音版「カフェモンマルトル」(YouTube)もやっています♪

エヴォリューション/グラシャン・モンカーIII世

エヴォリューション/グラシャン・モンカーIII世

Evolution
Evolution

表現レンジの広いトロンボーンという楽器

トロンボーンという楽器は、私にとっては「謎」な楽器の一つだ。

「謎」というと少々大げさだが、要するに個人的にはとても興味深い楽器なのだ。

パイプを伸縮させて音程を変化させる構造なところが、まずユニークだ。

この構造ゆえ、形状も面白い。
だから、トロンボーン奏者が、このパイプをスライドさせて吹いている様子は、見ているだけでも楽しい。

と同時に、パイプをどう伸ばせば、あるいは、どう縮めれば、どのような音が出るのかがまったく見当がつかないので、とても難しい楽器にも見える。

サックスのように、ボタン(キー)が無いぶん、音程が取りづらいんじゃないかとも思う。

また、パイプを伸ばしたり縮めたりしなければならないので、速いフレーズや、細かい音符は吹きづらいことだろう。

この楽器最大の魅力は、なんといっても音色だろう。

大らかで、少しとぼけた感じ。

そして、暖かくて、まろやかな音色。

曲にもよるが、ほかの管楽器で吹かれるメロディよりも、トロンボーンで吹かれたメロディのほうが「ほのぼの度」が増すのではないかと思う。

かといって、「ほのぼの」だけの恍けた楽器ではない。

時に凄まじく凶暴な音も出せる楽器でもある。

その音量の大きさゆえ、極端にビブラートをかけた音色や、張り裂けんばかりの「割れた音」は、相当な迫力だ。

私は、トロンボーン奏者の板谷博氏が放った「尖ったアタックの強い音」の直撃をくらったことがある。

まるで、あさがお(=ベル/先端が大きく開いた音の出口)から放たれた強烈な雷が、自分の胸にぶつかってきたような強い衝撃を感じた。

巧い金管楽器奏者は、あさがおの先から、まっすぐに音を放つことが出来、しかも、その放たれた音は、手で触れることが出来るのではないかと錯覚してしまうほど、具体的な塊のようなものらしい。

私が喰らった「音塊」がまさに、そうだった。

まろやかなだけの楽器だけだと思っていたのは、とんでもない誤解だということが、この時に思い知らされた。

柔らかな音から、強烈な一撃までを放つことが出来るトロンボーンという楽器。要するに、とても表現力の豊かな楽器なのだ。

ドルフィーの作品を彷彿とさせる

まろやかな音色だけがトロンボーンじゃない。

この当たり前のようで、意外と知られていない事実を、演奏で具体的に示してくれるトロンボーン奏者の代表が、グランシャン・モンカー3世だろう。

彼のトロンボーンは、たとえばJ.J.ジョンソンやカイ・ウインディングのように流麗でもなければ、カーティス・フラーのようにまろやかでもない。

ゴツゴツした感触の音色とプレイだ。

ザラついている。

彼の初リーダー作『エヴォリューション』は、そんな彼のスタイルを生かすための、独特なフォーマットになっている。

リズムセクションは、ドラムにベース。
ピアノはいない。

そのかわりボビー・ハッチャーソンがヴァイブを担当するという布陣だ。

ドラムは複雑なリズムをいとも簡単に叩き出す、トニー・ウィリアムス。

あれ?

この編成、どこかで聞いたことがあるな?と思った人は、恐らくエリック・ドルフィーの『アウト・トゥ・ランチ』を思い出したのかもしれない。

そう、この編成、そして幾何学的なリズムのフォルムは、まるでドルフィーの『アウト・トゥ・ランチ』に到達する一歩手前のサウンド・フィギュアだ。

メタリックで、精巧な狂った世界を、冷静に寸分の隙も無く構築された『アウト・トゥ・ランチ』。


アウト・トゥ・ランチ+2

>>アウト・トゥ・ランチ/エリック・ドルフィー

もっとも、この冷たく発狂した世界までに本作は到達していない。

それは恐らく、ジャッキー・マクリーンやリー・モーガンという熱いプレイヤーが、トニーとハッチャーソンによって構築された「冷たい枠組み」と、現実界の橋渡し役をしているからなのだろう。

その分聴きやすい内容となっているが、グレイシャン・モンカーのトロンボーンは、つかみどころの無い不思議な存在感で、演奏の中を漂っている。

《エア・レイド》の張りつめた緊張感と疾走するスピード感。

『アウト・トゥ・ランチ』にも通じる曲想の《不思議の国のモンク》の奇妙な構造。

ハンコックのセンスも混入?

このアルバムに収録された曲のすべてがグレイシャン作曲によるものだが、彼の不思議なセンスは、彼の作曲にも、また彼のトロンボーンのプレイにもよくあらわれていると思う。

このアルバムの録音に際して、グレシャンは録音には参加はしていないが、ハービー・ハンコックと様々なアイディアを話し合っていたようだ。

当時のハンコックの尖ったセンスも、もしかしたら混入されているのかもしれない。
とにもかくにも当時の尖鋭ジャズマンたちのアイデア、意気込みがこのアルバムには混入されているのだ。

記:2002/04/22

album data

EVOLUTION (Blue Note)
– Grachan MoncurⅢ

1.Air Raid
2.Evolution
3.The Coaster
4.Monk In Wonderland

Grachan MoncurⅢ (tb)
Lee Morgan (tp)
Jackie McLean (as)
Bobby Hutcherson (vib)
Bob Cranshaw (b)
Tonny Williams (ds)

1963/11/21

関連記事

>>エリック・ドルフィー宇宙人説~異色の傑作『アウト・トゥ・ランチ』

ジャズカテゴリの最新記事