ディジー・ガレスピーのトランペットが曲がっている理由

      2024/02/09

Best of Dizzy Gillespie
Best of Dizzy Gillespie

曲がったトランペット

ディジー・ガレスピーのトレードマークは?

ビ・バップのアイコンともなったベレー帽と山羊髭だという人もいるだろう。

それと同じくらい、曲がったトランペットを思い浮かべる人も多いと思う。
そう、朝顔(ベル)の部分が45度上に曲がったトランペットだ。
朝顔(ベル)が上を向いていることから「アップベル」とも呼ばれているようだ。

では、どうして、彼は曲がったトランペットを使用するようになったのか?

諸説はいくつかあるが、まずは代表的なものから。

女性のお尻で曲がった

これは、ディジー自身がよく述懐していたエピソードでもある。

あるパーティの際、ガレスピーは椅子の上にトランペットを置きっぱなしにしていた。

これに気づかずに、彼の奥さんのロレインさんがその椅子に座ってしまい、お尻の重さで曲がってしまったという理由。

この話は、昔は「奥さんが座ったため」だったのが、次第に「美しい淑女が」と主語が変わってゆく。したがって、作り話の「眉唾説」であることが最近では定着しているようだ。

お尻で曲げられた

もうひとつのエピソードは、こうだ。

場所はおそらくジャズクラブで、演奏の合間の休憩中の出来事。

このクラブで酔った客同士が喧嘩をしていたらしい。
すると、ステージに置いていてあったディジーのトランペットの上に、喧嘩で殴られた人物が尻もちをついてしまったため、ベルが折れ曲がってしまった。

音は出るのか?

吹いてみると、音は出る。
しかも、吹いた音が聞き取りやすい。
それでそのまま愛用するようになったという説もある。

マフィアの男に曲げられた

最後にもうひとつ。

これはドキュメンタリー映画の『ハバナジャム』で語られている内容だが、男性客に捻じ曲げられたという話。

シカゴのジャズクラブで演奏しているときに、マフィアとおぼしき男が女性を連れて店にはいってきた。

その男が休憩時間にディジーのところにやってきて、ディジーが吹いていたトランペットを500ドルで売って欲しいと頼んだという。

使っていたトランペットはそれほど高価なものではなかったので、ディジーは「しめしめ、儲かった」と思い、その男に渡すと、手にした瞬間、思いっきり目の前で曲げられてしまったのだという。

男にとっては、ディジーのトランペットのサウンドが騒々しく感じたらしい。

勿体ないので、ねじ曲げられたトランペットを吹いてみたら、これがなかなか。

この「事件」がキッカケで、ディジーは曲がったトランペットを使い始めたという。

音の距離感

どちらのエピソードが真実なのかはわからないが、その発端はともかくとして、なぜ使い続けているのか、ということを考えると、それなりに、トランペット奏者として都合の良い理由があるのだろう。

45度上に曲がったトランペットは、背中を丸めて吹いても、朝顔は客席の方に向くので、音が前方に放たれるという利点もある。

さらに「自分のサウンドが聞こえやすい」というメリットもある。

音量のある楽器とはいえ、トランペットの朝顔の先から放たれる音は、自分の耳からは少し距離がある。
朝顔の先を曲げることで、耳までの距離を縮まるというメリットもあるようだ。

これは、ディジーのトランペットのように、曲がったトランペットを独自に発注し使用している日野皓正も、曲がった楽器を愛用する理由を「自分の音が聴きとりやすい」としていることからも説得力のある理由だと感じる。

いずれにしても、曲がったトランペットは彼のトレードマークにもなったことだし、「怪我の功名」とは、まさにこのことをいうのだろう。

ちなみに、曲がったトランペットはちゃんと吹けるし、見る人が見ればカッコ良いと感じるかもしれない。もしかしてこれは売れば商売になるかもしれない。……ということで、曲がったトランペットをビッグバンドの他のトランペッターの楽団員に持たせて宣伝なんかをしたディジーだったのだが、結局特許は取れず。
なぜかというと、すでに特許ははるか昔に取られていたのだ。
100年近く前の1861年。
国はアメリカではなくフランス。
既にデュポンという人が特許を取得済みだったとのこと。

時代違えど、国違えど、同じことを考える人っているもんなんですな。

記:2013/05/16

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