モノラルの音がいいんです

   

yearphone

text:高良俊礼(Sounds Pal)

モノラル

最近「モノラルの音がいいな」と、妙に思ってしまう。

もちろん何万もする高価なオーディオ機材など持ち合わせてないことを、初めに断っておかねばならないが、何だかんだ無意識で選んでしまうのは、モノラル録音の音盤になっていることは事実なのだ。

ステレオ録音 モノラル録音

“モノラル”というのは、ステレオ誕生前の一般的な録音再生技術のことである。

何がどう違うのかということを、ものすごく極端かつ乱暴に説明すると、モノラルはスタジオにマイク一本だけ立てて録音したもので、ステレオはそれぞれの楽器や歌手にマイクを当てて録音したものだ(厳密に言えばもうちょっと色々あるのだが、ややこしくなるので省略)。

ステレオの利点は何といっても、音を分離できるというところにあるだろう。

音を分離できるということは、楽器の音や声のひとつひとつの位置関係をミックス・ダウンの作業の中で行えるということだ。

結果サウンドに奥行きが加わって臨場感が増す。

音響効果そのものを物理的に見れば、モノラルよりもステレオの方が断然優れているが、耳で聴いて心で感じる部分でステレオ録音がモノラル録音に勝っているかといえば、必ずしもそうではないから面白い。

アナログ・レコード

モノラルにはモノラルの“良いところ”がある。

特にアナログ・レコードで聴くとそれが特に分かる。

全ての音が真ん中にギュッと集まっているので、臨場感とはまた異なった種類の迫力と、妙な安心感を、モノラル録音のブツから感じるのだ。

その昔、CDで買ったアルバムを、どうしてもレコードで聴きたくなったことがあって、たまたま入った中古レコード屋さんで見つけたヨーロッパ盤のLPが手頃な値段だったので購入してみたことがあった。

スピーカーから音が出てきた瞬間に、言い知れぬ衝撃を覚えた。

その時の私の言葉で“モワッと感”と表現していたが、その音には凝縮された力強さがあった。綺麗に整理されたCD(ステレオ盤)とはまるで別物だ。

音楽仲間の先輩にその話をしたら「あぁ、モノラルは物によっては全然違うよ」と、その仕組みから何から丁寧に説明してもらったが、単純に「録音の違い」が、音の印象をどれだけ変えるかを、その時初めて実感させられた。

最後に、これは不思議なことだが、CDでもレコードでも、モノラルの音は長時間聴き続けても耳が疲れない。

何か深い理由はあるはずだが、今もって分からない。けれどもモノラル音を聴くと確かに心が穏やかになれるので、この頃はすっかりモノラル生活なのだ。

記:2014/09/13

text by

●高良俊礼(奄美のCD屋サウンズパル

※『奄美新聞』2011年5月14日「音庫知新かわら版」掲載記事を加筆修正

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