ザ・ファビュラス・ファッツ・ナヴァロ Vol.1/ファッツ・ナヴァロ

   

ブラウニーが惚れたトランぺッター

長らく、遠ざかっていたアルバムだった。

しかし、クリフォード・ブラウンの伝記を読んでからというものの、頻繁に聴き返すアルバムの1枚となっている。

あのブラウニーが、唯一尊敬していたトランペッターがファッツ・ナヴァロだったことが記されていたからだ。

クリフォード・ブラウン―天才トランペッターの生涯
クリフォード・ブラウン―天才トランペッターの生涯

また、この本に掲載されているナヴァロとブラウニーのツーショットの写真を見ると、ブラウニーがなんとも嬉しそうな笑顔を浮かべている。

あの天才トランペッターが、心から尊敬するトランペット、ナヴァロという存在は一体?
以来、彼に対する興味が膨らみ、ナヴァロの少ない音源を丁寧に聴くようになった。

メロディアスなトランぺッター

これまで私が聴いてきたファッツ・ナヴァロの演奏といえば、バド・パウエルがリーダーのセッションぐらいしか耳に残っておらず、ブルーノートの『ファビュラス』のほうのプレイは、聴いた回数の少なさもあり、ほとんど耳に残っていなかった。

私がナヴァロに抱いていた印象は、甲高くアタックの強い音色しか耳に残っていなかったのだが、この記憶も、極端な部分がクローズアップされた記憶だったようだ。

よく聴くと、とてもメロディアスなのだ。

朗々と流れるゆくフレーズ作りに腐心しているナヴァロのプレイは、まさに「歌心」全開というべき内容。

ディジー・ガレスピーやハワード・マギーと並ぶビ・バップ期における代表的トランペッターとして知られるナヴァロだが、彼らトランペッターとは明らかに異なる個性を有している。

ディジーの後釜として入団したビリー・エクスタイン楽団や、トミー・レイノルズのダンスバンド、ライオネル・ハンプトン楽団と、ビッグバンド系のグループでの在籍経験が、単に勢いと瞬発力だけでは終わらない柔軟な感性を育んだのかもしれない。

並はずれたトランペットの技量のみならず、ナヴァロの演奏への視線は、在命中に降盛を誇ったビ・バップの文脈だけでは括れないサムシングがあったのだ。

まさに、この彼のやり遺した原石をクリフォードが磨き、輝かせたのが、両者の演奏内容を頭に入れて聴き比べるとよくわかる。

なるほど、たしかに名曲《ノスタルジア》を作っただけの人だ。

いや、あの曲は、正確には《アウト・オブ・ノーホエア》の「改変」曲なので、既存のコード進行に、もしかしたら原曲以上のメロディを重ねられる“メロディ達人”といえるかもしれない。

ナヴァロの遺伝子

26歳という夭折ゆえ、残された彼の音源は極端に少ないが、ビ・バップの次に移行する次の世代のジャズの種子をナヴァロのトランペットは確実に遺したといえるだろう。

この遺伝子は確実にクリフォードに受け継がれ、比類なきハードバップとして開花しているのだから。

ブルーノート1531番の『vol.1』は、1947年から49年までの間に行われた3つのセッションの音源を集めたもの。

どのセッションもナヴァロが主役をつとめるものではないが、それでも彼のトランペットは力強く輝いている。

おそらくブルーノートから、このような残された僅かな音源をかき集めた「集大成盤」が2枚、この世に出ていなかったら、ジャズ史の中におけるナヴァロの存在は「伝説のトランペッター」という一言で済まされていたに違いない。

『vol.1』『vol.2』ともに、貴重なメモリアルなのだ。

と同時に、『vol.1』『vol.2』ともに、単なるメモリアルにとどまらない生命力と躍動感が封印されていることは言うまでもない。

album data

THE FABULOUS FATS NAVARRO VOL.1 (Blue Note)
- Fats Navarro

1.Our Delight(alternate take)
2.Our Delight
3.The Squirrel(alternate take)
4.The Squirrel
5.The Chase (alternate take)
6.The Chase
7.Wail (alternate take)
8.Bouncing With Bud (alternate take)
9.Double Talk
10.Dameronia(alternate take)
11.Dameronia

#1-7,10,11
Fats Navarro (tp)
Ernie Henry (as)
Charlie Rouse (ts)
Tadd Dameron (p)
Nelson Boyd (b)
Shadow Wilson (ds)

1947/09/26 #1-8

#9
Fats Navarro (tp)
Howard McGhee (tp)
Milt Jackson (vib)
Curly Russell (b)
Kenny Clarke (ds)

1948/10/11

#7,8
Fats Navarro (tp)
Sonny Rollins (ts)
Bud Powell (p)
Tommy Potter (b)
Roy Haynes (ds)

1949/08/09

記:2009/02/25

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