ジャズピアニスト・松本茜のピアノの「タッチ」にもっと注目しよう!

      2020/02/09

akane2akane
「快楽ジャズ通信」ゲスト出演時

ジャズ オリジナリティ

ジャズはとりわけ演奏者の「個性」を重視する音楽だ。

どんなにテクニックが優れていても、誰かの「人マネ」であれば、単なる「上手なコピー」であって、ジャズファンからは見向きもされないだろう。

「オリジナリティがある」「オリジナリティがない」などというフレーズをジャズ評論などでよく目にするのは、まさにこのことだ。

では、そのオリジナリティとは?

やたらめったら新しいことをしでかせば、それがオリジナリティなのだろうか?

フリージャズ、電化ジャズ、モードジャズなどなど、どうやら長らくジャズのジャーナリズムは、「切り口の新しさ」や「ユニークなアプローチ」をジャズマンのオリジナリティとして見る傾向があったような気がする。

その筆頭に挙げられるジャズマンがマイルス・デイヴィスなのだろう。

たしかに誰もが思いつかなかった新しい試みは刺激的だし、私もどちらかというと好きなほうだ。

しかし、誰もが思いつかないアイデアや切り口だけがオリジナリティではない。むしろ、楽器演奏においてもっとも原初的かつ大切なことは、音のニュアンスなのではないだろうか。

どんな楽器奏者でも、まず最初は派手なメロディや難しいフレーズを弾くようなトレーニングはしない。

きちんとした音を出す訓練に時間を費やすはずだ。

基礎練習を繰り返し、しっかりと楽器を「鳴らす」ことに鍛練を重ねる。

それが出来た上で、はじめて曲の演奏であり、アドリブであり、アイデアであり切り口なのだ。

その逆はありえない。

同じ楽器でも、演奏者によって鳴る音はまったく異なる。

体格もあるだろうし、その人が持つ体内時間もあるだろうし、練習方法や教材にも左右されるかもしれない。

音のスピード感、音価、音の重み、などなどは演奏者によってまったく異なる。そして、その違いも立派な個性なのだ。

松本茜 ピアノ タッチ

私は、ジャズピアニスト・松本茜さんのピアノのタッチが好きだ。

適度な重と粘りがあるからだ。

この「音価」で奏でられる曲は、それがスタンダードであれ、オリジナルであれ、聴いていて安心できる安定感がある。

デビュー作の『フィニアスに恋して』は、まだ19歳の時の初レコーディングだったこともあり、アップテンポのナンバーだと、多少フレーズが上滑りしている箇所も無いとは言えないが、2枚目の『プレイング・ニューヨーク』では、円やかな重みと安定感が増して、とても聴きやすくなっている。

フィニアスに恋して~10代で最初で最後のレコーディング~
フィニアスに恋して

プレイング・ニューヨーク
プレイング・ニューヨーク

一口に「重み」とか「粘り」といっても、50~60年代の黒人ピアニストのようなトゥーマッチな重さ、粘りではないところが、日本人の私としてはちょうど良い按配に感じるのかもしれない。

2枚のアルバムともに、収録されている曲は、自作曲のほか、スタンダードとビ・バップ、ハード・バップのナンバーだ。ということは、50年代、60年代のピアノトリオアルバムと何ら変わるところはないともいえるが、だからといって、「昔と同じことを今さらやっていても仕方がないよ」などとは誰も言えまい。

しっかりとした、彼女にしか出せないピアノの重さ、オリジナリティがあるからだ。

フィニアス、パウエルなど、昔のジャズマンの曲を今さらやってという目線でとらえるのは、「オリジナリティ=新しいアプローチ」という硬直した思考回路に毒されている証拠。

曲やアプローチの新旧にとらわれずに、もっと、彼女にしか醸し出せないピアノのタッチにも注目してみよう。

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Big Catch
Big Catch

ジャケットのイラストは「茜画伯」によるもの♪

ハーフ・ブラッド

松本茜作曲のナンバーの中でも、私がもっとも好きな曲のひとつが《ハーフ・ブラッド》。

以前、番組にゲスト出演していただいた際、収録後の「アフターアワーズ編」にて、スタジオにあるキーボードで、私の拙いベースに合わせてくれた貴重な音源がこちら。

後半、というかほとんどラストのアフターアワーズ編をお聴きください。

打ち合わせ無しのぶっつけ本番の演奏で、また、録音もライン録りではなく、スタジオの中のマイク2本からの空気録音のため音質も良くはないのだけど、エレピの音色で奏でられる可愛らしい「茜節」をお楽しみください。

エレピの割れた音、鍵盤がカタカタする音、ベースの弦が指板に当たったり、弦が指でこすれる音など、かえって生々しいかも。

中盤、ノリノリに盛り上がってきたのを良いことに、私は演奏後半になっても、まだそのノリノリな状態を維持しようとする一方で、茜さんはクールに元のテンションに戻っているところのギャップなど、打ち合わせなしならではのハプニングも。

このナンバーが(キチンとしたピアノトリオで)収録されているアルバムは1stアルバムの『フィニアスに恋して』。


フィニアスに恋して~10代で最初で最後のレコーディング~

ラストを飾るに相応しい名曲です。

記:2010/02/28
加筆:2015/08/16

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