『もらとりあむタマ子』の主演は、前田敦子以外には考えられない

   

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「ブスッ」がファンにはツボだった?

AKB48時代から、前田敦子はあまり好きなメンバーではなかった。

その大きな原因は、彼女が見せる「不機嫌な表情」だったのではないかと今となっては思う。

バラエティ番組などで見せる、明らかに不機嫌さ丸出しの「ブスッ」とした表情。
作り笑いでもいいから、もっと笑顔を見せれば「アンチ」も減るのに、なんて思いながら見ていたものだけれども、「あっちゃんファン」は、この「ブスッ」としは表情を含めて、いや、「ブスッ」とした表情こそがツボだったのかもしれない。

不機嫌な前田敦子

しかし、この「ブスッ」とした表情や「声」がものすごくプラスの意味で作用している映画が『もらとりあむタマ子』なんだよね。
この映画の主人公・タマ子を自然に演じられるのは、前田敦子しかいないんじゃないかと思わせるほどのハマリ役なのだ。

とにかく、映画がはじまって最初の不機嫌な怒鳴り声「トイレっ!」から、もう「不機嫌な前田敦子」全開で、一気に映画の世界に引き込まれてしまう。

もちろん、大学を卒業した後、実家に帰省(寄生)しているダメ女というキャラクターの役作りをしていることは確実なんだけれども、あまりにも自然すぎて、「不機嫌な前田敦子」がイメージの中にある人にとっては、すっと自然に「不機嫌なタマ子」のキャラにスイッチしていけると思う。

女ジャイアン

このタマ子という女は、ダメダメ女もいいところで、一日中家の中で、ゲームをやるわ、マンガを読むわ、親父が作った飯をムスッとした顔で食うわと、いいところ、まったくなし。

また、高校野球の試合をテレビで見れば「このクソ暑いのによく野球なんかやるよね」と呟き、ニュースを見れば「ダメだな、日本は」と吐き捨てる。
「うわ~、イヤなヤツだなぁ、でも、いるいる、こんなヤツ!」と思わせてしまうのは、それだけ脚本にも演技にもリアリティがあるからなのだろう。

しかし、この徹底したダメダメっぷりは、かつて人気を博した『ホタルノヒカリ』の綾瀬はるかが演じる「干物女」のほうが、まだ清潔感と活力に溢れているほどだ。

それに対しての前田敦子のニートかつダメっぷりは、まるで床にベチョッと張り付いた濡れ雑巾のごとく。

しかも妙にフテブテしいところや、コスズルいところもあり、中学生の男の子を舎弟というかツカイッパ的に利用するところなど、まさに「女ジャイアン」もいいところだ。
あ、だから、トヨタのCMではジャイアンの妹のジャイ子を演じていたのか。

このような、しょーもないダメ女を自然に違和感なく演じてしまうのは、もちろん前田敦子の演技力もさることながら、我々が無意識に抱いているであろう「不機嫌女・前田敦子」のイメージがベースにあるからではあるまいか。

もしかしたら、そんなイメージをベースに持っているのって私だけ?

巧みな「間」と「時間」の描写

ま、それはそれとして、この映画を面白くスイスイと見れるポイントとして、「間」のうまさ、「時間経過」の描写が秀逸だということだ。

山下敦弘監督といえば、私は『リンダ リンダ リンダ』をかつて観賞したことがあるのだが、独特のタイム感の持ち主だなとういことは伝わってきた。しかし、映画そのものは、ラストのクライマックスまでに至るまでには、ちょっと間延びしすぎている感が強かった。

しかし、『もらとりあむタマ子』の場合は、もちろん独特な間合いや空気が流れる時間はあるにせよ、非常に心地よいテンポ感でサクサクと観ることが出来、いつの間にかラストシーンをむかえてしまう。特に大きな事件やイベントが起こらないにも関わらず、だ。

だからこそ、DVDで何回も観返してしまうという人が多いのではないのかな?

記:2014/10/16

movie data

監督:山下敦弘
脚本:向井康介
主題歌:星野源『季節』
出演:前田敦子、康すおん、伊東清矢、鈴木慶一、中村久美、富田靖子ほか

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