52丁目のチャーリー・パーカー/チャーリー・パーカー

   

デューク・ジョーダンのピアノ

マイルス自伝をひも解くと、ピアニストのデューク・ジョーダンについてはあまり良いことが書かれていない。

一時期、チャーリー・パーカーのコンボで一緒だったマイルスとジョーダン。

ジョーダンは、ライブ演奏中にパーカーが、あえてリズムの「裏」からアプローチして、数小節後に元に戻ろうとする「ズラし」的なフレーズを吹くと、それに乗せられて、ピアノのリズムも裏返ってしまっていたようだ。

いつも同じように引っかかってしまうので、ドラマーのマックス・ローチは、ドラムを叩きながら「裏返るな!」と怒鳴っていたようだし、マイルスもあまり自伝の中ではデューク・ジョーダンのことはあまり高く評価していない。

後にデューク・ジョーダンがブルーノートやスティープル・チェイスなどのレーベルから発表したリーダー作を聴くと、そんなにヒドいピアニストだとも思えないのだが、若かりし日に、チャーリー・パーカーやマックス・ローチといった、当時は最高の腕前を持った人達と共演していたわけだから、腕の未熟さが露呈してしまうのは仕方ないことだし、当時のマイルスとて、まだまだニューヨークに出てきたての若造。
腕のほうだって大したことはなかった。

ジミー・ネッパーの録音音源

チャーリー・パーカー、マックス・ローチ、デューク・ジョーダン、そしてマイルス・デイヴィス。

いったい彼らのコンボはどのような演奏をしていたのだろう?

『マイルス自伝』に書かれたエピソードを読むと、どうしても音を聴いてみたいという欲求に駆られるが、じつは、そのメンバーで演奏された音源は発売されている。

それが『52丁目のチャーリー・パーカー』だ。

演奏された場所はニューヨークのクラブ「スリー・デューセス」。

録音音源は、トロンボーン奏者のジミー・ネッパー(チャールス・ミンガスに殴られて前歯を折ったことで有名な人ですね)が録音していたものだ。

個人録音のためと、当時の録音技術の問題もあったためか、正直、音はかなり悪い。

曲によっては、演奏の途中でプチッ!と終わってしまっているものもある。

そんな状態なので、肝心のデューク・ジョーダンのピアノがあまり聴こえないんだよね。

速いテンポの曲にコンピングをつけるピアノのリズムのタイミングなどは、裏返っているのか、合っているのかなどを判別するのは、少なくとも私の拙い耳では不可能だ。

もっとも、そんな「あら探し目線」でこのアルバムの演奏を聴くのは勿体ない。

とにかく躍動感あふれるチャーリー・パーカーのアルトサックスを浴びるように堪能するほうが何倍もこのアルバムは楽しめる。

ベーシスト、トミー・ポッター

ジミー・ネッパーがマイクを置いた場所も関係あるのかもしれないが、トミー・ポッターのベースの音が非常によく聴こえるのが、この音源の良いところでもある。

一音一音の音の粒、輪郭が明瞭に聴き取れるので、ベース好きにはタマラン躍動感を味わうことが出来る。

《チュニジアの夜》のベースラインなどは、昔は音をトランスクリプトしてパクらせていただいたこともあります(笑)。

このノイズだらけの劣悪音質の中からも浮き出てくるベースの音と、粒立ちのハッキリとしたベースを聴けば、トミー・ポッターはいかに優れたベーシストだったかということがよく分かるのではないかと思う。

リーダー作も出していないし、当時のパウエルやブレイキーのアルバムには名を連ねてはいるものの、裏方的な存在の一人にしか認識していなかった人は、このアルバムを聴いてトミー・ポッターの魅力に目覚めよう。

小細工一切なし。巨木のように太い4ビートを送り出す彼の男っぷりは、まさしくベーシストの鑑だ。

音質

先ほどから何度もこの音源の音の悪さについて言及しているが、しかし戦前ブルースの音源が大好きな耳を持つ私からしてみれば、これぐらいの音の悪さは、まったくの許容範囲。

シャーというノイズは、52丁目の熱狂的なムードを彩る「お化粧」のようなものだと燃えば良い。

ノイズの向こうで飛翔するチャーリー・パーカーの奔放なアルトサックスを存分に堪能しようぞ。

記:2016/05/30

album data

BIRD ON 52ND STREET (Debut)
- Charlie Parker

1.52nd Street Theme
2.Shaw 'Nuff
3.Out of Nowhere
4.Hot House
5.This Time the Dream's on Me
6.A Night in Tunisia
7.My Old Flame
8.52nd Street Theme
9.The Way You Look Tonight
10.Out of Nowhere
11.Chasin' the Bird
12.This Time the Dreams's on Me
13.Dizzy at Atmosphere
14.How High the Moon
15.52nd Street Theme

Charlie Parker (as)
Miles Davis (tp)
Duke Jordan (p)
Tommy Potter (b)
Max Roach (ds)

1948/07/06

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