カフェモンマルトル

text:高野雲

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CHASM/坂本龍一

      2016/09/26

CHASMCHASM

坂本龍一の『CHASM』の季節になってきた。

冬が近づくと、なぜか毎日聴きたくなるアルバムのひとつで、毎年11月の中旬からiPodにはこのアルバムを入れて、これを聴きながら外を歩くことが多い。

なぜ冬なのかは自分でもよくわからないが、個人的にはアルバム全体の雰囲気に「冬」を感じるからだろう。

さらに、このアルバムはiPodで外を歩きながら聴くことのほうが多いということもある。

ひんやりとした外気と、アルバム全体がもつマインドに深く食い込んでくる攻撃性が、ちょうどうまい具合にリンクして、心の奥底をじくじくと刺激するからなのかもしれない。

そう、このアルバムは攻撃的なアルバムなのです。

それも、静かに攻撃的。

冒頭の韓国語ラップ入りの《undercooled》や、デヴィッド・シルヴィアン歌う《War&Peace》からはメロウで静謐なアルバムという印象を持ってしまうかもしれない。

しかし、表面的な音の荒々しさとは違ったレベルの攻撃性が全体に漂っているのだ。

私が好きな教授(坂本龍一)のアルバムに『B-2 unit』がある。

B-2 UnitB-2 Unit

こちらもアルバム全体に漂う攻撃性に心惹かれているのだが、こちらのほうは剥き出しの荒々しさだとすると、『CHASM』に感じるのは内省的な荒々しさ、攻撃性だ。

映画『アップルシード』に使用されたナンバー《Coro》を除けば、音のひとつひとつは、暴力的でも破壊的でもない。

しかし、音の組み合わせやストイックなたたずまいから感じられるのは、内側に秘めた戦闘的なマインド。

『CHASM』は21世紀版の『B-2 unit』だと個人的には思っている。

20代の教授が、成熟した50代になると、このような表現になるのね、とピタリとこの2つのアルバムを線で結ぶことができるのだ。

個人的に好きなナンバーを挙げるとすると……。

アルバム全曲通して1曲と認識してはいるので、曲単体を抽出して聴くということはほとんどないのだが、それでも、あえて個人的にお気に入りのナンバーを挙げるとすると、《Coro》《CHASM》《Ngo/Btmix》《+pantonal》《20 Msec.》《Lamento》となる。

いずれの曲も音の遠近感が素晴らしく、こちらの意識と想像力を刺激してくれるものばかり。

特に《Coro》のノイジーなリズムと、暴力的な荒々しさには、えもいわれぬ美しさすら感じる。

昔、リズムボックスに安もののエフェクターをたくさんつなげて、つまみを回しながら音をつぶしたり、位相をかえたりして遊んでいたものだが、そのときの「雑音」を思い出す。

もちろん私が自宅で愉しんでいた安物のリズムノイズではなく、《Coro》の耳障りさには、相応の奥行きや、不気味なヌメりと、それに相反する乾きが共存していて、とても音像処理がなされているわけだが。

今日の昼下がりも、よく晴れた横浜の空を見上げながら《Coro》を聴いていた。

ノイジーなリズムが、汚れた意識を浄化してくれた。

『B-2 unit』とともに、個人的には一生モノのアルバムだと感じているので、おそらく来年も冬が近づいてくると頻繁に聴くようになるのだろう(なぜか夏にはまったく聴く気がおきないのです)。

●教授自身による『CHASM』の解説⇒こちら

記:2012/12/26

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