フューシャ・スイング・ソング/サム・リヴァース

   

トニー・マラビーとサム・リヴァース

ここのところ、トニー・マラビーを聴いた後に、サム・リヴァースの『フューシャ・スイング・ソング』を聴き、またマラビー、次いでリヴァースを聴くという交互聴きを愉しんでいる。

すると、面白いことに気付く。

マラビーを聴いた直後のサム・リヴァースが、とても親しみやすく聴こえる(笑)。

よほど注意して耳を傾けていないと、なかなか聴きどころが見出せないリヴァースのテナーサックスが、心地よくメロディアスなものにすら感じるのだ。

もちろん、決してマラビーの音楽が難解だというわけではない。

いや、やっぱり難解なのかな?

とくに、マラビーの諸作におけるアンサンブルの精妙なコンビネーションや、一部フリーがかったアプローチから感じられる知的興奮度はかなり高いのだが、私の「ジャズ耳」の根っこは、やはり4ビート耳なのだろう。『フューシャ・スイング』における鋭角的な4ビートは、やはりマラビーのアンサンブルと比べると、するすると、まるで砂に吸収される水のように耳の奥まで入り込んでくるのだ。

得体の知れない雰囲気

トニーといえば、『フューシャ・スイング・ソング』の参加ドラマーは、トニー・ウィリアムス。
彼は、リヴァースの弟子でもある。

師匠をしっかりと支え、それのみならずイマジネーションをしっかりと触発しているであろうドラミングは、聴いているこちら側の耳の奥にも心地よさとイマジネティヴな知的興奮をもたらしてくれる。

私がトニー・マラビーとサム・リヴァースの交互聴きをはじめたのは、特にこの2人のテナーサックス奏者の資質に共通のものを見出したからというわけではなく、たまたまiTunesがシャッフルした順序で聴いてみたら心地よかったという、ただそれだけのことなのだが、よくよく考えてみると、この2人のテナー奏者は、表現スタイルこそ違えど、いくつかの共通点もあると思う。

一言でいえば、得体の知れないカッコ良さ。

得体の知れない雰囲気が醸し出す、ヤバそうな雰囲気、何かありそうな雰囲気。

これが、「きっとカッコ良い」という感覚の先物買いをさせてしまうだけのものがある。そして、「理解」は遅れてやってくる。

アドリブの構築、展開が一聴しただけではなかなか分かりにくい。

じっくり彼らが放つメロディラインを追いかけていると「え?なんで、このメロディがここに?」という意外性と驚きの連続なのだ。

よい意味で聴き手の期待を裏切るメロディ展開とでもいうのだろうか、つまるところ、スリリングで、彼らの紡ぎだすメロディラインは飽きることがまったくないのだ。

それでいて、難解でわざと小難しそうなことを吹いているのかというと、そういうわけでは決してなく、彼らが出したい旋律が自然と身体のバイブレーションとともに、サックスのリードと管を揺らしているのだということが、聴けば聴くほどよく分かる。

精鋭リズムセクション

『フューシャ・スイング・ソング』のリズムセクションは、ドラムのトニーのほか、ピアノがジャッキー・バイアード、ベースがロン・カーター。

彼ら精鋭が繰り出す、安定しつつも予測不能で広がりのあるリズムをバックに、リヴァースのテナーサックスは、タフにトグロを巻く。

一筋縄ではいかない太いエモーションを放出するテナーサックスと、鋭利でありながらも柔軟なリズムセクションの融合は、心地よい知的興奮をもたらしてくれるのだ。

記:2010/04/07

album data

FUCHSIA SWING SONG (Blue Note)
- Sam Rivers

1.Fuchsia Swing Song
2.Downstairs Blues Upstairs
3.Cyclic Episode
4.Luminous Monolith
5.Beatrice
6.Ellipsis

Sam Rivers (ts)
Jaki Byard (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)

1965/05/21

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