ジャケットの命は写真や絵などのビジュアル? いやいや文字も重要な要素なんですよ。

      2016/11/25

ブルーノート アルバム・カヴァー・アートブルーノート アルバム・カヴァー・アート

私の以前の仕事は、広告の制作と発注とディレクションだったので、様々なデザイナーと一緒に、様々な仕事をさせていただいた。

新聞広告、電車の中吊り、渋谷や原宿など繁華街や駅などの大型ボード…。

これらの広告媒体をキチンとデザインするには、かなりの実力がないと無理だ。

とくに、字を詰め込んで、なおかつキチンと読むに耐えうる雑誌の中吊りのようなレイアウトが出来るデザイナーは、多そうで少ない。

そして、私が仕事を依頼するべきか否かを判断する基準は、ビジュアル以前に、とにもかくにも、タイポグラフィがうまいかどうか、タイポグラフィのセンスがあるか無いか、だった。

もちろん、ロシアン・アヴァンギャルドやバウハウスなどが大好きな私だから、多少自分の趣味は入っているのかもしれないが、文字を使ったデザイン&レイアウトのセンスの有無が、デザイナーを選別する大切な判断基準だったのだ。

デザイン学校に通っている女の子と一時期仲が良かったこともあったが、彼女、いや彼女に限らず、学校の生徒たちが総じて面倒で、イヤな課題はタイポグラフィなのだという。

タイポは、一見、地味だが、如実にその人のセンスがバレてしまう恐ろしい分野でもあるのだ。
ある意味、天性の才能や性格によって大きく左右される分野といっても良い。

しかし、周囲を見渡すと、この地味な作業を黙々とこなし、基礎力をアップした人のほうが、デザイナーとして良い仕事をしていると思う。
ただ文字を趣味良く並べる程度のレベルじゃあ、まだまだ。

きちんと、文字を読み込み、文字の意味を考え、どう見せ、どう魅せるのかを自分なりに考えないといけないし、考えて文字を並べているか、考えないでレイアウトしているのかは、見る人が見れば一瞬でバレてしまう。

だからこそ、自分が書いた原稿の文字がどのようなデザインでアップされるのかがとても楽しみだったし、嬉しかったし、逆にウンザリでもあった。

そんな文字のレイアウトにうるさい私でも、ジャズのジャケットのタイポグラフィーには優れたデザインが多く、特にブルーノートの自由で柔軟な文字のレイアウトセンスにはいつも感心してしまう。

書体選びかたから、文字の大きさ、色使いのセンス、絶妙なレイアウトポイントなど、ジャケットを観賞しているだけでも、時間を経つのが忘れてしまうほど。

たとえば、『サムシン・エルス』の力強いゴシック体が、中央よりも右に、ガッシリと量端を揃えて固められている様など、ほんとシンプルで“目タコ”なんだけども、見れば見るほどため息が出てしまう。

有名な『クール・ストラッティン』は写真のほうが有名だが、なかなかどうして、まるで踊るように上下に踊る文字も、“気取って歩く”というタイトルのコンセプトを体現していて素晴らしい。

ホレス・パーランの『ハッピー・フレーム・オブ・マインド』のまるで丸い幾何学図形のような書体とレイアウトも、文字全体のカタチだけからもハッピーな雰囲気が漂っている。

リー・モーガンの『ランプローラー』なんかは、リー・モーガンという人の名前すら知らないで、ジャケットの捩れ文字を見ただけで買ってしまったジャケットだ。

などなど、たまたま今思いついたものを書いただけだが、本当はここには書ききれないほど、ブルーノートのジャケットは、優れたタイポグラフィの宝庫だと思う。

逆に、スティープル・チェイスのタイポはいまいちかな。

角版のジャズマンの写真が中央にペタンと張られ、その上下にセンター揃えで機械的に置かれているタイトルとジャズマンの名前。

なんだか定形フォーマットへのやっつけ仕事っぽくて、あまり好きになれないタイポだ。スティープル・チェイスは好きなレーベルなだけに、ジャケットのタイポがいまひとつなのは残念だ。

さて、私がもっとも好きな文字デザインのジャケットを1枚だけ挙げるとすると、あえてブルーノートを外して考えると、プレスティッジの『バグズ・グルーヴ』が好きだ。

黄色と緑の色合いも素晴らしいが、バランスよくレイアウトされたタイトルやパーソネルの文字がとにかくセンスが良い。

しかも、よく見ると、一文字一文字は機械的に配列されているだけではなく、微妙に不規則なんだよね。
この微妙に不規則な味わいと、全体的なまとまり具合が見事だと思う。

アンバランスそうなバランスなんて、まさにマイルス・デイヴィスとセロニアス・モンクの水と油のプレイが絶妙なバランスで成立しているようではないですか。

いつも、緊張感溢れるマイルスやモンクのプレイを聴きながら、じーっと眺めているレイアウトだ。
シンプルだけども、まったく飽きのこないデザイン。

うちにはレコードプレイヤーがないのでLPは持っていないけれども、もし安く売っていれば、ぜひレコードでも買っておきたいほどのジャケットデザインなのだ。

記:2004/07/19

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