『デトロイト』試写レポート

      2021/02/23

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事件から50年

この「事件」が発生したのは、1967年。

場所はミシガン州デトロイト。
「事件」とは、デトロイト暴動の最中におこった「アルジェ・モーテル事件」だ。

暴動とは直接関係ない人々も白人警官の「犠牲」になっており、生き延びた人の中には、今なお、その日の一夜の出来事がトラウマになっている……。

あれから50年。
その「事件」から半世紀経った2017年にこの映画が作られた。

それにしても、ひどい事件だよなぁ。
どうヒドイのかは映画を観たほうが、リアルに「くる」でしょう。

全てとはいわないけれども、まだまだ白人(警官)は、黒人に対して強い人種差別の意識を持っていた時代(デトロイト警察の98パーセントの警官は白人だったという)。

複数人の死者が出た事件にもかかわらず、現場で事件に携わった警官全員が無罪ということからも、法廷もまだまだ白人優位の社会だったのだ。

デトロイトといえばモータウン

ちなみに、デトロイトといえば、音楽好きとしては、モータウンのサウンドが思い浮かぶ。
ソウルミュージックの名曲を次々と送り出し、数々のヒット曲を生みだしたレーベルだ。

モータウンといえば、小さく可愛かった頃のマイケル・ジャクソンがヴォーカルを務めていたジャクソン・ファイヴや、マーヴィン・ゲイ、そしてスティーヴィー・ワンダーを思い浮かべる人も多いだろう。

この映画にもモータウン所属のアーティストが登場するのかなと思いきや、モータウンのオーディションを受けるグループなら登場する。

ザ・ドラマティックスというヴォーカルグループなのだが、このグループは地元デトロイト出身ながらも、メンフィスのレーベル、スタックスと契約している。

The Best Of The Dramatics

1967年の例の事件、例の場所にはドラマティックスのメンバーもいて、そしてどうなったのかというと、……つづきは映画館で。

モータウンサウンド

モータウンについて、もう少し。

アルジェモーテル事件の前年の1966年には、モータウンは総収益2千万ドルをあげる一大レーベルに成長し、翌年になると創業者のベリー・ゴーディは、デトロイトのボストン・エディソン歴史地区に立派邸宅を構えるまでになっている(この邸宅は後に「モータウン・マンション」と呼ばれるようになった)。

従業員400人を超える一大レーベルとなったモータウン、たしかに映画でもモータウンのオーディションを受けることは、スターダムにのし上がることに等しいような描写になっている。

ちなみに、事件から4年後の1971年に、マーヴィン・ゲイの代表曲《ホワッツ・ゴーイン・オン》が収録されたアルバム『ホワッツ・ゴーイン・オン』を発表している。

What's Going on

私の中での、もっともモータウンっぽいサウンドは、グルーヴするベースにキラキラと輝くようなヴァイブの音色、そしてスウィートなファルセットが聞けるヴォーカルという3拍子が揃った、まさに『ホワッツ・ゴーイング・オン』のようなサウンドだったりする。

50年経つと、こうも違う

そうそう、それで思い出した。

1972年のマーヴィン・ゲイのライヴ動画がYouTubeにアップされているんだけど、これ、なかなか良いので、是非ご覧になってください。

ベース好きにしてみれば、動くジェームス・ジェマーソンが見れる貴重な映像でもあるが(本当に一本指奏法だ!)、当時の一般市民の黒人たちの映像が見れる点でも貴重な映像かもしれない。

《ホワッツ・ゴーイン・オン》の演奏に挿入されている70年代前半の黒人たちの映像の数々。
ちょっと色あせたカラーが時代を感じさせるが、なによりも、彼らの体型に注目。

皆、痩せてません?
細長い。

少なくとも、現代のアフロアメリカンとはずいぶん体型が違うように感じる。

昭和30年代や40年代の日本人の写真を見ると、21世紀の現代の日本人とは別な人種なんじゃないかと思うほど隔世の感があるのと同じような感触を受ける。

ちなみに、同時代の日本人の映像も見てみようか。

これは、1969年にバリケード封鎖された早稲田大学構内で行なわれた山下洋輔トリオの映像だが、ここに映る学生たちって、今の大学生とはまったく雰囲気が違う。
おっさん?って風貌の学生もたくさんいる。

ちなみに、このときの演奏の模様は麿赤児や立松和平らによって制作されたアルバム『ダンシング古事記』にも収録されているけれども、映像で見ると「時代」を感じてしまいますな~。

DANCING古事記

アメリカ人の風貌も、日本人の風貌も、50年近くも経てば随分と変化しているのだな。

だから、この映画の主要人物の一人、警備員のディスミュークスを演じるジョン・ボイエガも、当時だったら、マーヴィン・ゲイの映像に登場する人たちのように、もう少し細長かったのかもしれないね。
もっともジョン・ボイエガは英国人だけど。

アンソニー・マッキー

ちなみに、この映画で白人警官から酷い仕打ちを受ける黒人の一人に、退役軍人で元落下傘部隊だった兵士がいる。

精悍な風貌と肉体。
カッコ良いけど、このどこかで聞いたことがあるような経歴と、このルックスはどこかで見たことあるな~と思っていたら、なんだ、MARVELのヒーロー、ファルコン(サム・ウィルソン)じゃないの。

最初は、精悍なミルト・ジャクソンかと思ったけど(『プレンティ・ソウル』のジャケットのような)、

Plenty Plenty Soul

彼はアベンジャーズの一員として活躍するヒーローの一人。

そして、ファルコンを演じるアンソニー・マッキーも、映画『デトロイト』では、元落下傘部隊の兵士を8年間勤め上げた退役軍人というキャラで登場している。
明らかにオマージュですな。
しかし、なかなかカッコいいです。

アベンジャーズ好きも、『デトロイト』は要チェックだぞっ!

記:2017/12/16

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監督:キャスリン・ビグロー
脚本:マーク・ボール
音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
キャスト:ジョン・ボヤーガ、ウィル・ポールター、ジャック・レイナー、ベン・オトゥール、オースティン・エベール、ジョン・クラシンスキー、アルジー・スミス、アンソニー・マッキー、ジェイソン・ミッチェル、ジェイコブ・ラティモア、ハンナ・マリー、ケイトリン・デバー、ネイサン・デイビス・Jr.、ペイトン・アレックス・スミスリー、マルコム・デビッド・ケリー
製作年:2017年
製作国:アメリカ
上映時間:143分
映倫区分:G

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