カフェモンマルトル

ジャズと映画とプラモの日々:高野雲

ハイランダー/爆風スランプ

      2018/08/16

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HIGHLANDER

世紀末の空気の中、堰を切ったような大爆笑

土地が高すぎて
東京では家は買えぬ
田舎に引っ込むしかないね

私が20代の半ばだった頃。
書店の店長や、マニアックな書店の常連客、そして出版社の営業マンたちが定期的に集う飲み会の二次会で、私が爆風スランプの《ハイランダー》の冒頭の一節を歌いはじめた瞬間、周囲が大爆笑の渦につつまれたことがある。

バブルはとうの昔に崩壊し、オウム真理教が地下鉄サリン事件を起こし、その少し前に大地震が神戸を中心とした近畿エリアを襲ったのが1995年。その翌年にはイギリスのチャールズ皇太子とダイアナ妃が離婚し、さらにその翌年、彼女はパリで交通事故死。同年、金正日が朝鮮労働党総書記に就任している。

私がカラオケで《ハイランダー》を歌ったのは、アルバムがリリースされて8年後の1996年だったと記憶している。

ノストラダムスの大予言に記された恐怖の大王がやってくる1999年まであと数年。
ダイナミックに移り変わる時代と、世間を揺さぶる天災、犯罪、相次ぐ世代交代……。不透明さを感じる社会情勢と、心の底からは信じてはいなかっただろうけれども、「もし人類が滅びるような天変地異があったらどうしよう?」という意識も心の片隅に1パーセントくらいは誰もが抱いていたに違いない90年代半ばの空気の中、サンプラザ中野(現在はサンプラザ中野くん)を真似て、仰々しくかつコミカルに「♪土地が高すぎて~」と私が歌いだしたものだから、その場に居合わせた本好きの人たちの心の経絡秘孔のどこかを強烈に突いたのだろう。私が1番を歌い終わるまで、周囲の爆笑は止むことはなかった。

さらに2番の「♪差別がひどくて黒人じゃ生きられない」なんて歌い始めたら、ゲラゲラ笑い続けていた人たちの爆笑っぷりがさらにヒートアップし、「黒人じゃ生きられない? めちゃくちゃアバウトな歌詞やな~」とその場のボルテージはさらに上昇。
ラストのサビの箇所の「♪君は机の上で・君はなにを学んで・君はいつか立派な会社に入る・そして死ぬ」では、「ちょっと社会科の知識を披露しただけで人生語ってるよ」と皆さん「面白れぇ」を連発。そしてシメの「なんにも知らない奴は可哀想だ・なんにも知らない奴はしあわせだな」に至っては、「まるで、学校で習っていないことを塾で先に習ってドヤ顔のガキみたいだな、そういうのクラスにいたわ」なんて感想が出る始末。相変わらず爆笑は止まらない。
私もなんだかよく分からないまま、もらい笑いを必死にこらえながら最後まで元気かつシリアス調で歌い終えたものだ。

この私が歌った《ハイランダー》という曲は、爆風スランプ5枚目のアルバム『ハイランダー』に収録されている。

勢いあふれるキャリア初期

『ハイランダー』というアルバムは、良くも悪くも爆風スランプの分岐点となるアルバムなのかもしれない。

私が好きな爆風のアルバムは、初期の『よい』と『しあわせ』の2枚だ。

やたら、ベースやドラムがフュージョンっぽいテクニカルさを前面に出しているのに、歌詞はいちいちコミカル、かつ毒がある。

もっとも「毒」といっても、肛門期を脱していない小学生が「うんこ、うんこ~!」といってギャハハハと笑うような露骨な子どもっぽいギャグが中心だ。

もちろん、彼らはわざとそのような子どものようなふりをしている。

無邪気な悪ガキのふりをして、東京タワーをぶっ壊せと叫んだり、美人を揶揄したり、同級生の女の子を家に呼んで押し倒してしまえと勢いづく童貞クンを活写したりと。

中高生の思春期の男の子が、親や学校の先生の前では言いにくいことが、ノリの良い歌に昇華されている。それがキャリア初期の彼らの芸風だった。

実際、私も高校時代は週刊『少年ジャンプ』の「ジャンプ放送局」経由で爆風スランプを知り、誰もが思っていることだけど、直接口にすることは憚られるような幼稚な内容を、勢いあるバンドの演奏で体現してくれていたので、ゲラゲラ笑いながら楽しく聞いていた。

