ラスト・デイト/エリック・ドルフィー

      2021/02/10


Last Date

死の約一か月前の録音

エリック・ドルフィーがベルリンで客死する27日前に録音されたアルバムだ。

アルバムラストに収録された彼の肉声によるメッセージ、「音楽は演奏とともに中空に消え去ってしまい、二度とそれを取り戻すことは出来ない…」が有名だ。

ヨーロッパのリズムセクション

録音場所は、オランダのヒルベルサム。

地元のラジオ局が放送しているジャズ番組用におこなわれたレコーディングが本作だ。

曲間に聴こえるまばらな拍手から察するに、スタジオ・ライブ仕立てにしたのだろう。

「ファイブ・スポット」に出演した、ブッカー・リトルらとのグループを除けば、生涯レギュラー・バンドを持つことのなかったドルフィー。

だから、ヨーロッパでのライブの共演相手は、現地のミュージシャンとなるわけだが(ミンガスやコルトレーンのレギュラー・バンド在籍時は別)、記録されているドルフィーがリーダーのライブ音源に耳を通すと、ほとんどの現地リズム・セクションは、伴奏者の域を出ていないレベルのものが多い。

堅実だが、ドルフィーのイマジネーションを刺激するまでの伴奏にはいたっていない。

しかし、本作のリズム・セクションは別だ。

特に、ピアノのミシャ・メンゲルベルクと、ドラムのハン・ベニンク。

今では、ヨーロッパのフリージャズ方面の大御所的存在だが、すでにこの時から独特な光を放っていたのではないかと思う。

この「独特な光」とは、黒人の演奏には絶対に求め得ないノリだ。

誤解を恐れずに言えば、まったりとした鈍い感じ、そして、独特の歯切れの悪さだ。

「歯切れの悪さ」なんて書くと、なんだか悪いニュアンスに受け取られてしまうが、もちろん褒め言葉のつもりだ。

じめっとした、じとっとしたなんとも言えないまったりとした感じが、黒人ジャズの重さとはまた違ったニュアンスの重さと湿度を感じさせ、それが驚くほどにドルフィーのサウンドに合うのだ。

ミシャ・メンゲルベルクのピアノ

バス・クラリネットで演奏される、セロニアス・モンク作曲の《エピストロフィー》が良い。

出だしの咆哮一発の驚きと、グロテスクで美しい、まるで異星人の鳴き声のようなアドリブ。

不気味な軟体生物が生命活動を開始したような、そんな不思議なニュアンスを漂わせるドルフィーのバスクラサウンドを、さらに効果的に引き立てているのは、メンゲルベルク以下のリズム・セクションにほかならない。

特にミシャ・メンゲルベルクのピアノのバッキングに注意してみて欲しい。

まったりと、どんよりと、時折、効果的なリフを繰り返すバッキングと、フリー・ジャズや現代音楽特有の調整感の希薄な和声。セロニアス・モンクを彷彿とさせる不協和音的なクラスター。

黒人の弾くピアノの「粘っこい重さ」とはまた違う、メンゲルベルクの「どんよりした重さ」が、ドルフィーのバスクラをさらに効果的に彩っている。

鈍重だけれども、どこかエッジも感じられる不思議なピアノ。

『ラスト・デイト』を名盤たらしめているのは、《ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラブ・イズ》におけるドルフィーのフルートだけではない。
ミシャ・メンゲルベルクこそが、このアルバムの影の功労者なのだと思う。

彼のピアノなくしては、他に何枚も出ている「ヨーロッパで客演したドルフィーの演奏の記録アルバム」の1枚で埋もれていたに違いない。

記:2002/04/27

album data

LAST DATE (Fontana)
- Eric Dolphy

1.Epistrophy
2.South Street Exit
3.The Madrig Speaks,The Panther Walks
4.Hypochristmutreefuzz
5.You Don't Know What Love Is
6.Miss Ann

Eric Dolphy(as,bcl,fl)
Misja Mengelberg (p)
Jacques Schols (b)
Han Bennink (ds)

1964/06/02

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