コーリン・ザ・ブルース/タイニー・グライムス

      2021/01/28

無理やり元気にさせられる

最初にタイトル曲の《コーリン・ザ・ブルース》を聴いたときは、なぜかブルーグラス(ウェスタン音楽)を思い出してしまった。

ウェスタンについてはさっぱり知識はないため、本当は全然違うのだろうけれど、粒立ちのはっきりしたグライムスのシャカリキなギターが忙しくも陽気で、なんだか「自分も頑張らないと!」なんて意味もなく思ってしまったのだ。

続く、エディ・ロックジョー・デイヴィスのうねるテナーサックスが演奏をさらにヒートアップさせる。

テキパキとメリハリのある音色で鍵盤をかけめぐるレイ・ブライアントのピアノも溌剌としている。

したがって、前の晩に飲み過ぎた気だるい翌朝に『コーリン・ザ・ブルース』を聴くと、強引にまったりとした気分が書き換えられてしまうのだ。

そそるジャケット

全体が水色のジャケットに、タイトルは白抜き文字。
右上にモノクロのグライムスの写真が配されている。
グライムスの後ろには、おそらくベースのウェンデル・マーシャルの腕とウッドベースの本体の一部が映っている。

タイトルのタイポグラフィも、写真のトリミングも、非常に良いバランスで、ジャケットを見るだけでも、聴きたい気がむくむくと沸き起こってくる。

そして、演奏はもちろん極上なんだけど、都会的な洒脱さと、田舎くさい野暮ったさが良いバランスでミックスされているところがたまらない。

親しみやすく、聴いていて安心感がある。

ロックンロールなフィーリング

饒舌なタイニーのギターには、様々な要素が封じ込められている。

フレーズには、チャーリー・クリスチャン的なビバップなセンスがあるかと思えば、ニュアンスの込め方には、B.B.キングやTボーン・ウォーカーのようなブルースギタリストにも通じる脂っぽさがほんのりとまぶされている。

さらに《ブルー・タイニー》は、速度を落としたチャック・ベリーの「ロックンロール」みたいだ。
特に、イントロは完全に《ジョニー・ビー・グッド》だ。

それもそのはず。グライムスは、1952年に世界初のロックンロールコンサートと言われているライブ『ムーンドッグ・コロネーション・ボール』にエントリーされているのだ。
もっとも、このイベントは中止になってしまっているが。

このロックンロールのコンサートを企画した人物は、「ロックンロール」という言葉をラジオで話した最初のDJとして知られている。

このようにR&B、ロックンロール好きの目にとまったタイニー・グライムスのこと、彼のギターのフィーリングは、ブルース好きの感性を射止めるフィーリングが色濃かったのだろう。

ジャズとブルースとR&Bの配合具合の妙。
この絶妙なバランス感覚が絶妙なんだよね。

そこが、タイニー・グライムスの良いところ。
毎日聴いているわけではないが、時おり無性に聴きたくなる1枚なのだ。

安定したリズムセクション

決してモダンな響きではないんだけれども、ウェンデル・マーシャルの大股歩きで安定したベースワークや、少々はずみ気味のリズムを叩き出すオシー・ジョンソンのドラミングが、演奏の楽しさの土台を形作っている。

かつてはフレッチャー・ヘンダーソン楽団に在籍し、トロンボーンの革命児とも言われたジェイ・シー・ヒギンボサムのトロンボーンは、お風呂の中でのほほんと吹いているようで、こちらもホンワカとした気分になってくる。

うん、楽しい。

晴れた日の朝、もしくは気だるい休日の昼にかければ、何かをやらねばという気分にさせてくれる。
疲れた夜にお酒を飲みながら陽気に仲間とこれをかけながら聴くも良し。

どのナンバーも演奏時間が長いのもいいね。
楽しみが持続するから。

きっと各人が納得いくまで気ままにソロをとっているだけなのかもしれないけれども、とにかくリズムが安定しているので、いったんリズムの雰囲気をつかんでしまえば、むしろ演奏が途絶えてほしくないと思ってしまうほど。

とにかく楽しい1枚なのだ。

記:2017/11/21

album data

CALLIN' THE BLUES (Prestige)
- Tiny Grimes

1.Callin' the Blues
2.Blue Tiny
3.Grimes' Times
4.Air Mail Special

Tiny Grimes (g)
Eddie "Lockjaw" Davis (ts)
J.C.Higginbotham (tb)
Ray Bryant (p)
Wendell Marshall (b)
Osie Johnson (ds)

1958/07/18

 - ジャズ