たとえば《せたがやたがやせ》とかね。

本当、タイトルどおりベタな内容の歌なんだけど、当時、高校のクラスの中では、世田谷や練馬から通っているクラスメートは、「練馬ダイコン」といわれたり、世田谷は「田舎だよな~」などと言われていて、まあ悪意は全然ないんだけど、ビートたけしの「洗濯物が荒川区」じゃないけど、そういう雰囲気だったわけですよ、時代やクラスのムードが。
それを、おやじギャグのようなタイトルで「♪いつかこの町・田んぼにするぜ」などとワケのわからんことを真剣に歌う爆風スランプがカッコよくさえ思えてきたりしてね。

それから《美人天国》とかも、漫画のようなベタさだよね、♪チヤホヤしてよ私ほら美人、美人~って。

そういうコミカルな歌がある中、大感動の《大きなタマネギの下で》のようなナンバーもさりげなく混ぜているところが、このバンドの面白いところだなと思っていたわけですよ。

ベーシストだった江川ほーじんも、当時は「はひふへほーじん」とクレジットされていたりと、「この人たち楽しんでるな感」がすごく出ていた。

分岐点

ところが4枚目の『Jungle』あたりになってくると、次第におちゃらけた小学生チックなギャグが顔をひそめ、少々落ち着いたたたずまいになってきた。

おそらくメジャーになればなるほど、エッジが薄れ、最大公約数的な着地点に帰結するというのが、洋の東西を問わず、多くのバンドが辿る宿命なのだろう。

もちろん、だからといって彼らの持ち味が損なわれたわけではない。
落ち着いてきた、とでもいうのかな。
バンドのアンサンブルが安定感を増してきたこともある。

たとえば、『ハイランダー』の4曲目。シングルカットもされた《月光》という曲を例に取ると、同じラブソングでも、《大きなたまねぎ》よようなベタ&クサさが薄れている。
1歳か2歳ほど精神年齢が成長した《月光》や、メジャー感は抜群なんだけど「爆風流」の毒が抜けた《ひどく暑かった日のラヴソング》や《Runner》などが収録されているあたりも、従来の爆風とは異なるアルバムのテイストになっている。
シングルカットされた人気曲が多いにもかかわらず、ハジけたバカさ加減が希薄になってきているのだ。

もちろん、コミックバンドとしての側面を期待するファンが多いことも想定してはいたのだろう。
だからこそ、ぱっぱらー河合の《耳たぶ》や《目ん玉》をアルバムの最初と最後にはさむことによって、オールドファンを繋ぎとめていたのかもしれない。

このアルバム、あるいは前作あたりから、もう完全に安定感のある普通の日本語ポップロックバンドになってしまった感じがして、それ以降の爆風スランプのアルバムは熱心に聴かなくなってしまったが、そういった意味では『ハイランダー』が、私の中では、最後の爆風らしいアルバムだったといえるだろう。

このアルバムを最後にベーシストの江川ほーじんが脱退したことも、おそらくは路線チェンジとは無関係ではないんだろうね。

大げさチックで感動チック

とはいえ、私は《ハイランダー》は今でも大好きだ。

地価高騰やアパルトヘイトなど、小学生が社会科で習いたての知識を披露しているかのようで、しかも意味深に(心の底ではドヤ顔で)「何もしらない奴は可哀想だな」などと上から目線になるところなど、ある意味幼稚で、初期の幼稚っぽさを前面に出した歌詞ではあるけれども、パッパラー河合のギターがスティーヴ・ルカサーばりにベタにスケールのデカさを演出し、大げさなシンセサイザーのオーケストレーションでたたみかけてくるので、そのあたりのセンスは《ヒゲとボイン》のユニコーンにも通じるかなとも思っている。

「つぶやきレベル」の小市民的な内容を無駄にスケールでかく盛り上げる遊び心みたいなところがね。

でも、その大げさな盛り上がりは、わかっちゃいても感動チックでもあるので、やっぱり名曲だと思います《ハイランダー》は。

記:2018/08/12

album data

HIGH LANDER (CBS/Sony Records)
- 爆風スランプ

1.耳たぶ
2.ハイランダー
3.スパる
4.月光
5.Bitter Memories
6.ひどく暑かった日のラヴソング
7.穴があったら出たい
8.転校生は宇宙人
9.きのうのレジスタンス
10.Runner
11.THE BLUE BUS BLUES
12.目ん玉

サンプラザ中野 (vo)
パッパラー河合 (g)
江川ほーじん (el-b)
Newファンキー末吉 (ds)
ほか

Release:1988/11/02

 - 音楽