ダウン・トゥ・アース/フレディ・ローチ

   

奔放ソウルフル

フレディ・ローチといえば、アイク・ケベック(ts)の有名盤、『春の如く』に参加したオルガン奏者で有名だ。

>>春の如く/アイク・ケベック

ケベックのバックでは、あくまでリーダーのテナーサックスを立てることに徹し、手堅いサポートをみせていたローチだが、ケベックが抜け、自らがリーダーとなると、サイドマンのときの控え目なプレイはどこへいったのやら、まるでタガが外れたかのような、奔放なプレイを繰り広げている。

まさに、ソウルフル!

このアルバムの演奏には、まさにこの言葉がシックリとくる。

楽しく笑える曲想

何を弾いても、ソウルテイストが溢れ出てしまうローチのオルガン。

ブルースフィーリング、ゴスペルフィーリングが、決壊したダムから噴出する川の水のように溢れ出ている。

それにしても、この人が書く曲には、失礼だけど笑っちゃう曲が多い。
いや、笑わないまでもハッピーなフィーリングに満たされた曲ばかり。

根っからの陽性、楽天家なのだろう、曲作りにおいては。

もしかしたらキャブ・キャロウェイのバンドに在籍していたというキャリアが、彼のエンターテイメントを育んだのかもしれない。

たとえば、《アーム・ミズ》のように、フレーズのリフレインがぐるぐると渦巻いているようなキャッチーなテーマは、なんじゃこりゃ。

「あははは、なんだこりゃ」と笑いつつも、妙に頭の中でメロディがトグロを巻き、頭から離れなくさせるのは、ズルい(笑)。

自然に身体が揺れ動いてしまう軽快なローチのオルガンと、ローチが作り出すハッピーなフィーリングに満ちあふれている楽曲。あまりにもピッタリとはまりすぎていて、このはまりっぷりもまた笑いを誘う要素の1つだ。

パーシー・フランスのB級臭

パーシー・フランスのテナーが、ローチのオルガンととても相性がいい。

ドン・ウィルカーソンを彷彿とさせる甘みの成分の多い彼のテナーは、決して楽器コントロールが巧みとは言いがたいが、B級臭をプンプンと漂わせた彼のテイストで、フレディ・ローチの描き出す世界をさらに分かりやすく補強する。

まるで、お笑いコンビのような絶妙なコンビネーションだ。

ローチ作曲のスットボケたフレーズを、無愛気味にパーシーが吹くと、さらに笑いの要素が増幅される。酔っぱらいのノタクリごとのような旋律をなに生真面目に吹いてるんだよと感じてしまうのだ。

ケニー・バレルも引きずられている?

ケニー・バレルのギターは、カツ丼の脇に添えられたタクアンや梅干しのように、クドさに陥る一歩手前の沈静効果的な役割を果たしているが、よく聴くと、ケニー・バレルも、ところどころで一歩間違えればB級臭を放つ一歩手前状態に陥っているところがおかしい。

やはり、ローチ=パーシーの世界に感化されてしまうものか。

とはいえ、すべての曲が楽しく砂糖菓子のような演奏なわけではなく、レイジーな《ルージョン》などは、アダルトな雰囲気が横溢しており、甘さと苦さのバランスが気持ち良い。

ヘンリー・マンジョーネの1曲

しかし、クレジットを見ると……、あ、この曲だけローチの曲じゃないのね。

作曲者は映画音楽の作曲者としては大御所のヘンリー・マンジョーネ。

なるほど、この曲のみ、アルバムの中ではムードが違う。

残りはすべてローチ作曲の演奏だが、ヘンリー・マンジョーネの曲が1曲加わったことによって、このアルバムに少しだけ重みと格調が加わった。

アルバムの流れの中においては、良い意味でのアクセントとなっている。

もしこの曲がなければ、アルバム全体が能天気で腰砕けなムードに覆われていたことだろう。

ローチ作曲のハッピーフィーリングの曲ばかり連続して聴くと、楽しさの副作用で頭の中がクルクルパーになってしまいそうだからね。

記:2007/12/24

album data

DOWN TO EARTH (Blue Note)
- Freddie Roach

1.De Bug
2.Ahm Miz
3.Lujon
4.Althea Soon
5.More Mileage
6.Lion Down

Freddie Roach (org)
Percy France (ts)
Kenny Burrell (g)
Clarence Johnston (ds)

1962/08/23

 - ジャズ