下駄派4

   

akinohizashi

下駄を新調した。

前に履いていた下駄が、とても履ける状態ではなくなったからだ。

たしか、その下駄を買ったのは今年の5月だから、たった3ヶ月しか履かずに駄目にしてしまったことになる。

通常は一年かけて少しずつ歯をぺったんぺったんになるまですり減らして履いていたのに、今回に限っては凄いペースで歯を磨り減らしてしまったことになる。

左足の歯は、それほど摩耗していない。

しかし、ヒドイのは右足の歯だ。

右足に履くほうの下駄の歯が、綺麗な二等辺三角形のように磨り減っていたのだ。

下駄を玄関に水平に置くと、丁度外側に45度ぐらいに傾いた状態になる。

こんな状態で下駄を履いて歩くと、歩き方が不自然になり、身体の歪みに拍車がかかってしまう。

だから新調せざるを得なかったのだ。

こんなにも短期間の間にエグく磨り減ってしまったのは、ウッドベースを持ち歩いてばかりいたからだと思う。

私はいつもウッドベースは右の肩に担いで歩く。

スポンジのたっぷり入った、ケースだけでも重たいソフトケースにウッドベースを包み、ライブや練習のたびにウッドベースを右肩に担いで持ち歩いていた。

車は持っていないので、移動はいつも電車だ。

足には下駄を履き、右肩には重いウッドベースを担いでスタジオまでの道を歩いた。

地下鉄の階段を上り下りした。

時には道に迷って不必要な距離を歩き回った。

調子に乗って飲みすぎたために終電を逃がし、ウッドベースを担ぎながら何駅もの距離を歩いたこともあった。

そんなことばっかり繰り返していたからだと思う。

ただでさえ重たいウッドベースを右肩ばかりに担ぎ、自分でも思った以上の距離を歩き回ったために、その負担がすべて下駄の歯に来たのだ。

だから、綺麗な二等辺三角形のように磨り減ってしまったのだ。

桐の木でさえも、重さでこれほどまでに磨り減ってしまうのだから、私の骨は大丈夫なのかな、などとちょっと不安にもなってしまう。

もっとも、私はウッドベースを運搬した翌日には、可能な限りマッサージ屋で全身、とくに腰と脚をマッサージしてもらうことにしているので、多少の骨の負荷や歪みは矯正されているのかもしれない。

だから、今のところ、特に身体に異変はないし、ヘンに凝ったり痛い箇所もないので、手痛い出費とはいえども、身体の方をリペアしておいて良かったのかなとも思っている。

しかし、もしマッサージ屋で全身を一度もほぐさずにウッドベースを弾き続け、運搬しまくっていたら今頃どういう状態になっているのだろうと、怖くもある。

新しい下駄を買ったのは、いつもの下駄屋さん。

おやおや、もうお取り替えですか、と親切な店の主人は私の足にジャストフィットするように鼻緒を調整してくれた。

そして、いつものように、鈴をくれた。

その後、実家に顔を出したら、ちょうど昼飯どきだったので、昼飯をご馳走になった。

しかし、よく考えてみたら、昼飯までには帰ると言って家を出てきたので、今頃うちの女房も昼飯を作っているだろうと思った。

だから急いで飯を喰い、家に帰ったら今度は女房の作った昼飯も喰った。
さすがに腹が一杯になったので、昼寝をした。

目が覚めたら夜だったので、この夏一度もやっていなかった花火を近くの公園でやった。

もちろん新調した下駄を履いて。

花火の火薬の香りが心地よく鼻をくすぐり、カランコロンと夜の空に響き渡る乾いた音が心地よく耳を刺激した。

9月1日のこと。

ちょっと遅い夏の感触だ。

記:2002/09/11

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