じゅーげん live in 六本木 2002/04/07 

      2021/02/10

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平成14年の4月7日、六本木のバックステージでライブをやった。

ギターとウッドベースのデュオだ。

ユニット名は「じゅーげん」。

お相手をしてくれたギタリスト氏は、大学時代のギターの先輩。名を「ブルース先輩」という。

私は大学時代はジャズ研に所属していたが、その時の先輩で、部員からは「ブルース先輩」と尊敬の念をこめて呼ばれていた。

すでに大学のサークル在籍時から「彼は一音たりとも間違えたことなど無い」、「ウマイのに謙虚で、大学時代の4年間、一度も自らのバンドを持とうとしなかった」、「おとなしいけど、酒を飲むと矢沢永吉に豹変するらしい」などと、様々なことを囁かれていた「伝説のギタリスト」だ。

なにしろ、当時から『401』や『1001』などのスタンダード集を少しずつ練習、消化していただけあって、最近では輸入モノの譜面にも手を出して、様々な曲を黙々と毎日練習しているほどの人なのだ。

一度、彼のお部屋にお邪魔したときに、壁際に並ぶ膨大な譜面集の一冊を手に取り、パラパラとページをめくったら、すべてのページに鉛筆での書き込みやメモが書かれていたので、本当に色々な曲を練習しまくっているんだなと感心したことがある。

「ブルース先輩」は、私と違って非常にデリケートで繊細な感性の持ち主だ。

3人でも、5人でも10人でもいいが、どんな人数でも、そのグループの中では一番目立たないタイプだ。

物静か。

とても謙虚で控えめ。そして、傷つきやすい。

だから、彼との付き合い方には細心の注意が必要となる。

ガラス細工の美術品を扱うような気持ちで接するぐらいが丁度良いと、私はいつも自分に言い聞かせている。

彼からしてみれば、私のようにガサツな人間など、のび太にとってのジャイアンのようなもので、いつも、「君と会うと、疲れるから半年は会いたくないよ。今日で半年分のエネルギーを消耗したよ」と言われてしまうのだ。

私としては、このような素晴らしいギタリストとは、たとえライブをやらないにせよ、コンスタントに音を合わせて精進を重ねたいと思っているのだが、半年に一度の頻度でしか会ってくれないのならば、仕方がない。

「そろそろ合わせてあげるよ」という先輩からの連絡を待ちわびるしかないのだ。

そして、ブルース先輩からの連絡は、忘れた頃にやってくる。

今回もそうだった。3月の末に突然メールで、「音を合わせよう」ときた。

せっかく合わせてくれるんだったら、ただ単に合わせるだけではなくて、ライブに持ち込んでしまおう。

そう思って、速攻でバックステージに連絡して、まずはライブの日程を押さえてしまった。

そして、じゃぁ、3週間後にライブをやることになったので宜しくお願いしますね、というふうな感じに持ち込んだ。

ライブで演奏する曲を決めなければならないので、一度だけ音合わせをした。

しかし、その音合わせをした場所が私の自宅なので、練習もそこそこ、酎ハイやビールを呑みながら、二人でジェーン・バーキンのDVDを観てヨダレをたらしたり、ドルフィーが参加しているミンガスのジャズ・ワークショップがオスロで行ったコンサートの映像を観ながら、トランペットのジョニー・コールズの表情をみながら「妖しい~!」と大爆笑したり、最近私がよく聴いているペーター・ヨハネソンというスウェーデンのドラマーのリーダー作を聴きながらニヤニヤしたりといったことばかりを繰り返し、肝心の音合わせはほとんどせずに(少しだけやったけど)、最後に曲を決めて、それでオシマイという感じだった。

あとは、本番のみ。

当日、リハーサルの時間をちょっと長めにとって、その時間を練習に当てればなんとかなるさ、と思った。

演奏曲は、私の希望と先輩の希望をちょうど半々に反映させるようなセレクションにした。

最近の先輩はバラードに凝っているらしく、候補に挙げてきたナンバーのほとんどがスタンダードのバラードだった。

私は相変わらずバラードが苦手なので、本番で先輩の足を引っ張らないよう、本番の一週間ぐらい前からは、一日に最低一回は先輩の選んだバラードの練習をするようにした。

当日の演奏曲は以下のとおり。

1.イージー・リヴィング
2.エミリー
3.リコーダ・ミー
4.ネフェルティティ
5.バークリー・スクエアのナイチンゲール
6.クール・ストラッティイン

《イージー・リヴィング》は、私の希望で。

ワーデル・グレイ、クリフォード・ブラウン、それにハンプトン・ホーズの名演で有名な曲だ。

メロディが美しい曲なので、是非やってみたかった。

なんか可愛い曲だねぇと言って、ブルース先輩はあっさり引き受けてくれた。

少しゆっくり目のテンポで淡々と演奏をこなした。

《エミリー》は、ブルース先輩の希望で。

ビル・エヴァンスの演奏で有名な、美しいワルツの曲。

人の選曲を可愛らしいと言っておきながら、先輩のほうが、もっと可愛らしい選曲をするではないか。

演奏しているこちらが照れてしまうほどの、クサいメロディの曲だが、やり甲斐のあるコード進行で、先輩は1コーラスしかアドリブを取っていないにもかかわらず、私は調子にのってソロを2コーラスとってしまった。

