カフェモンマルトル

text:高野雲

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楽器屋は花屋のようなもの。花や楽器が無くても人は生きていけるが、あれば心が潤うからね。

      2015/05/22

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近所の楽器屋のお兄ちゃんと飲みました。

この人は、かれこれ5~6年前から私が利用している近所の楽器屋さんに勤める方で、いかにも“楽器屋のお兄さん!”って感じの風貌。

もし私がギターを買いに店を訪れた高校生だったら、心臓をドキドキしながら「あ、あのぉ、あのギター試奏してもいいですか?」と尋ねることでしょう。

以下、私の勝手な妄想です。

そのお兄さんは、ギターがうまくて、楽器全般の知識が豊富そうな雰囲気。昔、ポプコンのようなバンドのコンテストで最優秀ギタリスト賞をもらったんだけれども、諸々の事情があってバンドは解散、今は仕方なく楽器屋の店員をやっているという噂。

で、フェルナンデスのギター(笑)を買いに来た私は、おそるおそるそのお兄さんに試奏をお願いします。ギターが巧そうなお兄さんは、無愛想な顔で指差したギターをチューニングし、ものすごい速弾きで試し弾きしてから、ハイと私に手渡す。

「すげぇ~テクニック。でも、こんなに弾かれた後にギターを渡されちゃ、俺はなんにも弾けないよ~」と心の中で泣く高校生の私(笑)。
でも、弾かないわけにはいかない。家で一生懸命コピーしたホテーのギターソロ(笑)なんかをテラテラと弾いていると、そのお兄さんは、「あのねぇ、もっとトーンを絞ったほうがいいよ」とか「ストロークはもっとこうしてさぁ」とかとアドバイスをしてくれます。

…まだまだ妄想は続きます(笑)。

「君ねぇ、予算いくらで考えてるの?」とそのお兄さん。
「ご、5万円ぐらいです…」と高校生の私。
「じゃあさぁ、オマケしてあげるから、コレにしなよ、コレ」
と、次から次へとギブソンや、フェンダーのストラトなどを持ってきてアンプに繋ぐお兄さん。

で、ディープ・パープルのリフを弾いたかと思うと、音色を変えてランディ・ローズの軽やかなバッキングをさくさくと弾く(笑)。締めは、鮮やかな指さばきのライトハンド。
あまりの鮮やかさにお兄さんがギターを弾く姿に見とれる私(笑)。

やっぱり、ロックが好きだったら、こういうの聴かなきゃだめっしょ、とお兄さんはオススメの洋楽を教えてくれます。なにも知らない私は、お兄さんの雰囲気に圧倒され、ただただ、「はぁ」、「あ、そうなんですか」と頷くばかり。

身近にスゴイギタリストを発見した高校生の私は、このお兄さんをいつしか師匠と仰ぐようになり、お兄さんの勧めたギブソンのなんとかモデルを言われたまま分割払いで購入。そのギターと相性の良いエフェクターも1個買って楽器屋を後にします。

家でギターを猛練習する高校生の私。

頭の中のホテー(笑)はいつしか消えて、いつもイメージに浮かぶのは、楽器屋のお兄さんの鮮やかな指さばきと、ロックの匂いがしまくる音。

「いつか、ああいうふうになってやるぞぉ!」
心を燃やし、練習に励みます。

「分からないことがあったら、いつでも店に来いよな」
「調子悪くなったらいつでも持って来いよ、無料で修理してやるからな」

楽器屋のお兄さんの優しい言葉を思い出した私は、それから週に2回ぐらいの頻度でお兄さんに会いに楽器屋へ通います。

接客に忙しくて相手をしてもらえないときもありますが、お客がいないときは色々なことを教えてくれます。ギターの奏法やセッティング、パーツの説明や、高校生の私が知らないツェッペリンやパープル、レインボーといった昔のスゴいロックバンド(笑)の話もしてくれます。

買ったギターを持っていくと、ギターを水平に目の高さにかざし、片目をつぶりながら、「お、ちょっと順反りしているなぁ」といいながらネックの調整もしてくれます。バランス悪ぃなぁ、といいながら、ピックアップの高さの調整もしてくれます。

