カフェモンマルトル

text:高野雲

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初恋/試写レポート

      2015/05/25

hatsukoi(C)2006ギャガ・コミュニケーションズ

昨日、宮﨑あおい主演の映画、 『初恋』の試写会に行ってきました。

一言、い~映画でした。

日本犯罪史上最大のミステリー「3億円事件」の実行犯は、じつは女子高生だったという設定の、数年前に出版された、中原みすずの同名タイトルの小説の映画化です。

この原作を読んで、是非映画化されるなら主役をやりたいと思っていた宮﨑あおい。

さすがに熱のこもった演技でした。

小さい頃よりヨソの家に引き取られて育ち、笑顔も見せず、友達もいない、ちょっと暗めな女の子。彼女は、誰からも「必要だ」とか「おまえじゃないとダメなんだ」と言われたことがない。

だから、好きな男から「頼む、おまえにしか頼めないんだ」と言われた嬉しさ、そして少女の無垢な一途さが、現金輸送車の強奪までさせてしまうという。

その必要とされる理由が、

・女だから

・無免許だから

という警察の盲点を突く、たった二つの理由だったとしても、いままで自分が必要とされたことのなかった少女は、一言、「やる」 と引き受けてしまうのです。

残念ながら、私はこの事件の犯人については、一ツ橋説派なので「犯人は女子高生だった」説には賛同しかねる部分も多々あります。

しかし、ある事件をモチーフにして書かれたフィクション(たとえばフレデリック・フォーサイスの『ジャッカルの日』のような、現実の出来事とフィクションが織り交ぜられた作品)としては、まぁこんなハナシも面白くてイイんじゃないの? と思っています。

この作品のテーマは「乙女心とノスタルジー」だと私は思っているから。

「事件の真相が今明らかに!」というテーマではない。当時世間を騒がせた激動の時代の象徴ともいえる事件に、その時代の空気と揺れ動く不幸な生い立ちを織り交ぜた「近代時代劇」なのです。

今日び「上杉謙信は女だった」「織田信長も女だった。色恋沙汰が本能寺の変の原因」といった歴史小説も出ているぐらいだから、作者の妄想と想像がうまく歴史的事実に溶け合い、なおかつ私を楽しませてくれるのであれば、それはそれでイイんじゃないの? と私は受け取りましたし、実際楽しめました。

それに、「大義」のためではなく、あくまで「個」のためにドデカイことをやらかしちゃう主人公って大好きなんですよ。

佐々木譲の太平洋戦争3部作の主人公たちのようにね(『ベルリン飛行指令』のパイロット、『エトロフ発緊急電』の日系人スパイ、『ストックホルムの密使』のギャンブラーのように)。

なにより、この映画のテーマは、三億円事件そのものよりも、この事件がおきた昭和43年(オレが生まれた年だ)という、何かに突き動かされるような衝動が渦巻いていた時代と、そういう時代の空気の中に存在していた1人の少女の心の襞を丁寧に描き出すこと。

好きな男に必要とされた。ただそれだけの理由で、日本を騒がせた犯罪をやってのけちゃう、小っぽけでナイーブな少女の姿がいじらしく、そして「心の傷に時効はないのだから」という独白が泣かせます。

当時の新宿の町並みもリアルに再現されているのもいいですね。とはいえ、そのときのオレは生まれてないから比べたわけじゃないけど。

群馬に九州に、と、様々な地方都市で撮影したそうですようですね。

そのため、日本全国、60年代の新宿の雰囲気を残した街をロケハンしまくったそうですが、その成果は出ているんじゃないかと思います。

主人公と、仲間の溜まり場のジャズ喫茶ですが、当時の店って、会話が出来るほど小ボリュームだったっけ?というのがチラリと感じた疑問。ジャズ喫茶というよりは、ジャズバーって感じ。主人公グループ専用のVIP席のような場所が店の奥にもあるし。

でも、このような小さな「?」など取るに足らないこと。これは、とてもセンチメンタルな戀愛映画なのであります。

それにしても、最近の宮﨑あおい主演の映画にはアタリが多いなぁ。

『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』に『好きだ、』。

そして、『初恋』。

ラストの元ちとせの歌も泣けるよ(映像との相乗効果で)。

これは、なかなかオススメです。若い人は、是非、デートのコースに組み込みましょう。

観た日:2006/04/20

movie data

初恋
原作:中原みすず
監督:塙幸成
脚本:塙幸成、市川はるみ、鴨川哲郎
出演:宮﨑あおい、小出恵介、宮崎将、小嶺麗奈、柄本佑、青木崇高、松浦祐也、藤村俊二 ほか

記:2005/04/21

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