ゲッツ・ジルベルト/スタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルト

      2021/01/23

季節を問わずボサは良い

冬こそボサノヴァ!

というのは、言いすぎかもしれないが、少なくともボサノヴァは夏だけの季節限定音楽だとは思えない。

むしろ、暖かな部屋の中で、寛ぎながら聴くと、なんだかちょっとだけ優雅な気分になりませんか?

ビールと同じだ。

たしかに夏の暑い日に飲むビールは格別だ。しかし、寒い冬に暖かい鍋を囲みながら飲むビールだって、おいしく臓腑に染み渡ってくる。

それと同様、ボサノヴァだって、夏以外の季節にも充分賞味できる音楽なんじゃないかと私は思っている。

色々言われてはいるけれど……

『ゲッツ・ジルベルト』。

私にとって、ボサノヴァと呼ばれている音楽の原体験がこのアルバムだからということも大きいが、何かボサノヴァを聴こうと思い立ったときに真っ先に思い浮かぶのが、ナラ・レオンか、このアルバムなのだ。

もっとも、ガチガチのボサノヴァ・マニアに言わせれば、やれゲッツはまだボサノヴァのリズムを未消化なまま取り組んでいるので、聴くに値しないとか、やれゲッツのテナーはうるさ過ぎだとか、やれボサノヴァは本来ポルトガル語で歌うべきで、英語で歌われる「イパネマ」なんて邪道だとか、やれゲッツのテナーがボサノヴァ特有のクールなテイストを台無しにしてる、などなどとウルサイが、そんな細かいこまで考えて聴いているわけではないので、私にとっては、このアルバムだって正しくボサノヴァなのだ。

クールではないゲッツ

そして、やはりいつ聴いても素晴らしい内容のアルバムだと思う。

落ち着いた空間を形作る控えめなリズムと、豊穣なハーモニーをさり気なく奏でるギターとピアノ。

埋めすぎないし、弾きすぎない。

音の隙間からは、心地よい風と快適な空間を感じることが出来る。

透明なアストラッド・ジルベルトの歌声が耳に心地よく、ジョアン・ジルベルトの歌声は、ちょっと耳にくすぐったい。

そして、もう一人の「歌手」が、スタン・ゲッツ。

彼のテナーは柔らかくも、なかなかにタフな一面を見せる瞬間もある。

少なくとも、クール派と言われていた頃のプレイと比較すると、彼のテナーの温度は微妙に高い。

特に、《ソ・ダンソ・サンバ》のソロにおいて、それが顕著だ。

BGM代わりとして聴いていても、このソロだけは、ハッとして音楽のほうに意識を集中せざるを得なくなるほど力強い熱演だ。

このアルバムのゲッツのテナーを「ゲッツのクールなサウンドが云々」と書いている評をたまに見かけるが、ホンマかいなと思ってしまう。

以下、ウンチクです

さて、以下、このアルバムにまつわる無愛想な能書きを。
耳タコな人も多いでしょうから、知っている人は読み飛ばしてください。

サンバのリズムとジャズのハーモニーが融合して、新しく出来たと音楽ジャンル・ボサノヴァ(=new wave)。

そのボサノヴァの名を一気に知らしめた作品がコレ、『ゲッツ・ジルベルト』。

ピアノは、アントニオ・カルロス・ジョビン。

プロデューサーはクリード・テイラー。

ギターと歌がジョアン・ジルベルト。

もう一人のボーカルが、ジョアンの奥さんのアストラッド・ジルベルト。つまり、ボサノヴァにおいての、最重要人物が何人も参加している。

また《イパネマの娘》、《デサフィナード》、《コルコバード》などなど、その後、ボサのスタンダードになる曲も目白押しだ。

特に《イパネマの娘》。

この曲は、ジョビンがリオのイパネマ海岸の喫茶店で 通りを歩く美しい娘を見ながら作ったという話は有名。

ジョアン・ジルベルトの歌う部分がカットされた《イパネマの娘》がヒットし、ボサノヴァが一気に市民権を得たというのも有名な話。

アストラッドは このアルバムで歌手となり、その後「ボサノヴァの女王」と呼ばれるようになったのも、これまた有名な話。

アメリカでヒットして、ポピュラーになったボサノヴァだが、その契機となったアルバムでもある。

ゲッツはこのアルバムの印税だけで豪邸を買ったといわれている。
また、売れに売れたアルバムゆえ、『ジャズ・サンバ』、『ゲッツ・オー・ゴー・ゴー』、『ゲッツ~ジルベルト#2』などの続編も録音された。

第7回('64年)グラミ-の最優秀獲得アルバムでもある。

記:2003/01/10

album data

GETZ/GILBERTO (Verve)
- Stan Getz & João Gilberto

1.The Girl from Ipanema
2.Doralice
3.Para Machucar Meu Coração
4.Desafinado
5.Corcovado (Quiet Nights of Quiet Stars)
6.Só Danço Samba
7.O Grande Amor
8.Vivo Sónhando

Stan Getz (ts)
João Gilberto (g,vo)
Antônio Carlos Jobim (p)
Sebastião Neto (b)
Milton Banana (ds)
Astrud Gilberto (vo) #1,5

1963/03/18-19

 - ジャズ