アット・ザ・カフェ・ボヘミア vol.1/アート・ブレイキー&ザ・ジャズメッセンジャーズ

      2021/12/09

聴きドコロだらけ

聴きドコロ満載のアルバムだ。

ジャズの熱気、スリル、エネルギー、そして良い意味でのアバウトさや、やっつけ的な勢いまでもが凝縮されている。

学生時代はよく聴いたし、聴くたびに新しい発見があって嬉しかった。

友人の部屋に置きっぱなしにしていたアルバムだったので、彼の家に泊まるたびに、このアルバムをかけていたし、今となっては、このアルバムをかけるたびに、聴きながら飲み食いしたビールとスナック菓子の味が甦ってくる。

細かい聴きドコロを挙げると、それこそ大変な量になってしまいそうなので、なるべく簡潔に私が好きなポイントを5つほど挙げてみたいと思う。

その1

ホレス・シルヴァーのピアノ。

二曲目の《ザ・テーマ》のピアノソロに痺れる。

私はこの曲のシルヴァーのソロがキッカケで、少しずつこのアルバムが好きになっていった。

ジャズのアルバムがまだ10枚にも満たない時期に買ったアルバムだったので、最初はこのアルバムを聴いてもチンプンカンプンだったのだ。

おまけに、一曲目の《ソフト・ウインズ》がゆったりと長尺の演奏なので、ジャズ初心者の当時の私にとっては、ちょっと退屈な演奏に感じた。もちろん、今はそんなことはないが。

《ソフト・ウインズ》の後に登場する急速テンポのこの曲は、ブレイキーの煽りまくるドラミングに乗って、ドーハムのトランペットが炸裂し、モブレイのまろやかなテナーが勢いよく流れる。

そして、シルヴァーのピアノソロ。

スピード感溢れるシングルトーンがカッコいい。

まるでジャズというよりはロックのようなフレーズと疾走感だ。

リズミカルでドライブしまくるこのピアノソロは今でも思い出すたびに熱い血がたぎる。

その2

3曲目の《マイナーズ・ホリデイ》。

壮絶な演奏だ。ブレイキーのドラムソロのイントロ、急速調のテンポにのって、魅力的なテーマが展開される。

ぜんぜん“クワイエット・ケニー”ではないケニー・ドーハムのラッパが炸裂。ピアノソロの後に再び登場するドーハムは、ブレイキーのドラムと二人だけの掛け合いを熱く演じる。

モブレイのテナー激しく、ただし澱みなく流れてゆく様も非常にスリリングだ。

ホレス・シルヴァーのピアノソロは、前の<ザ・テーマ>のソロと同じフレーズが随所に散りばめられているので、少しガックリくるが、演奏の勢いに乗っかってはいるので、細かいことには目をつぶりたい。

その3

ベースのダグ・ワトキンス。

メンバーの中では最年少の彼。アップテンポの長尺演奏が多いなか、太い音色とテンポキープを損なうことなく、よくぞくらいついた!というべき頑張りっぷりだ。

彼をフィーチャーした《ホワッツ・ニュー》で、ほっと一息。熱い演奏の熱気をクールダウン。

店内のざわめきも良いサウンド効果。

音数少ないベースの一音一音が染みてくる。良いムードだ。

その4

《プリンス・アルバート》。

ケニー・ドーハム作曲となっているが、これはスタンダードの《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》のコード進行の上に、別のメロディをのっけたもの。

この曲が大好きな、あるプロのジャズマンの話によると、ケニー・ドーハムが吹いた《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》のアドリヴがあまりにも素晴らしかったため、これがそのままテーマになってしまったとのこと。

同じような発想で作られた曲にチャーリー・パーカーの《バード・オブ・パラダイス》がある。これも《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》が叩き台となっている。

《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》という曲は、独特のコードチェンジと転調が施された曲だ。楽器をやっていない人でも、注意深く聴けば、曲の雰囲気が巧みに変わっていくことが分かると思う。

奇数小節で転調したりするので、このコード・チェンジにのっとったイキなアドリヴを演奏するのは意外と難しい。

だからこそ、バップ期のミュージシャンは、このイカしたコードチェンジの曲でカッコいいアドリヴをとり、同業者や聴衆に「どうだ、俺ってスゴいだろ!」と自分の腕をアピールしようとしたのだ。

メロディも美しいが、曲の構造的にもミュージシャン心をくすぐる曲でもあるようだ。

ベースラインを追いかければ、楽器に縁の無い人も、ジャズマンがよくやる曲の土台となるパターンがだんだん分かるようになってくると思う。

ブルース進行か、循環進行か、《チェロキー》や《ハニー・サックルローズ》といった定番曲なのか。

別に分析的に聴く必要はさらさらないが、聴いているうちに“雰囲気”、“流れ”の違いが無意識のうちに分かってくるものだ。

そして、分かってくると、ミュージシャンの資質や個性がより一層明確に感じられるようになる。各々のミュージシャンの持ち味が分かってくるということだ。

たとえば、同じブルースの演奏にしても、Aというジャズマンは非常にメロディアスに、Bというジャズマンはニュアンスを大事に吹いているなぁ、ということがオボロゲながらわかってくると、そのミュージシャンが「ブルース」に対してどのように考え、どのようにブルースを表現しようとしているのかが見えてくる。

“素材”とみなしている人もいれば、原曲の持ち味を大事にしている人もいる。こういうところに現れるジャズマンの表現や気質の違いを嗅ぎ取り、我々はジャズマンを好きになったり嫌いになったりするのだと思う。

かく言う私自身、ベースラインを聴いているうちに、この《プリンス・アルバート》の原曲が《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》だと分かったときは、鬼の首を取ったような気分になった(アホ)。

《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》のしっとりしたメロディが、やんちゃな感じもする“すっとこどっこい”でなかなか愛らしいメロディに生まれ変わっている《プリンス・アルバート》。

Bメロでラテンになるのもなんだか“お約束”っぽい気もしないではないが、このメロディにはピッタリの展開じゃないかと思う。

その5

アルバム冒頭のブレイキーのメンバー紹介。

ちょっとダミ声っぽい声で、丁寧に一人一人メンバーの紹介をしてゆく彼だが、ハンク・モブレーのことをハンク・“モブリー”、ダグ・ワトキンスのワトキンスをワッキンスと、見慣れたカタカナ表記とは違う発音をしているのが印象深い。

『バードランドの夜』のピー・ウィー・マーケットの特徴ある甲高い声で紹介する煽り調のMCではないが、いよいよこれから演奏が始まるぞ、と期待感がじわじわと高まる司会っぷりだ。

と、簡潔に書くつもりだったが、結局長くなってしまいました。

しかし、まだまだ聴きドコロ満載のアルバムです。

記:2003/03/02

album data

AT THE CAFE BOHEMIA vol.1 (Blue Note)
- Art Blakey (The Jazz Messengers)

1.Soft Winds
2.The Theme
3.Minor's Holiday
4.Alone Together
5.Prince Albert
6.Lady Bird
7.What's New
8.Decifering The Message

Art Blakey (ds)
Kenny Dorham (tp)
Hank Mobley (ts)
Horace Silver (p)
Doug Watkins (b)

1955/11/23

 - ジャズ