エコーズ・フロム・アフリカ/アブドゥーラ・イブラヒム(ダラー・ブランド)

   

「アフリカエッセンス」が薄まっている

特に1曲目に顕著だが、この力強いピアノの左手の反復を聴くたびに力が漲ってくる。

ダラー・ブランド(録音時はすでにイスラムに改宗し、アブダーラ・イブラヒムと名乗っていた)のピアノは、代表作『アフリカン・ピアノ』でも多く認められるところだが、左手によるシンプルなパターンのリフレインの上に、右手の和音、時にアタックの強いパーカッシヴな奏法という黄金の組み合わせが多い。

このシンプルだが印象的なリフレインは、しっかりと大地を踏みしめる力強さ彷彿とさせ、さらに、このアルバムでは大地に根っこを張るかのごときジョニー・ダニエルのベースがピアノを彩ることによってさらに、素朴さと骨太さを補強している。

それに加えて、彼ら二人による大地にコダマするかのごときヴォーカル。

素朴なアフリカの旋律がふわりと耳元を通り抜ける。

乾いたアフリカの広大な大地と太陽を感じる冒頭の1曲目。

スケールの大きな夕暮れとしみじみとした、しかし乾いた哀感にほろりとさせる2曲目。

しかし、特にバラード調のときが顕著なのだが、どうして彼のつむぎだす旋律には郷愁を感じてしまうのだろう。

この郷愁は、日本的な郷愁とはまた違った響き、旋律なのだが、どうしようもなく懐かしく感じる瞬間がある。

これは、結局、国境を越えた文化、風習、民俗固有の旋律や響きを超えた、土の香り、大地への本能的な回帰欲求が刺激されるからなのかもしれない。

このアルバムには収録されていないが、彼のオリジナル《ザ・マウンテン》などには、激しく日本的な湿り気情緒に触れる琴線が揺さぶられる(ちなみに《ザ・マウンテン》は、『ウォーター・フロム・エニシェント・ウェル』に収録されている)。

つまり、南アフリカ出身、アパルトヘイトによって国外追放になりつつも祖国への郷愁をピアノでつづり続けるピアノの吟遊詩人などといった予備知識などなくとも、おそらく多くの人は何の抵抗もなく、スッとこのアルバムの世界に入ってゆけるのではないだろうか?

彼の名作『グッド・ニュース・フロム・アフリカ』と同じ編成、同じテイストの音楽だが、いくぶん、こちらのほうが甘めな世界。

そのぶん、彼らの描きだす「分かりやすいアフリカの世界」にたやすく入ってゆけるのだろうが、『アフリカン・ピアノ』などと比較すれば、いくぶんアフリカ的濃厚なエッセンスは薄まっていると感ずるのは気のせいだろうか?

『グッド・ニュース・フロム・アフリカ』の録音からおよそ6年後、同じコンビによる同じテイストの演奏でも、歳月の経過とともに良く言えば洗練されとても聴きやすくなはっているが、悪く言えば出来上がった表現のフォーマットの中での予定調和な演奏と感じなくもないのが贅沢な欠点と言えるかもしれない。

記:2008/12/02

album data

ECHOES FROM AFRICA (Enja)
- Dollar Brand (Abdullah Ibrahim)

1.Namhanje
2.Lakutshonilanga
3.Saud
4.Zikr

Abdulah Ibrahim(p,vo)
Johny Dyani(b)

1979/09/07

 - ジャズ