チェロじゃねぇよ

      2018/01/14

park autumn

気持ちの良い秋晴れの日だった。

何も予定をいれていない日だった。

家でゴロゴロするのも良いが、なんだか勿体ない。

外で秋の空気をしっかりと味わいたいと思った。

よし、公園でベースを弾くか!

幸い、うちの近所、歩いて10ぐらいのところに、広い公園がある。

そこまで、よっこらしょとタンス(=ウッドベース)をかついで持って行き、ベースの練習をするのも悪くないなと思った。

外出好きの息子も連れて行こう。きっと喜ぶぞ。

現在、練習中のレイ・ブラウンの教則本と、折りたたみ式の譜面台をケースに入れて、そして、息子には退屈しのぎのためのパーカッションを持たせて、重たいタンス(=ウッドベース)をかついで、公園へ向かった。

丁度良い場所があった。プラタナスの木の真下がちょうど、日陰になっている。さすがに直射日光の下で、木製の楽器を弾くわけにはいくまい。

石畳の上のベンチに荷物を降ろし、でっかいタンス(=ウッドベース)をケースから取り出し、ポンポンと練習をはじめた。

しかし、レイ・ブラウンの教則本、現在私が取り組んでいるエチュードは、基本的なスケールのところだ。つまり、簡単に言ってしまえば、12個のキーでの「ドレミファソラシド・ドシラソファミレド」。

せっかく、いい具合に落ち葉が散らばっている石畳の上で、プラタナスの木の枝が爽やかに揺らめいているというシチュエーション的にもバッチリで、通行人も多い場所で、黙々と「ドレミファソラシド」を延々と繰り返すのも、なんだか色気がない。

というよりも、なんだか弾いている自分がマヌケな感じがしてきた。

よっしゃ、「練習」じゃなくて、曲を弾いて遊ぼう!

FやB♭のキーのブルースや、《ディア・オールド・ストックホルム》、《朝日のように爽やかに》、《枯葉》、《柳よ泣いておくれ》などのスタンダードの旋律をウッドベースでポンポンと奏でた。

実にいい気分だ。

道行く人が、「なんだろう?」という顔で私のことを見ることなく見ながら通り過ぎてゆく。

息子はベンチにちょこんと腰掛けてボンゴをポコポコ叩いている。

もっとも、リズムは全然合っていないが、小音量なので気になるほどではない。

爽やかな日射しと、ヒンヤリとした秋の空気。

気持ちが良い。

なんとなく、今の俺って風景に溶けこんでいるよなぁ、なんて気分になってきた。

今日は七五三の日だ。

千歳飴を持って、着物を着た子供と、その親のコンビが何組も目の前を通りすぎて行った。

その中の一人の女の子が母親に、

「ねぇ、ねぇ、あの楽器なぁに?」

と尋ねる声が聞こえてきた。

「ああ、あれはね、チェロっていうのよ。」

「へぇ、チェロっていうんだぁ。」

……チェロじゃねぇよ。

記:2001/11/12(from ベース馬鹿見参!)

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