから、やはり勝間和代氏は凄い人だと言わざるを得ません。

記:2011/11/09

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