ザ・クッカー/リー・モーガン

   

バリサクと絶妙に溶け合うモーガンラッパ

リー・モーガンのある意味、親離れアルバムともいえる。

親とは、すなわちベニー・ゴルソン。

テナーサックス奏者だが、名作曲家、名アレンジャーでもあるゴルソンは、モーガンのデビュー時より一貫して曲を提供し、編曲も担当してきた。

前作『シティ・ライツ』のように、楽器奏者としては参加をせずに、編曲だけで参加をしたアルバムもある。

しかし、この『ザ・クッカー』からは、ゴルソンのクレジットはなく、作曲者の名はスタンダードナンバーを除けば、リー・モーガンの名が力強くクレジットされている。

《ヘヴィ・ディッパー》と《ニュー・マ》の2曲だ。

楽器操作と表現力に長けた十代後半の少年は、トランペットの演奏のみならず、いよいよ作曲面の才能も開花しはじめたのが、まさにこのアルバム『ザ・クッカー』からなのだ。

もっとも、彼作曲の2曲は、際立った特徴はまだあるとはいえず、「きわめて普通に聴ける、典型的なハードバップ」という表現がもっとも相応しいと思う。

編成は、2ホーン・クインテット。

もう一人のホーン奏者は、バリトン・サックスのペッパー・アダムスだ。

トランペットの高音に、バリトンの低音が美しく溶け合うアンサンブルがこのアルバムの特長で、おそらくはサックスとトランペットの主旋律交換が目玉の《チュニジアの夜》が冒頭に配されたのも、彼ら2本の管楽器の個性の差をもっとも際立った形でプレゼンテーションしようという意図もあるのだろう。

もっとも、この《チュニジアの夜》は、ペットとバリサクのアンサンブルのみならず、「ドンドコ・ドンドコ」とタムタムの連打を主体に繰り広げる、テーマのドラミングとベースのコンビネーションといったリズム処理、アドリブ奏者が変わるごとにチェンジしてゆくリズムのテンポ感など、全体的に聴きどころの多い演奏だ。

単にアドリブ奏者の演奏の勢いのみを重視し過ぎず、アンサンブルワークも重視しているところがブルーノートらしい作りともいえ、特にベースとトランペットのデュオで始まる《ラヴァー・マン》などは、リスナーを飽きさせない巧みなアレンジと曲の配置だと感じる。

この《ラヴァー・マン》は、余白たっぷりの音空間が心地よく、また余裕たっぷりのモーガンのプレイも好ましい。間違いなくアルバム後半の目玉だ。

演奏に深いコクを与えるボビー・ティモンズのピアノも良し。煽るだけのドラマーではないんだぜ、といわんばかりの繊細なドラミングも見せてくれるフィリー・ジョーも良し。

ペッパー・アダムスはテーマ部のアンサンブルにおいてはモーガンの好サポートをし、モーガンのトランペットに深い陰影をつけるが、ひとたび己のアドリブパートとなれば、勢い全開のソロを展開してくれるところが頼もしい。

特にアップテンポの《ジャスト・ワン・オブ・ゾーズ・シングズ》での彼は、ひたすらノリのよいアドリブを展開し、聴く者にはスリルの坩堝へと誘ってくれるだろう。

また、ラストを彩るモーガン作曲のマイナーブルースの《ニュー・マ》においても、間をほとんど空けず、執拗に蛇行したフレーズをウネウネと繰り出す様がスリル満点で、彼のアドリブ途中からはリズムが倍テン(倍速テンポ)になる箇所など、手に汗握る興奮を味わうことが出来るだろう。

聴きやすい上にクオリティ高い演奏ばかりが並ぶ、隠れたモーガンの傑作だ。
オレンジ色で、モーガンのアップをとらえたジャケットも素晴らしい。

記:2011/02/11

album data

THE COOKER (Blue Note)
- Lee Morgan

1.A Night In Tunisia
2.Heavy Dipper
3.Just One Of Those Things
4.Lover Man
5.New-Ma

Lee Morgan (tp)
Pepper Adams (bs)
Bobby Timmons (p)
Paul Chambers (b)
Philly Joe Jones (ds)

1957/09/29

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