ザ・キャッツ/トミー・フラナガン

   


The Cats

リーダーは「とりあえず」トミフラ

プレスティッジ・レーベルお得意の「ジャムセッション記録」的なアルバムだ。

リーダーは「とりあえず」トミー・フラナガンということになってはいるが、ここに参加しているコルトレーンたちジャズマンは、トミー・フラナガンが思い描く音楽を具現化するために集結し演奏したというわけではなく、まあなんとなくその場で出来る曲をやりましょうといった感じ。

とりあえずピアノトリオで演奏している曲もあるし、《エクリプソ》を作曲した張本人でもあるから、フラナガンがいちばんリーダーとして適格かな?という、それぐらいの理由で、トミフラ名義のアルバムとなっているという感じだ。

そこが、良くも悪くもプレスティッジというレーベルの良いところでもあり悪いところでもあるのだが、しっかりと録音日以外の日もリハーサルの日を設けるブルーノートとプレスティッジの大きな違いはここにあるのだろう。

打ち合わせ不足はいなめないが……

とはいえ、プレスティッジの全盛期は、モダンジャズ全盛期だったこともあり、いきの良いジャズマンが数多くいた。

たとえ現金日払いのギャラ目当てのレコーディングであっても、勢いのあるジャズマンたちが大勢いた時期のプレスティッジは、さほど「作りこみ」をせずとも、ジャズマンが気分まかせに演奏した音を録音してアルバムとしてまとめるだけでも、そこそこ以上のクオリティのものが出来上がってしまうことも多かったし、このアルバムのように、細かな「粗(あら)」は認められるものの、それを凌駕してしまうほどの演奏の勢いを有するアルバムが誕生してしまうこともある。

ここでいう細かな「粗」とは、テーマのアンサンブルや、各々のジャズマンの曲の理解、解釈といったところか。
あと1日、いや数時間でも曲を咀嚼しリハーサルをする余裕があれば、おそらくはコルトレーンもアイドリス・シュリーマンも、もう少し演奏する曲を吟味する余裕があっただろうし、テーマのアンサンブルもさらに充実したものとなっていたのではないだろうか。

特に、アイドリス・シュリーマンのアドリブは、トランペットの高音が、あてどもなく中空を彷徨っているように感じる瞬間があるし、コルトレーンは手癖で形にしてしまっているような箇所もある。

しかし、逆にいえば、それでも聴けるかたちとしてまとまってしまっているところが凄いといえば凄い。

もちろん、ケニー・バレル(g)やトミー・フラナガンをはじめとするコード楽器奏者の手堅いサポートや、ダグ・ワトキンス(b)やルイス・ヘイズ(ds)らリズムセクションの安定したサポートあっての賜物ではあるのだが、かえって随所に散見される悪く言えば「ツメの甘さ」のようなところですら、ハードバップ好きにとっては、たまらない魅力に感じてしまうのだから面白い。

プレスティッジ体質

うがった見方をすれば、プレスティッジの社長であるボブ・ワインストックは、このようなちょっとしたミスやトラブルまでをも「音楽」としてではなく「ドキュメント」として作品に封じ込めようという方針だったのではないかと思ってしまうほど。

ま、実際は、スタジオのレンタル時間がもったいないから、借りてる時間内にできるだけ多くの曲をレコーディングさせてしまおうというのがプレスティッジの方針だったようだけれども。

しかし、結果としてダラダラとした打ち合わせ時間が省略され、短い時間でジャズメン各々が演奏に集中することで、思わぬ良い面を引き出してしまう効果はあったのだろう。締め切り前にならないと、なかなか人間って「火事場の馬鹿力」を発揮しないからね。
もちろん時間不足ゆえ、良い面を引き出せないまま終わってしまうこともあったのかもしれないが、少なくとも、この「セッション」に終結したジャズマンたちはハードバップを代表する精鋭揃いといっても良い(アイドリス・シュリーマンのみ微妙だけど……)。

そして、多少の打ち合わせやリハ不足もなんのその、見事においしい出来ばえのハードバップが出来上がってしまった。

1950年代の中盤から後半の時代。すなわち「いわゆるモダンジャズ」の代名詞的響きともいえるハードバップが花開き、やがて衰退していく一歩手前の活力ある空気までもが封印されているかのように感じるアルバムだ。

記:2019/05/20

albumdata

THE CATS (Prestige)
- Tommy Flanagan

1.Minor Mishap
2.How Long Has This Been Going On?
3.Eclypso
4.Solacium
5.Tommy's Tune

Tommy Flanagan (p)
Idrees Sulieman (tp)
John Coltrane (ts)
Kenny Burrell (g)
Doug Watkins (b)
Louis Hayes (ds)

1957/04/18

YouTube

動画でもこのアルバムの解説をしています。

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