ミンガス・プレゼンツ・ミンガス/チャールス・ミンガス

   

4人のミンガス

この一体感は驚異。
音の圧縮感も圧巻。

たった4人でこのサウンドだ。

ミンガス以下、3人の精鋭ジャズマンがまるでミンガスの手・足・口となって「ミンガスという音楽」を作り上げているようだ。

というより、分身の術でミンガスが4人となり、4人のミンガスが自分の音楽を100パーセント理想的なカタチで具現しているかのようだ。

ダニー・リッチモンド

とくに、ドラムスのダニー・リッチモンドの貢献が大きい。

親分の意図を理解し、かつ親分の気分を瞬時に察知し、気持ち悪いほど親分・ミンガスのベースとピタリと一致したリズムコンビネーションを生みだす。

このアルバムの演奏に限ったことではないが、彼こそ、まさにミンガスの手足だ。

もし、ミンガスにもう2本ずつ手足が生えていれば、ダニー・リッチモンドのようなドラムを叩くに違いない。自分のベースにもっとも効果的に引き立たせてくれるドラミングだからだ。

録音直前にストライキがあったにもかかわらず

圧倒的な密集感、一体感を誇るグループ表現の本作ではあるが、『ジャズ・ホット』というジャズマンのインタビューを集めた本によると、じつは、このレコーディングの直前は、ちょっとしたイザコザがあったという。

首謀者はトランペットのテッド・カーソン。

ギャラの件に関しての抗議で、彼はドルフィーを誘い、ミンガスに対してレコーディングのストというカタチで抗議をしたということが記されている。

それにしても、そんなイザコザや行き違いなど微塵も感じさせないほどの見事に一致したアンサンブル、そして特に1曲目と4曲目における突進感は凄まじい。

ミンガスのリーダーとしての統率力な並々ならぬものがあるが(メンバーを殴ったりもするし)、4人という少人数編成を統率するだけではなく、それを超えたハプニング、そしてそのハプニングがもたらすインパクトまでをも計算に入れたかのごとくのバンドリーダーっぷりはやはり見事。

4人が4人以上の働きをしていることは言うまでもない。

アーカンソー州リトルロック事件の「主人公」、黒人差別主義者のフォーバス知事を皮肉り馬鹿にした《フォーバス知事の寓話》や、ミンガスのベースとドルフィーのバスクラリネットによる“楽器同士”の会話で有名なアルバムではあるが、「なるほど、この曲がそうか」と文字知識を音で確認して満足するだけではなく、このアルバム全編にみなぎる叩きつけるような音圧も、大音量で全身にビシビシと浴びて欲しい。

世評のオススメ曲ではない曲がオススメ

私からのオススメは、世評とは違うかもしれないが、1曲目《フォーク・フォームズ No.1》と、ラストの《汝の母、もしフロイトの妻なりせば》の2曲だ。

《フォーバス知事の寓話》の政治色と、《ホワット・ラブ》中のミンガスとドルフィーによる「音の会話」がなにかと取りざたされるアルバムではあるが、最初の何回かは切り口やアプローチの面白さに引きつけられるかもしれないが、だんだんクドさやシツコさが感じられるようになるのではないかと思う。

そう、このアルバムは話題の2曲を聴くためにあらず。

むしろ、《フォーク・フォームス No.1》と、《汝の母もしフロイトの妻なりせば》の2曲を聴くためにあるのだ。

この噴出するエネルギー、凝縮されまくった濃いアンサンブルはどうだ!
これぞミンガス・ミュージックの真骨頂。

余計な時事性や、演出はいらない。
アンサンブルの一体感から生み出される、圧倒的なエネルギー。

ミンガスが生み出す音楽は、聴き手をねじ伏せるだけの腕力を持っているということを思い知らされる演奏だ。

記:2003/06/26

album data

CHARLES MINGUS PRESENTS CHARLES MINGUS (Candid)
- Charles Mingus

1.Folk Forms,No.1
2.Original Faubus Fables
3.What Love
4.All The Things You Could Be By Now If Sigmund Freud's Wife Was Your Mother

Charles Mingus (b)
Ted Carson(tp)
Eric Dolphy(as,bcl)
Dannie Richmond (ds)

1960/10/20

 - ジャズ