ブラザーフッド/カン・ジェギュ監督へのインタビューと試写の感想

      2018/01/09

朝鮮戦争

ハリウッド映画は、銃を撃つ人間をカッコよく描くが、韓国映画は、銃で撃たれた人間を生々しいまでにリアルに描く。

ドス黒い鮮血が糸を引いて噴出したり、ときには脳味噌までもが一緒に飛び散ったりと。

そして、韓国映画の場合、その多くが、撃つ側も撃たれる側も、同じ民族同士というケースが多いのだからやりきれない。いわゆる「北vs.南」という構図だ。

この構図でもっともスケールの大きい映画が、『ブラザーフッド』だろう。

なにせ、同じ民族が米ソの冷戦構造に翻弄されて朝鮮半島が真っ2つに割れて闘った戦争=朝鮮戦争を描いているのだから。

1950年に起きたこの戦争は、同じ民族同士が殺し合いをし、500万人の命が失われた。

戦闘のシーンでは、鮮血が飛び散り、脳味噌が飛散し、腕がもげ、死体が散乱し、泥と煤で真っ黒になった顔は恐怖と憎しみで歪み、腹の底に響く砲撃音が止むことなく続き……。

この映画の戦闘シーンは、はっきり言って、リアルを通り越して、生々しく、凄惨だ。

しかも、敵は、エイリアンのような異星人でもなければ、冷戦時代の“ロシア”や、ベトナム戦争における“ベトコン”といったように、はっきりと意識の中で“敵”と認識出来る“異物”ではない。同じ民族同士なのだ。

だからやりきれない。

日本人の私ですら、そう感じるのだから(なにしろ日本で言えば青森県と岩手県の県民が県境で殺し合いを繰りひろげるようなものだからね)、当事国の韓国国民はなおさらその思いは強いのではないのだろうか。

その歴史の当事者たる韓国人が描く朝鮮戦争。半端な覚悟じゃ撮れなかっただろうし、実際、半端じゃない2時間30分だった。画面から伝わってくる気迫、意気込み、執念、怒り、悲しさに圧倒されっぱなしで、生半可な気分では対峙できない作品なことは確か。

カン・ジェギュ監督

監督は『シュリ』の監督でもあるカン・ジェギュ。

『シュリ』のようなエンターテイメント性や見やすさはないが、将来的には『シュリ』以上にカン監督の代表作になるかもしれない。

じつは、先日、来日したカン監督に会うことが出来た。

映画のパンフレットやポスター写真で使われている監督の写真は、それこそ鬼軍曹って感じで、ファインダーを覗く姿はそれこそ空間を射るスナイパーのようだが、実際にお会いした監督の人物像は、物静かで知的、とても落ち着いた方だった。

配給会社の人によると、カン監督に怒られたり怒鳴られたりした役者はいないのだとか。

それほどまでに穏やかな監督が、あのような凄まじい地獄絵図を撮るのだから、そのギャップには正直、驚いた。

カン監督からは、“なるほど”と思える話を聞くことが出来た。

この映画の大きなテーマは、タイトルそのままの“兄弟愛”、もしくは“兄弟の絆”だが、そのモチーフは監督自身の幼少期の原風景だったのだ。

カン監督には兄がいて、幼い頃から一度もケンカをしたことがないほど仲の良い兄弟だったという。

この仲の良さは近所でも評判になるほどで、もし自分たちが映画と同じような状況になったら、命を賭してお互いを守ろうとするでしょうと語っていた。

うん、映画のままだ。

いい話を聞けたなぁと、少しじーんとなってしまった。

チャン・ドンゴン

映画中、弟思いの兄を演じるのは、チャン・ドンゴン。

彼はすごい役者だと思う。

シチュエーションによって、まったく違う人物になりきってしまうのだ。

一家の大黒柱、かつ、弟思いの兄を演じているときは、ほんとうに純朴で優しい好青年だ。しかし、手柄をたてて、なんとか弟を戦場から送り返そうと、戦闘にあけくれているときの彼の表情は強く凛々しくたくましく、悲壮感と切迫感も漂わせている。

そして、ネタバレを避けるために“ラストのほう”としか言えないが、“ラスト近く”で見せる彼の形相は、本当に鬼神のごとくで、すでに人間の域を超えている。

一人の人間をここまで変えてしまう戦争が異常そのものな行為なことは言うまでもないが、彼の演技力によって、さらにこの戦争の悲惨さと惨たらしさがより一層、痛いほどに浮き彫りになった。

「若い戦争を知らない世代にも戦争の“現実”を感じてもらいたい。

そして、二度と同じ悲劇を繰り返して欲しくない」という監督のメッセージの半分は、惨たらしい戦闘シーンによって、残り半分がチャン・ドンゴンの演技で実現されているといっても過言ではない。

movie data

製作年 : 2004年
製作国 : 韓国
監督 : カン・ジェギュ
出演 : チャン・ドンゴン、ウォン・ビン、イ・ウンジュ、チョ・ユニ、コン・ヒョンジン、イ・ヨンナン、チャン・ミノ、アン・ギルガン、パク・キルス、チョン・ジン、チェ・ミンシク、キム・スロ、チョン・ドゥホン、キム・ヘゴン、チョン・ホビン、パク・トンビン、チョン・ジェヒョン、オム・ソンモ 他
配給 : UIP
公開 : 2004年初夏
観た日:2004/03/31

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記:2004/04/11

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