《リコーダ・ミー》。

メロディアスでスローな曲が多いので、少しメリハリをつけようということで真ん中に配置した曲。

これは、私の希望で。

大好きな曲なのだ。

《ブルー・ボサ》で有名なジョー・ヘンダーソンの『ページ・ワン』というアルバムに収録されている名曲でもある。

>>ページ・ワン/ジョー・ヘンダーソン

私は、《ブルー・ボサ》は嫌いではないが、いかんせん演奏し飽きたこともあり、《ブルー・ボサ》を裏返したようなメロディの《リコーダ・ミー》の魅力の虜になっているので、是非やってみたかった曲だ。

リハーサルでは、CTIのウエス・モンゴメリー風のソロを、オクターブ奏法でカッコ良くキメていた先輩だが、本番では、シングル・トーンのソロに終始した。

残念。

一瞬、演奏している場所を見失ってギクリとした。先輩のほうから、「間違えただろ?」という「気」が送られてきた。

先輩はすかさず、現在の自分が演奏している場所を示す分かりやすいメロディを弾いて、道に迷った私をうまくナヴィゲーションしてくれた。

そのお陰で、お客さんにはバレないように演奏を終えた(バレているかもしれないが)。

演奏が終わった瞬間、拍手に混じって「かっこいい!」という声が客席から聞こえてきたのを聞き逃さなかったぞ、へへへ。

《ネフェルティティ》は、お互いが冗談半分で今度演ろうねと言い合っていた曲。

こんなに難しくてミステリアスな曲、まさか本当に演るとは思わなかったが、今回演らないと、次はいつ演るか分からないので、挑戦することにした。

>>ネフェルティティ/マイルス・デイヴィス

私がアルコがテーマを取る。

そして、マイルスのアルバムに入っているオリジナル・バージョンと同様に、執拗にテーマを繰り返す。

先輩は、私のアルコにコードで伴奏をつけるだけ。

数コーラス弾いて、あまり長引かせずに演奏を終えた。

アルコのピッチが滅茶苦茶だったので反省。

《バークリー・スクエアのナイチンゲール》は、先輩からの提案で。

私はこの曲を聴くと、いつもエロール・ガーナーの名曲《ミスティ》を思い出してしまう。

実際、コード進行も《ミスティ》と似ているところがあるので、間違っても途中から《ミスティ》にならないように注意をしながら弾いた(私は時々そういうミスをすることがあり、例えば《アイル・クローズ・マイ・アイズ》の演奏中、途中から《コンファメーション》に変わってしまうなど)。

こちらの想像以上に、スローなテンポだったので、ちょっと面食らったが、なんとか無難にこなせたと思う。

ラストのブルース《クール・ストラッティン》は私の希望で、ラストにいれてもらった。

当初は《バグズ・グルーヴ》をやろうかなどと電話で話していたのだが、この曲のシンプルなテーマをギターとベースだけでこなすのは難しいと判断し、急遽、ソニー・クラークの名曲を演奏することにした。

>>クール・ストラッティン/ソニー・クラーク

ベースがテーマのメロディ、そしてアドリブを数コーラス取り、続いてギターが数コーラスのソロ、再びベースでソロを取り、ラストのテーマにつなげた。

この曲のみ、当日にやることを決めた曲なのだが、出来としては当日の演奏の中では一番良かったと思う。

さすがに、ブルース・ナンバーだけあって、こういう基本的なFのキーのブルースは、過去10年近く、練習でもライブでも必ず、そして、散々演ってきた音楽的フォーマットなので、お互いの息もバッチリだったのだろう。

やっぱり、ライブの中で最低一曲ぐらいはブルースを演らないと、気分的に落ち着かないし、気分が引き締まらない。

「ジャズを演っています」という割には、「じゃあ、とりあえずブルースを一曲演奏してみましょう」と言うと「ブルースは出来ません」という人も多いが、ブルースの一つも出来ないような人が「ジャズ演ってます」はないだろう、といつも私は思う。

ブルース知らなきゃセッションも満足に出来ないし、簡単だけど、実は奥深く、素晴らしい表現フォーマットのブルースを無視して、一体ジャズの何が出来るというのだろう。

初対面の人が知っているかどうかも分からない曲、思い入れがあることは良いことかもしれないが、自分が好きな曲だけを演っていて満足なのだろうか。広がりも発展も無いんじゃないかと思う。

「ジャズ演ってますが、ブルースは出来ません」は、「日本食は何でも食べますが、ご飯は苦手です」と言っているようなものだ。

一番大事でメインな部分がスッポリと抜け落ちているということ。

と、まぁ、これは余談。

ブルースを聴くのも演るのも好きな私にとっては、ブルース先輩と久々に素晴らしいブルースを演れてとても嬉しかったということ。

先ほど書いたように、そういう人たちが多かったがために、なかなか出来なかったブルースを久々に演れたという事実も、嬉しさに拍車がかかったのだと思う。

そんな、感じでライブは無事終わったが、最後にユニット名、「じゅーげん」の由来を。

ギターとベースの弦の数は全部で10本だから。

だから、「10弦」。

以上です。

記:2002/04/21(from「ベース馬鹿見参!」)
 

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