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ジャズにもビッグデータ時代が到来?!『100年のジャズを聴く』

      2018/07/16

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「村井本」とセットで読もう!

後藤雅洋+村井康司+柳樂光隆。
気鋭のジャズ評論家3氏による鼎談『100年のジャズを聴く』は、なかなか興味深い本でした。

というより、今年2017年がジャズ100年の年だったんですね。
知らなかった!

100年のジャズを聴く

と同時に、私が昔バイトをしていたジャズ喫茶「いーぐる」の開店50周年記念の年でもあります。

色々とお目出度い年だったんですね、2017年は。

それはそうと、この『100年のジャズを聴く』は、先日発売された村井氏の『あなたの聴き方を変えるジャズ史』の姉妹版として読むと良いと思います。

あなたの聴き方を変えるジャズ史

参考記事:大傑作かつ名著!村井康司『あなたの聴き方を変えるジャズ史』

この2冊を読むことで、およそジャズ100年間のおおまかな見取り図が頭の中で完成することでしょう。

村井さんの著書は、ジャズが生まれる前の時代から現代のジャズまでを網羅している大作ですが、各トピックスには紙数の制約があるため、現代のジャズに関しての紹介は、いささか駆け足で紹介されている感は否めませんでした(仕方のないことではあるのですが)。

それを補完してくれるのが、この本『100年のジャズを聴く』なのです。

昔のジャズも言及されているよ

もちろん、だからといって、本書は最近のジャズばかりが紹介されているわけではありません。

現代におけるセロニアス・モンクやブッカー・リトルの評価に関しても言及されているので、私のような「ジャズはやっぱりハードバップ(と、ビ・バップ)が一番気持ちいいな~♪」と思っている人も安心して読める内容となっています。

古今東西・新旧問わずにアーカイヴ

この本を読んで感じることは、ジャズもビッグデータの時代になってきたのかな、ということです。

最近よく話題の俎上に載るビッグデータ。
ビッグデータ活用に関してのメリット・デメリット、利便性、危険性が日々論議されていますが、現代のジャズにおいても似たような現象が起きているような気がします。

ビッグデータを用いることのデメリットとして指摘されていることは、プライバシーの問題、情報漏えい、データが消失した時のリスクなどがあります。

その一方、大きなメリットの一つとして、「ビッグデータの分析により、従来では浮かび上がらなかった新しい発見を得ることができる」ということがあります。

本書を読んでいると、まさに最近のジャズミュージシャンは、過去のジャズから「従来では浮かび上がらなかった新しい発見」をし、音楽表現に活かしているのではないかと思います。

つまり、インターネットの発達の恩恵で、ミュージシャン(あるいはミュージシャンを志す者)は、YouTube、アップルミュージック、アマゾンプライムなど、サーバー上にアップされた膨大な音楽データに触れることが出来るわけです。

古くはデキシーランド・ジャズから、最近の歌謡曲やロック、はたまた民族音楽まで、フラットにアクセスすることが出来る。

だから、これまで過小評価されてきたミュージシャンでも、「現代の耳」では再評価をされたり、まったく異なるジャンルから思わぬアイデアを得ることが可能になってきているわけです。

そうすると、面白い音楽が今後はもっと生まれてくる可能性があるわけですね。

隔世の感

昔は、マイルスがエレピやエレクトリックベースを使っただけで、「これはジャズや否や」という論議があったそうです(リアルタイムで経験していないので、そのあたりの温度はよく分かりませんが)。
また、現在では名盤のポジションを獲得しているマイルスの『オン・ザ・コーナー』も、捻くれたファンクのリズムにシタールなどインドの楽器が導入され、マイルスもワウワウ・トランペットを吹いているということから、発売当時は、ほとんどの評論家やリスナーは「ワケわからん音楽」とコキおろしていました(あの良心的な評論家であるレナード・フェザーでさえ)。

オン・ザ・コーナー

つまり、かつては先進的なミュージシャンが、異ジャンルの音楽の要素(や楽器)を取り入れただけで、「これはジャズじゃない」「いいや、これこそ新しいジャズだ」という論議が白熱していたわけです。

情報が少なかった60年代、70年代は、今と比べると、なんとも牧歌的な時代だったといえましょう。

今となっては、ノラ・ジョーンズがカントリーをやっても、ロバート・グラスパーがニルヴァーナをカバーしても、「あっ、そーですか」って感じで、誰も「これはジャズじゃない」「いやこれはジャズだ」なんていいませんからね(いってる?)。

隔世の感がありますね。

異ジャンルを吸収して進化するのがジャズ

ジャンルの垣根が取り払われることは、表現の領域が拡張されることにも繋がるので、良いことだと思っています。

そもそもジャズってそういう音楽ですからね。

分かりやすい例で言うと、スタン・ゲッツが取り上げたスウェーデン民謡の《ディア・オールド・ストックホルム》や、ボサノバの『ゲッツ/ジルベルト』が良い例です。

ゲッツ/ジルベルト

それから、ローランド・カークが、スティーヴィ・ワンダーや、アレサ・フランクリンなどのR&Bやソウルミュージックをカヴァーした『ヴォランティアード・スレイヴリー』も、メチャクチャ気持ちいいアルバムですからね。

ヴォランティアード・スレイヴリー

このように、異なる音楽の要素を貪欲に呑み込んでしまうのがジャズの良いところです。

そして、最近は誰もがネットを介して膨大な音楽情報にアクセスが可能になった時代ゆえ、今後はさらに誰もが目をつけていなかった「盲点」を見つけたセンスの良いミュージシャンが、ユニークな音楽を発表してくれる可能性が高いのです。

ゼロから新しいスタイルを創造するのではなく、また、一定の力と評価を持つコミュニティ(マイルス・デイヴィスやアート・ブレイキーのような若手メンバーが研鑽をする「場」)で、特有の語法や表現、考え方を修行することなく、ユニークな表現がある日突然、パッと生まれてくる可能性もあるのでしょう。

「創造」というよりは、「編集」の時代になっているわけです。

とはいえ、異なる価値を持つもの同士を融合させて新しい価値を創出するのも「創造」です。

その反面、どんなにユニークな切り口を見つけたとしても、演奏力のともなわない「アイデア倒れ」は本末転倒です。

やはり我々リスナーは、アイデアや切り口、あるいはミュージシャンの言動に必要以上に惑わされることなく、しっかりと自分の「耳」で音楽を峻別してゆくべき時代になってきたともいえるでしょう。

今後、どのような面白い音楽が現れるのかを期待するとともに、「ジャズ」という特有な意味やコードが今後ますます薄れていっちゃうんだろうなということを考えてしまう本でもありました。

記:2017/12/15

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