ジャンゴ/モダン・ジャズ・カルテット

   

《ニューヨークの秋》も良い

ジョン・ルイスの名曲、《ジャンゴ》のオリジナル演奏を収録した、モダン・ジャズ・カルテット(以下MJQ)初期の名盤だ。

そして、個人的には、《ジャンゴ》、そして《ニューヨークの秋》が聴けるという点でも名盤。

《ジャンゴ》という曲は、ジプシーの血を引くギターの名手・ジャンゴ・ラインハルトへの鎮魂曲だが、このアルバムをキッカケに、ジャンゴ・ラインハルトを知った人も多いのでは?

もちろん、私もその一人だ。

MJQの魅力は、なんといっても構成美。

優れた格調と調和感を持ち、室内楽的な雰囲気を持っていることが、他のジャズのコンボとは大きく違うところだ。

そして、もちろんこのアルバムにも、その構成美が貫かれている。

全体に漂う優雅で端正な曲想や雰囲気は、ジョン・ルイス独特の美学が反映されているのだろう。

正直に告白すると、私はジョン・ルイスのことを好きだったり嫌いだったりするのだが、このアルバムに漂う雰囲気は嫌いではない。

アルバム中の曲は、53~55年までの3つのセッションで構成されている。

4部で構成された《ラ・ロンド組曲》。

古典的なムードの《ザ・クイーンズ・ファンシー》や《ミラノ》などの名曲が演奏されているが、個人的にはやっぱり《ニューヨークの秋》がこのアルバムでは最大の愛聴曲となっている。

少し寂しげだけど、まだ暖かさの残る昼下がりを思わせる雰囲気は、とても気持ちが良い。

この演奏を聴いて、《ニューヨークの秋》というスタンダードが好きになったほどだ。

MJQのドラマーといえば、コニー・ケイだが、この頃はまだケニー・クラークが叩いていた。

このアルバムの次に吹き込んだ《コンコルド》からコニー・ケイとなり、以後不動のメンバーとなる。

名曲《ジャンゴ》は、その後も何度も演奏されているが、スロー・テンポで演奏されているこの初演がやっぱり良いと思う。

ゆったりとしたテンポで、物悲しく奏でられるテーマ。

そして、テーマ終了後に、ミルト・ジャクソンがバイブでソロを取り始めるが、その出だしの数音といったら!

絶妙なタイミングでソロを取り始める、クールなサウンドのヴァイブ。

ミルトがソロを取り始めた瞬間から、演奏が次第にほぐれてゆく。

この瞬間と、緊張から弛緩への変わり具合が、何度聴いても良いなぁと思う。

このアルバムは、全体的に端正で、抑制されたトーンに貫かれた演奏が続くので(もっとも『ラスト・コンサート』のようなライブ盤を除くと、ほとんどのMJQのアルバムはそうなのだが)、どちらかというとハードでゴリゴリのジャズが好みの私は、これを聴き終わると、ホレス・シルヴァー・クインテットや、コルトレーン、パウエルのようにゴリッ!としたサウンドのアルバムに手が伸びてしまうことが多い。

しかし、逆を言えば、ハードでゴリゴリなジャズを聴いて、湯気が立ち上がっている頭とカラダをクール・ダウンさせるにはうってつけのサウンドにもなるわけだ。

風呂上りのコーヒー牛乳?
ちょっと違うか……。

特にミルト・ジャクソンのバイブの響きには、いつも心地良い涼しさと、柔らかい温度を感じることが出来るので、脳味噌や気分のコリをほぐす、良いマッサージとなっている。

そして、このミルトのバイブを引き立てているのは、いうまでもなく、上品で抑制されたルイスのバッキングだろう。

ジョン・ルイスを始めとするリズム陣の神妙な演奏との対比効果によって、より一層、ミルトのバイブが光るのだと思う。

記:2002/04/10

album data

DJANGO (Prestige)
- Modern Jazz Quartet

1.Django
2.One Bass Hit
3.La Ronde Suite
 a) piano
 b) bass
 c) vibes
 d) drums
4.The Quiin's Fancy
5.Delaunay's Dilemma
6.Autumn In New York
7.But Not For Me
8.Milano

Milt Jackson (vib)
John Lewis (p)
Percy Heath (b)
Kenny Clarke (ds)

Recorded in New York City;
1953/06/25
1954/12/23
1955/01/09

 - ジャズ