生きた痕跡を残してないから「死にたい」と彼は言った

      2018/09/17

死にたい

「死にたい? いつも考えてますよ。自分なんか消えてなくなればいいって」

ずいぶん前のことですが、たまたま何かの飲み会で「死にたいって考えたことがあるかどうか」というような話題になった時のことです。

5つ年下の後輩は、その問いに、上記の如く答えました。

痕跡を残せないから死にたい?
なんだか新しい学説に出会った学者のような気分になってしまいました。

「痕跡」ってなんじゃらほい?

そう訪ねてみたのですが、その人、自分でもよく分からないようでした。

痕跡ってなんじゃ?

有名になって人にチヤホヤされること?
それとも、文化勲章のような名誉ある賞を受賞すること?

たしか出版関係者の人たちとの飲み会だった記憶があるので、もしかしたら本を書いて注目されることなのかもしれません。

学校を建てて自分の胸像が立てられるとか、歴史に残る大事業を成し遂げるとか?

ひとくちに「痕跡」といっても様々ですし、「痕跡を残す」ということはどのようなことを指すのか、人それぞれです。

しかし、その人の話を聞いていると、具体的に何をどのようにして痕跡を残すのかまでは考えているわけでもなさそうです。

結局何もしないで結果だけを求めている

ふって湧いたように、ある日突然メディアが自分の家にやってきてインタビューをするとか、ある日突然、何も書いていないのに芥川賞受賞の報せが届くなんてことは100パーセントありえません。

もし、どのような痕跡を残したのか明確な目標があれば、痕跡を残せるか残せないかはともかくとして、それに向かって努力をすることが出来ますし、目標に向かって努力を重ねていれば、それなりに日々充実感を得られる可能性も高いでしょう。

しかし、痕跡、痕跡といっているわりには、何をしたいのか、何が欲しいのかがわからないまま、ただ「痕跡を残していないから死にたい」と言っている。

「残していない」って過去形で語っているけど、まだ人生長いんだし、今から何かをすれば、何かで痕跡を残すことだって出来るかもしれないのに、何をする気にもなれないというんですね。

現実はマンガとちゃうねんで

現在、その人は、まだ死なずに生きているようですが(笑)、目標や、やりたいことを持っていない人にとっての日常は退屈なのでしょう。
だから、「死にたい」だなんてシャレにならない言葉を安易に口走る。

そして、何もしていないのに、ある日突然「生きた痕跡」が残る出来事に遭遇するかもしれないと夢見ているのでしょうか?

だとすると、昔の『ジャンプ』や『ビッグコミック』のような少年マンガの読みすぎだとしか言いようがありません。

ある日突然、学校からの帰り道に異次元からやってきた謎の美少女が頭上に降ってきたり(ウイングマン/桂正和)、ある日突然、美人で胸が大きな女教師が家にやってきて「私はあなたの妻になります、今日から一緒に暮らします」と家に住み着いたり(結婚ゲーム/村生ミオ)みたいなことは、マンガの中の話です。

自分は何もせずにボーッとしていて、都合よく向こうから何か自分に利益のある出来事が降ってくる。
そんなことを夢見ていたのだとしたら、それこそオコチャマだとしか言いようがありません。

ちなみに、その人、もう40歳を過ぎていましたけど……。

記:1999/09/01

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