ジャズ喫茶に似合わん音楽を聴いた後はパーカーで耳直し

   

ジャズ喫茶でスムースジャズ?

今日は(というか、もう昨日だけど)夕方から六本木で呑んだ。

そのあと、六本木の別の店でまた呑んだ。

で、シゴトに戻り、シゴトをしていたら、酒が足りないことに気づいた。

アル中かよ。

で、タクシー飛ばして、今度は神保町へ向かった。

神保町の「BIG BOY」になだれこんだ。

マスターが、お客に「スムースジャズ知ってます?」と訊いていた。

なんでも、お客が「この店ではスムースジャズかけないんですか?」と、数枚の新譜のスムースジャズとやらを焼いたCDを置いていったのだそうな。

店に残っていた客は、「興味ありますね、聴いてみたいですね」というリアクション。

で、マスターは、いやぁな顔をして、かけた。

流れ出たのは、
「関東甲信越地方、明日のお天気は~」
という朗読が似合いそうな、アコースティックギターが主体の、さっわやっかぁ~なサウンド。

なーんか、バブルの頃に、テニスサークル所属の大学生が、丸井のカードで買ったDCブランドの服を着て、デートに誘った彼女を車の助手席に乗せたときにかかっていそうな音楽で、しかもこの二人はこの音楽を聴きながら“わたせせいぞう”の話をしていそうで、なーんか、いっやぁな感じだぜ、と言ったら、マスターの奥さんに、「細かすぎ。どういう脳みそしているのよ」と突っ込まれたが、ま、そう感じたのであります。

この手の爽やかサウンドを、マスターはカウンターに置いてある「スムースジャズ」のCDの山から一曲終わるごとに、違うCDをセットしてかけていた。

ま、内容はどれも似たり寄ったりで、知りたくもないから、誰の何というアルバムかはいちいちチェックしなかったけれども、うーん、こういうサウンドは、JBLの4343をドーンと据えている店には似合わないよ。

マスターも、「うーん、ボクもこのCD、つまーらないから川に棄てようかと思っているんですぅ」だって(笑)。
あはは、いいね、俺だったら、CDなどを断裁するメディア用シュレッダーに突っ込んで遊ぶよ、と言ったら、マスター、「あ、ボク、手動で手でクルクル回すシュレッダー持っているから、それで廃棄しようかな、でも、手が疲れるよね~」などと、さっわやかぁ~な音から感じる不愉快さを冗談を言い合いながら誤魔化していた。

でも、カウンターに残っていたお客は、「ひゅ~じょん」が好きで、アール・クルーも好きな人みたいだったから、あまりかかっている音源をクサすのはやめて、DCブランドという言葉の妙な懐かしさを噛みしめていた(笑)。

そのころの、ポパイ、メンズノンノ、ホットドッグプレスって勢いあったよなぁ。

当時、中学生、あるいは高校生だった私は、あんまり服に興味はなかったから(今でも)、この手の雑誌は立ち読みで済ましていたけれども、友達の中には、DCブランドが好きで、丸井の買い物に付き合わされたことがある。

たしか、彼は、お年玉を握り締めて、1万円以上もする真っ白でシンプルなYシャツを買っていたけど、どうせ買うなら、もっと派手なほうがイイんじゃない? という私に、「わかってないなぁ~」とため息をついていた。

チャーリー・パーカーの「女・スローボート」

フュージョン好きのお客が帰ったら、すかさず私は、カバンの中にたまたま入っていたチャーリー・パーカーの『ニューリー・ディスカヴァード・サイズ』を取り出しマスターと二人で、「さ、口直し、耳直ししよう!」。

「んじゃ、3曲目の“女”にしようか」
「いいねぇ~“女”」

えー、バカみたいな会話なので、解説するのも恥ずかしいんですけどね、《中国行きのスローボート》のことなんです。

ほら、原題が《On A Slow Boat To China》でしょ?

だから、最初の「On」と「A」で、女というわけでありまして、ああどうでもいい、どうでもいい。

でも、テーマのヌーボーテナーもいいけれども、アドリブに入った瞬間のパーカーの憂いのこもったフレーズと、ハリのある音色には、両者ともに、「うーん、いいねぇ、やっぱ、ジャズ喫茶はこうでなくちゃ」

そう、こうでなくちゃ。

スムースジャズは、ジャズ喫茶には似合わない。

あと、なんだか、最近、ビートルズのCDを持ち込んで、一曲でいいからかけてくれ、JBLの大音量で聴きたいんだ、聴きたいんだ、聴きたいんだ、聴きたいんだ、としつこく粘っていた客もいたそうだが、マスター、とっても迷惑していたから、TPOをわきまえない行為はやめなさい。あなたのリスニングルームじゃないんだから。

「あのぉ、いちおう、この店、ジャズ喫茶なので」

マスターは、しつこくこの言葉を繰り返して断り続けたそうだが、それでも納得できない人は、言っちゃ悪いが、アホです。

「いや、ポールはアンプラグドでやっているんで大丈夫ですよ」

と食い下がられたらしが、何が大丈夫なんだ????????????????
意味わからん。

スムースジャズもジャズ喫茶には似合わないが、そういうアホもジャズ喫茶には似合わない。

でも、パーカーはジャズ喫茶の空気に似合うね。

当たり前すぎるけれども、この当たり前すぎることを見失ってしまうほど、私は酔っていたし、マスターはしつこいビートルズ客にウンザリしていたのだ。

そんなマスターにとって、パーカーの“女”がかなり、良かったみたい。

私のCDをひったくると、「しばらく貸してね」とウインクされてしまった。

貸しましたよ、ええ。
気に入ってもらえて嬉しいです、ハイ。

記:2007/06/14

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