オーネットの『フリージャズ』が単なるメチャメチャに聴こえない理由

   

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単なるデタラメではない

オーネット・コールマンの『フリージャズ』は、その場の勢いで、「せーの!」で録音されたように伝えられています。

たしかに、このレコーディングに参加したフレディ・ハバードの証言を紐解くと、当時、同じアパートに住んでいた友人のエリック・ドルフィーに誘われてレコーディング現場に行ったら、カンタンなコードチェンジを記された譜面を渡されただけで、あとは、ほとんど打ち合わせなしで録音が開始されたようです。

ただし、リーダーであるオーネットの「仕切り力」は素晴らしく、世間ではフリージャズの「フリー」の言葉が「テキトーに自由な演奏をしている」という意味に拡大解釈されているけれども、じつは決してそういうわけではなく、思いつきのテキトーで演奏できる雰囲気ではなかったし、実際、デタラメな演奏はしていなかったとのことです。

ま、普通に聴けば、そう聴こえますよね。
でも、単なるメチャクチャには聴こえない。
奇異に感じるのは、最初だけ。

それも、その「奇異」と感じるのは、演奏に対してというよりは、「ダブルカルテット」という編成のほうに、です。

「作曲」していたオーネット

実際、ドン・チェリーの証言によれば、オーネットはこのレコーディングのために一ヶ月を費やして「作曲」をしていたのだそうです。

しかし、リハーサルをしてもうまくいかない。

オーネットは、自分のイメージの半分にも満たないというようなことをこぼしていたそうです。

「じゃ、いっそのことドラムを2台にしてみたら?」

そうアドバイスをしたチェリー。

で、ドラムを二台にしてリハーサル。

うーん、まだいまひとつ。

「じゃ、いっそのことバンド2つにしてみたら?」

この助言で実現したのが、

サックス×2
トランペット×2
ベース×2
ドラムス×2

上記編成のダブルカルテットによる『フリー・ジャズ』の演奏になったわけです。

オーネットの中にあった完成予想図

ハバードの証言どおり、たしかにレコーディング時においては、かんたんなヘッドアレンジが施された紙のみだったのかもしれませんが、オーネットの頭の中には、明確な完成予想図があったに違いありません。

だから、自由そうでいて、きちんとした縛りと統一された音楽の方向性があり、なおかつ、一聴、滅茶苦茶なようでいてその実、きちんと芯の通ったサウンドに仕上がった。

だからこそ、今なお聴く者の気持ちを捉えて離さないのでしょう。

「問題作」という枕詞を取り払おう

これが単なるメチャメチャな内容で、ダブルカルテットという物珍しさと話題性だけだったら、半世紀近くも名盤として世に残ってないと思うんですよね。

最小限の縛り、あるいは最小限の制約がある中での最大限の自由を感じ取ろうという眼差しで、いまいちど、この「問題作」を紐解いてみてはいかがでしょう?

いや、「問題作」という先入観が耳を曇らせているのかもしれない。
単純にドルフィ、ハバード、オーネット、チェリーらが放つ瑞々しいプレイを味わおうという気持ちで接すれば、もっともっと楽しめるようになるかもしれません。

記:2015/07/30

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