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ジャズと映画と本の日々:高野雲

ハードボイルドとしての『結婚できない男』

      2015/06/09

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glass_kanpai

先日、いつも行く西麻布のバーに行ってきました。

ボサノヴァが静かに流れ、会話を楽しめるお気に入りのバーです。

そこのママも私も今放映中の、阿部寛主演のドラマ『結婚できない男』(フジテレビ)に夢中でして、その話題でもちきりでした。

カウンターのレイアウトが、このドラマに出てくるバーと同じなんですよ。

で、私はその店のカウンターの指定席とでもいうべき位置があって、その場所ってアベちゃん(このドラマの主人公)のライバル建築家で、女たらしの金田が座る位置なのです(笑)。

「オレの座る位置、金田だよなぁ」

と呟くと、ママは大爆笑。

「そういえば、雲さん、毎回違う女性連れてきてるもんねー、ホント、金田みたい」

いや、それは違うんです。

べつに私は金田のように女性を口説きに連れてくるんじゃないのだよ、食事の後、気分よく会話を楽しめる店に移動しているだけなんだよー、それってママが一番よく知ってることじゃん。そんなこと見てりゃ分かるでしょ?
それに、毎回違うのは“たまたま”なだけで、どちらかというと一人で来ることのほうが多いじゃないデスか!?

「うそうそ、今のは冗談だって」

なんてことから話がはじまり、『結婚できない男』を肴に酒を4杯以上飲めたという(笑)。

それぐらい、色々な角度から語れる面白いドラマなわけですね。

単なる言葉の遊びですが、その日、私は、“ハードボイルドとしての『結婚できない男』論”と、“恋の自覚のない恋こそ新しい恋物語の恋愛模様論”をぶち上げ、1人でべらべら喋っていました。

とくに、このドラマの描写は、私はハードボイルドの文体を映像に移植した成功例だと思っています。

心情描写を極力拝し、行動面やモノへのこだわりから登場人物の嗜好、感情を浮き彫りにする手法。これはハードボイルドの基本ルールのようなもの。

北方謙三も折に触れてエッセイなどで語っているとおり、なにも拳銃や麻薬や暴力シーンがなくても、ハードボイルドは成立するし、むしろ私はそのようなハードボイルドのほうが好き。

初期の片岡義男とか、村上春樹のいくつかの作品とかね。

むしろ、大藪春彦や、初期の北方謙三のように暴力が前面に出てくるタイプのほうが苦手。

いや、苦手じゃないんだけど、読んでいる間は夢中になっているんだけれども、読了後、物語を反芻するとすごく荒唐無稽に感じてしまうことが多い。

登場人物の“生き方”を描くことがハードボイルドだとすれば、『結婚できない男』ほどハードボイルドなドラマはないです。

毎日、毎週繰り返される登場人物の習慣、行動パターン。

このドラマを2~3回見れば、なんとなく視聴者は阿部ちゃんの行動パターン、行動サイクルは把握できます。

この行動パターンの描写は執拗に毎週繰り返されますが、決して見てるほうはワンパターンだとは感じません。毎回微妙な差異があるからです。

家の近所の橋を渡るときも、手すりとポンポンと叩いて渡るときもあれば、スキップするように渡ることもある。あるいは、独特の猫背で歩幅狭く歩いて渡ることもある。

我々があらかじめ把握している生活パターンの中で取る行動も、微妙な差異を丹念に描くことで、主人公・アベちゃんの心模様が、言葉よりも雄弁に行動で語らせているのです。

だから、このドラマは1回見るよりも、2回見たほうがハマるし、2回目よりは3回目のほうがもっと面白く見れるのですね。

そして、多くの人が誤解しているであろうこと。

ハードボイルドは、決して強い男を描くものではない。

むしろ、出発点は「男の弱さ」だと私は考えます。

だからこそ、描かれるのは“強い男”ではなく“強くあろうとする男”なのです。

そして、必ずしも“強くあろうとする”必要もないと思い、男の弱さ、物悲しさが客観描写から滲み出ていれば、それは優れたハードボイルドだと私は考えます。

物語ではなく、生き様を描くものなのですから。

もちろん、物語が面白いに越したことはないですが、必ずしも起承転結のある優れたストーリーが必要というわけでもない。

これはジャズと同じ。

曲の良し悪しよりも、問われるのはジャズマンの演奏内容なのです。

演奏内容は、すなわち、ジャズマンの生き様の反映でもあり、それが曲を通して反映されればされるほど、優れたジャズというわけ。

そんな話をつらつらとカウンターで話していました。

ママのほうからは、先週放映の高島礼子の女心論。これには「なるほどね!」と思いました。
これに関してはまた機会があれば書きたいと思います。

記:2006/09/13

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