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ジャズと映画と本の日々:高野雲

誰も知らない/試写レポート

      2017/12/13

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jyutaku

時限爆弾

心の中に時限爆弾を仕掛けられた、と思った。

淡々とつづられるドキュメンタリータッチの静かな映像、それにかぶさるゴンチチの素朴なアコースティックギター。

淡々と続く2時間以上の映像で、もちろんラストのクライマックスやカタルシスといったものは無い。

よって、観終わった瞬間には、それなりの感慨はあったが、深く染みてはこなかった。

“時限爆弾”が静かに爆発したのは、じつに48時間以上の時間が経ってからだ。つまり『誰も知らない』を観てから2日後。

飲み屋でこの映画の話をしはじめたら、不意に淡々としたノスタルジックな映像とゴンチチの優しく素朴な3拍子のアコースティックギターの調べが蘇ってきて、留め止めもなく涙が零れ落ちそうになった。

この話は現実にあった事件が元になっている、だけども子供たちをそんな境遇に追いやった母役のYOUが絶妙なキャスティングのため何故か憎めないキャラクターで、淡々とした描写の積み重ねなんだけれども、この積み重ねが少しずつ心の温度を上げていって…、などと、脈絡なく語りだした口が止まらなくなっていた。

そして、もう一度最初からじっくりと観返したいという欲望が生まれてきた。

映画の内容は、一言で言ってしまうと、4人の子供が都会の中の2DKのアパートの中で人知れず生きてゆく様を描いたものだ。パンフレットには“漂流生活”と書いてある。

彼ら4人の子供には戸籍がない。

母親は一緒だが、父親はみな別々に存在する、いわゆる異父兄弟。全員戸籍がないから、学校に通うことも出来ない。学校に通えないどころか、長男以外の3人の子供はベランダに出ることすら許されていない。2DKのアパートに子供4人という大所帯な母子家庭ということが近所、とくに大家にバレないようにするために。

唯一の例外は、買い物に出かけ、料理を作る主婦的な役割を負わされた長男のみだ。

だから、長男をのぞいた3人の子たちの存在を大家は知らない。2DKのアパートに引越してくるときも、幼い2人は、トランクの中に詰めこまれて部屋の中に運び込まれていた。

ある日、母親はわずかな現金と短いメモを残し、兄に妹弟の世話を託して家を出ていってしまい、この日から、誰にも知られることのない(戸籍が無いので法的には存在しない)4人の子供たちだけの“漂流生活”が始まった。

長男の12歳の男の子は、なかなかしっかりしていて、一人で買い物に出かけ、晩飯を作り、妹弟たちに食べさせ、機転も利くし、頭もいい。

自分の置かれている状況と対処の仕方、そして外界(社会)との距離感をきっちりと心得ている。

そんな長男役の柳楽優弥は素晴らしい演技を終始こなしていた。

聡明さを証明するかのように大きく見開かれた目は、ほとんどまばたきをしない。私は、彼のまばたきをしない、逃げない、誠実で利発的な大きな目の虜になった。

あと、母親役のYOU。彼女の良い意味での空っぽさと、浮遊感のあるキャラクターが、どうしても憎めない、不思議な母親像を醸し出していた。

もし、もう少し重みのあるキャラクターの女優が母親役を演じていたら、この映画の重心やトーンはまったく違ったものになっていただろう。

ヒドイ母親には違いない。

しかし、考えようによっては、彼女に子供を孕ませて去っていった4人の男たちはもっとヒドイんじゃないかとも思う。

物語の前半で、1ヶ月の間、自分たちを置き去りにして大阪へ行き、ようやく帰ってきた母親が再び出ていくときに、勝手な行動をなじる長男に返す言葉が痛々しかった。

「あんたのお父さんのほうがよっぽど勝手じゃない。ひとりでいなくなって!」。

飄々とした母親から出た沈痛な心の叫びを垣間見る一瞬だった。

この映画は、1988年に実際に起きた「西巣鴨・子供4人置き去り事件」がモチーフとなっている。

この事件を知って以来、監督は映画を作ろうと思い立ったそうだ。10余年の年月を経て、最初は少年のモノローグ形式の脚本を作ったりもしたが、結局は今のような淡々とした描写を子供たちの目線で丁寧に追いかける映像に落ち着いた。

この声(モノローグ・ナレーション)の無い無言の映像メッセージには、監督の様々な思いが込められている。観終わったあと、この凝縮された思いが、観た者の心の中で爆発することだろう。

観終わった直後か、それとも数日後か、それとも数ヶ月後か、それは誰も知らない。

観た日:2004/04/20

DATA

製作年 : 2004年
製作国 : 日本
監督 : 是枝裕和
出演 : 柳楽優弥、北浦 愛、木村飛影、清水萌々子、韓 英恵、YOU、串田和美、岡本夕紀子、平泉 成、加瀬 亮、タテタカコ、木村 祐一、遠藤憲一、寺島 進
配給 : シネカノン
公開 : 銀座・渋谷などで2004年夏公開

記:2004/04/29

追記

先日、柳楽優弥君(14歳)が、カンヌ最優秀男優賞受賞した。

とても心に響いた映画だっただけあって、彼の受賞はとても嬉しい。

カンヌの男優賞の過去の最年少受賞は、個人では「ピアニスト」(01年)に主演した仏男優ブノワ・マジメルの27歳の記録を大幅に塗りかえた最年少記録だとか。いずれにしても、おめでとうございます!

記:2004/05/25

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