そのようにして、少しずつ楽器の知識と腕を上げてゆく、高校時代の私のワクワク青春ギターライフ(笑)。
それもこれも、すべては憧れの楽器屋のお兄さんのお陰だったのです。

…そして、今の私は大学でジャズギターを弾くようになりましたが、ギターを弾く基礎は高校時代にきめ細かく楽器の持ち方を教えてくれた楽器屋のお兄さんのお陰。

もちろん、今私が使っているギブソンのES-175D の61年モデルも、楽器屋のお兄さんの見繕い。学生の私にとってはものすごく高かったけれども、楽器屋のお兄さんが安くしてくれたお陰で何とか買うことが出来ました。いやはや、楽しい楽器ライフ…。それもこれも、あのカッコイイ楽器屋のお兄さんのお陰なのです…。

以上、妄想。長ぇなぁ(笑)。

しかし、このような妄想が、その楽器屋のお兄さんの顔を見た瞬間、僅か0.1秒で思い浮かんでしまうほど、もう体の芯から楽器屋さんの雰囲気をムンムンと発しているのです。

ちょっと戦闘的な顔つきも、丁寧な喋り方も、ハードなギターの音とプレイも、どこを切っても生粋の楽器屋のお兄さんなのです。

ダラダラと書いた妄想とは違い、私はベースを弾く人だし、残念ながら既にお気に入りのベースを持っているので、その楽器屋では大きな買い物をしたことがありません。

せいぜい、バンド練習でスタジオを使わせてもらったり、息子へのプレゼントとしてコンガや、子供用ドラムセットにウクレレ、シールドやストラップなどの備品、さらにいくつかのヴィンテージエフェクターを買ったぐらいです。

特に、エフェクターを買うときに、懇切丁寧に解説し、なおかつ「雲さんだったら、コレ好きっしょ」と、誰もが見向きもしないような古くてエグい音のするエフェクターを薦めてくれたりもしました。

さらに、私が愛用しているロジャー・メイヤーのオクターヴ・ファズを別の店員から購入したときも、「ああ、このエフェクターの良さが分かる人がいたんだ」と心の底から喜んでくれたし、今でも時々楽器屋に顔を出すと、笑顔で会釈をしてくれるのです。

そんな楽器屋のお兄さんが、なんと近所のバーの常連だったのだから世界は狭いです。週に1~2回は店で顔をあわせ、一緒にスリーコードのセッションなどをして楽しんでいます。

昨日も楽器屋のおにーさんと飲みました。

じつは、少し前から私は彼からバンドをやらないか? と誘いを受けているので、バンドのヴォーカルとのスケジュール調整の話や、どういう路線でやろうかとか、ギブソンのリペアものが安く手にはいったとか、そういう話をしていました。

会話の途中、私が、「あなたって、ホント、どこを切っても楽器屋のお兄さんでカッコいいよね。オレが高校生だったら、絶対に憧れているよ」みたいなことを言ったら、彼はポツリとこう言いました。

「楽器屋って花屋みたいなものですから…」

その意味は、こうです。
花も楽器も生きるために絶対に必要なものではない。

しかし、花があれば生活が潤い、心が豊かになるように、楽器のある生活も心が潤い、心が豊かになる。

しかし、花屋にくる客は、花の知識ってあまりない。

だから、お花屋さんは、お客さんの予算と好みや目的に合わせて、最適なコーディネイトをする。

同様に、楽器屋も、お客さんの心を満たし、豊かな生活にするために、最善のコーディネイトをしてあげなければならない。

これが、俺たちの使命なんです。

なぁるほど、うまいこと言うなぁ、ちょっと感動したよオレっちは。やっぱり楽器屋さんってカッコいいなぁと思った次第です。

そういえば、閉店間際、酔った女性から、彼は絡まれているというか、口説かれているというか、チョッカイを出されてました。

やっぱりカッコいい楽器屋さんはモテるなぁ(笑)。

邪魔するのもヤボなので、私はそそくさと店を後にし、コンビニで焼きそばを買って家に帰りました。

明け方のビールと一平ちゃんは最高です。

記:2006/06/01

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