インヴィテーション/アル・ヘイグ

   

メロドラマチック・ノスタルジック

このアルバムの目玉、ボサ調の《インヴィテーション》。
あるいは、一番最初のナンバー《ホーリー・ランド》。

なんともクラシカルであり、ノスタルジックであり、はたまた1960年代か70年代の純喫茶が似合うテイストのようでもあり(正確にはこの時代の喫茶店はよく知らないけれども、あくまでイメージで)、同じく昭和のメロドラマ(あるいは同年代のアメリカのロマンス映画)のようでもある。

つまり、過度に情緒的、あるいは情熱的に感じさせるところが、今の時代のカラーとは明らかに異なるのだ。
この演奏以前に演奏されたモダンジャズの演奏の多くが「超時代的」に感じるのにもかかわらず、なぜか1974年に録音された『インヴィテーション』がノスタルジックに感じるのはどういうわけだろう。

エヴァンスと比較してみたりする

アル・ヘイグのピアノは、彼が若かりし頃、たとえばスタン・ゲッツの『カルテッツ』の頃から、しっとりと濡れた音を奏でていた。


Stan Getz Quartets

特に《小さなホテル》や、《ホワッツ・ニュー》のイントロは絶品!

この、しっとりとした味わいは唯一無二のものであり、好きな人にとっては「たまらんムード」だろう。

このムードは、同じ白人ピアニストでありながらも、そして同じくクラシックの教養がベースにあるピアニストでありながらも、たとえばビル・エヴァンスのピアノとは音の芯のありかが随分と違う感じがする。

エヴァンスも、時に耽美的な演奏をするにはするが、なんというか両者が求める美意識のイメージはかなり異なるような気がする。
このあたりが、音の肌触りの違いとしてあらわれ、両者の評価を分かつポイントとなるのだろう。

私の場合は、日常的に聴くのであれば、やっぱりエヴァンスのほうに手が伸びてしまうのだが、しかし時と場合によっては(200日に1日くらいの頻度では)、アル・ヘイグの隠微な世界に耽溺したくなる時もある。

個人的には『アル・ヘイグ・トリオ』を愛聴しているのだが、さらに「哀」な要素が欲しいときは、やっぱり『インヴィテーション』が決定盤ともいえる。

年齢を重ねて拍車がかかる哀調

『インヴィテーション』は、アル・ヘイグ50歳の時のリーダー作だ。
聴き手の涙腺のツボにグイグイと哀調のピアニズムで捻じ込んでくる手腕は年季ゆえのものか。
はたまた、9年ぶりにリーダー作を録音することの気負いからなのか。

悪く言えば、若い頃の控えめなセンスがベタなセンスに変貌したと言えなくもないが、「これぐらいやっちゃってくれた方が、感動のコスパは高いもんね」と感じるご年輩のジャズファンが多いこともまた事実。

少し恥ずかしいくらい露骨に哀調全開なアル・ヘイグも、たまに聴くぶんには悪くはない。

記:2017/12/03

album data

INVITATION (Spotlite)
- Al Haig

1.Holyland
2.No Stranger Love
3.Sweet And Lovely
4.Invitation
5.Enigma
6.Sawbo City Blues
7.Wave
8.You Are My Everything
9.If You Could See Me Now
10.Sambalhasa
11.Have You Met Miss Jones
12.Daydream
13.Linear Motion

Al Haig (p)
Gilbert "Bibi" Rovere (b)
Kenny Clarke (ds)

1974/01/07

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