風音/試写レポート

   

okinawa

鮮烈に「沖縄」を感じた。

島の空気、魚、蟹、蝶、ヤドカリ、ハブなど、島に生息する生き物はもちろんのこと、風、太陽、川、海などなど、もろもろの沖縄の息吹きをスクリーンの映像とサウンドから体感することができた。

おっと、忘れてはいけない、自然だけではなく、人間と、戦争。 いや、戦争というよりは戦争の爪跡、そして今なお島の人たちが抱くアメリカへの複雑な感情(これは上空をうるさく飛ぶヘリコプターの描写でより一層露わになる)。
これら4つの要素が等価に描き出されている映画だ。
そう、主人公は人間だけではないのだ。

舞台は、沖縄。強い海風が吹くと、不思議な悲しい呻き声のような音がこだまする「風音」の島。
この島の一週間が描かれている。

この「風音」の正体は、海辺の断崖の風葬場にある頭蓋骨。この頭蓋骨のこめかみには銃弾が貫通したため穴が開いている。このこめかみを海風が通り抜けるときに音が鳴る。
この頭蓋骨は、沖縄戦のときの特攻隊パイロットの亡骸なのだが、不思議な音色を奏でる「泣き御頭(うんかみ)」として、島の人々の守り神的な存在でもあった。

ある日、島の子供たちが、ちょっとした賭けをする。釣った魚を瓶に入れ、この瓶を「泣き御頭(うんかみ)」、すなわち頭蓋骨の隣に1週間置いたら、瓶の中の魚は生きているだろうかという賭けだ。
しかし、風の通り道でもある骸骨の隣に瓶を置いたことによって、この日からまったく「風音」がなくなる。

「風音」が止まった一週間の夏の日。この一週間におきた島の出来事。
夫の理不尽な暴力に耐えかね、子供を連れて実家に戻ってくる女。
沖縄戦で行方不明になった初恋の男の行方を探しに島へやってくる老女。
いつものように沖に出て銛漁をする老猟師(現地の本当の漁師が好演)。
この老漁師に育てられる、逞しくも優しい心を持った少年。
逃げた女房を追いかけ、島までやってくる男。
島に来たよそ者に対しては妙に警戒心を抱く島の人々。

それぞれの生き様、それぞれの生活。「風音」の無い一週間の微妙な変化と、ちょっとした事件。

これらの模様が島の自然と見事に調和して物語が進行してゆく。

ラストの漁師の行動で、ちょっと疑問に思ったこと。
ネタばれになるので、細かいいきさつは省くが、“あの万年筆”は、老女に還さずに、風葬場の亡骸の近くに埋めるべきだったのだろうか…?
観終わってからしばらくは、そのことばかり考えていた。

しかし、あれはあれで正解なのかもしれない。
「神」が「個人」に変わってしまうのだから。

バッハのアリアからジプシーバンドのサウンドまでと、大胆な選曲のセンスも良いと思った。

観た日:2004/04/13

movie data

製作年 : 2004年
製作国 : 日本
原作・脚本 : 目取真 俊
監督 : 東 陽一
出演 : 上間宗男、加藤治子、つみきみほ、光石研、北村三郎、吉田妙子、治谷文夫、細山田隆人、加藤未央、島袋朝也、伊集朝也 ほか
配給 : ジグロ
公開 : 2004年渋谷ユーロスペースにて夏休みロードショー、 テアトル新宿にて夏休みレイト・ロードショー

記:2004/05/11

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