バド・イン・パリ/バド・パウエル

   

グリフィン、バルネ。テナー奏者とのデュオが良い

10年以上前、ニューヨークの「タワーレコード」で購入した思い出深いパウエルのアルバムが、この『ショウ・ナフ(バド・イン・パリ)』だ。

ジャズの本場のニューヨークとはいえ、タワーにあるラインナップは、多少ヨーロッパ方面からの見慣れぬ輸入版もあるにはあったが、大まかに言ってしまえば東京の品揃えとほとんど変わらず、ジャズのバド・パウエルのコーナーに行っても、「あんまり日本と変わり映えしないラインナップだなぁ」と思ったものだ。

しかし、その中にも、初めて見たジャケットのものもいくつかあり、「お、これは未チェックだ!」という、ただそれだけの理由で購入したアルバムの一枚が、このアルバムだった。

同じデザインながらも、金色が下地のジャケットもあるということを後で知ることになるが、私がその時に買ったのは、バックの下地の色が少しだけ青の混ざった暗くて地味なジャーマン・グレイだ。

あまりパッとしない印象のジャケットではある。

しかも演奏のフォーマットも年代もバラバラで、寄せ集めの感が強い。

データを見ると、59年から60年にかけての録音が集中しているので、後期パウエルの演奏を中心に集めた内容だということは分かるが、ラストの3曲は、なぜか15年も遡った古い録音も入っている。

編集意図のよく分からないアルバムでもあるが、意外と内容は悪くない。

聴きどころは3つある。

一つは、ジョニー・グリフィンとのデュオの2曲。

一つは、バルネ・ウイランがテナーを吹くカルテット、《ニューヨークの秋》のパウエル。

もう一つは、《ジョンズ・アビィ》におけるケニー・クラークのブラシ。

まずは、グリフィンとのデュオ。

とにかく、グリフィンのテナーとパウエルのピアノのデュオの2曲はのっけから度肝を抜かされる。

強引なタッチと、いつもに増してヤバい声で時空に歪みを生じさせるパウエルの強烈なピアノに、トグロを巻くかのようなグリフィンのテナーが絡むという、なんとも異様な世界。

『ホット・ハウス』といったほかのアルバムでもパウエルとグリフィンとの共演は聴けるが、意外とこの二人の相性は良いと思う。腕力のある猛者同士の駆け引きは、両者一歩も退かず、それがかえって良い結果をもたらすのだ。

ブロブロと飛ばしまくるグリフィンのバックで、強烈に歪んだ和音を叩き下ろすパウエルのバッキングが、これまた異様な迫力。もちろん、そんなことお構いなしにマイペースで飛ばしまくるグリフィンにも男を感じる。

2番目の聴きどころは、なんといっても《ニューヨークの秋》だろう。

私はこの演奏のパウエルが好きだ。

メランコリックなバルネ・ウイランのテナーの後に登場するパウエルのピアノソロ。日没直前の夕焼けの強烈な輝きのように、凋落の一途を辿る彼のピアノ人生の最後の輝きを放つようなソロは、夕日の残照のように眩しく、儚く、涙を誘う。

もちろん、この録音はパウエルの最晩年のものではないし、この録音の後もパウエルはいくつかの名演を残しているので、この演奏が“パウエルの最後の輝き”というわけではない。

しかし、ピアニスト、バド・パウエルの浮き沈みの激しい人生を無意識に照らし合わせながら聴くと、聴き手としては余計な感情移入と物語を挟んでしまうものだ。

絶頂期の頃、ブルーノートに録音された、まるで厳しい冬のような《ニューヨークの秋》も良いが、暖かさとは裏腹に二度と秋が巡ってこないんじゃないかと思わせるこのバージョンのニューヨークの秋も捨てがたい。

3番目の聴きどころは、《ジョンズ・アビィ》のケニー・クラークのブラシ。ザクザクと気持ちが良い。

なぜか、このアルバムには録音日の違う《ジョンズ・アビィ》が3バージョン入っているが、1960年10月14日のバージョン、つまり曲で言うと7曲目のブラシが、生々しい。

これは、要するに録音のバランスの問題なだけで、ドラムの音が大きめにミックスされているだけの話なのだが、それでもマイクを近づければ、バシン!バシン!と異様な迫力でブラシをドラムに叩きつけられていることが分かる。

ケニー・クラークは凡庸なドラマーだと評されているようだが、このブラシを聴けば「誰だ、そんなこと言ったのは!?」だ。

他にもダレ気味の《コンファメーション》とか、テーマのメロディを弾く際に音の粒が揃わない《クロッシン・ザ・チャネル》(これもケニーのブラシが生々しい)など、マイナスの要因が逆に個人的な愛すべき聴きどころとなっている演奏も多々あるが、そのへんは一般的じゃないので割愛。

バド・パウエルはたしかに浮き沈みの激しいピアニストだが、“沈み”の部分でも、人の耳を引き寄せてやまない不思議な魅力を放つピアニストだ。

単純に“絶頂期”と“衰退期”とはっきりと真っ二つに区分の出来ないピアニストだということは言うまでもない。

記:2003/10/17

album data

SHAW NUFF (BUD IN PARIS) (Xanadu)
- Bud Powell

1.Idaho
2.Perdido
3.Shaw Nuff
4.Oleo
5.Autumn In New York
6.John's Abbey
7.John's Abbey
8.Butter Cup
9.Sweet And Lovely
10.Crossing The Channel
11.Confirmation
12.Get Happy
13.John's Abbey
14.Reverse The Charges
15.The Man I Love
16.September In The Rain

track 1-2
Bud Powell (p)
Johnny Griffin (ts)
Paris, 1960/02/14

track 3-6
Bud Powell (p)
Barney Wilen (ts)
Pierre Michelot (b)
Kenny Clark (ds)
Paris, 1959/12/12

track 7-10
Bud Powell (p)
Pierre Michelot (b)
Kenny Clark (ds)
Paris, 1960/10/14

track 11
Bud Powell (p)
Pierre Michelot (b)
Kenny Clark (ds)
Paris, 1960/06/15

track 14-16
Bud Powell (p)
Freddy Webster (tp)
Frank Socolow (ts)
Leonard Gaskin (b)
Irv Kluger (ds)
NYC, 1945/02/05

 - ジャズ